26-1 ハンバーグと来客
「どう? 似合う、かな?」
くるりと回れば若葉色のスカートはひらりと舞う。
ハニーブロンドの髪は三つ編みに編み込みシニヨン風にまとめられ、二色の魔石が埋め込まれた蝶の髪飾りが光を反射させキラリと光った。
膝下ほどまであるワンピースの裾は少し透けていて、所々鳥の刺繍がしてある。七分丈の袖もシフォン生地のようなもので作られていてふんわりとし、まるでお金持ちのお嬢様にでもなった気分だ。
どうしようもなくほころぶ顔に手をあてニヤニヤと照れたように笑えば、私を見ていた四人も満足気に笑った。
この服は四人が私の為に素材を選び、私の為だけに作ってもらったオーダーメイド衣装。
いつも美味しいご飯を有難うという気持ちからのプレゼントらしいのだ。
「リズエッタも女の子じゃからのぅ。 成人の儀くらいは可愛くせんと」
祖父の言葉にそうだとスヴェンは頷き、私の髪を撫でそれもいつも稼がせてもらっているお礼だと言う。私の髪に今にも羽ばたきそうになっている蝶の髪飾りはスヴェンからで、魔法は使えないが魔石ぐらい持ってても損はないだろうと言うことらしい。
こちらもまた精密な作りでお高かっただろうに。
「へへへ。 ありがと!」
くるりくるりと回って見せ、嬉しさを最大限に表す。
別にヒラヒラのスカートが好きなわけではない。むしろどちらかと言うと動きやすく汚れても良いズボンの方が好きだ。それは私が庭にこもって色々してるからだが、多分、祖父は女の子なのにって思いがあったのだろう。
故に成人の儀にとってつけてこのドレスを用意してくれたのだ。
泣きそうに潤む目をこすり、鼻をすすり、私は勢いをつけて祖父に抱きつく。
祖父は驚いて少しよろけるもそのガッチリとした体でわたしを抱きとめ、よかったと笑いながらぎゅっと抱きしめてくれて、アルノーも俺も! と叫んで私の背中を抱きしめた。
「おじぃちゃん、アルノー、大好きーー」
もちろん祖父、弟だけじゃない。
次にスヴェンに飛びつき、その次はレドに飛びつく。大好きと告げればスヴェンは当たり前のような顔をして、レドは照れながら頭をかいた。
私はとっても恵まれている。
「むふふーー! 今日は嬉しいからハンバーグにしよう! あとアスパラとキノコのソテー! オニオンスープもいいね! チーズたっぷり入れようか! あとはーー、張り切ってピザでも焼こう! お酒もジュースも好きなだけ飲むがいいっ!」
通常のご飯だったらお菜一品汁物一品、それプラスパンかご飯だか、今日の私はすこぶる機嫌がいい。
大好きな人達のために張り切って調理しよう!
汚してはいけないと一度着替え、支度に取り掛かる。祖父とスヴェンにお酒や飲み物を採りに庭に向かってもらい、レドには挽肉を作ってもらう。アルノーにはチーズと野菜の用意をしてもらい、私はその間にピザ用の生地を練り込む。本来なら発酵させた方がいいのかもしれないが、そんな時間はないので今回は発酵なしのクリスピー風で作ろう。
よくこね丸めた生地を薄く伸ばし、フォークで小さな穴を開けていく。そうしたら次に自家製トマトソースとソーセージ、バジルにチーズをのせて後は焼くだけ。しかしこっちには石窯はないのでアルノーにバトンタッチし、庭まで行って焼いてきてもらう。
アルノーがいなくなったことで料理を作る人数が一人減ってしまったが全く問題はない。
だって私にはレドが付いているもの。
「レド、ミンチに出来た?」
「出来てやす!」
聞いた時には既に終わっていたようで、レドは次の作業に入る準備をしている。
その姿に感心しながら次はソテーをお願いとアスパラとキノコを渡し、私は挽肉に卵と生パン粉をひたすら混ぜる。
この作業だけはレドにさせるわけはいかないので、基本的にこねる、まぜるは私の役割だ。さすがにフサフサのおててでやらせるわけにはいくまい。
混ぜた後はそれを人数掛ける二等分にわけて丸め、空気を抜いて真ん中を凹ませる。人数分以上作るのは私以外はお代わりをして当たり前で、でもみんなが同じ数じゃないと揉める事があるためだ。そのため一応私の分も二個用意する必要があり、食べきれなかったらそれを四当分する始末だ。
「んじゃ、焼きますか」
大きめなフライパンに油を流し入れ温まったらお肉を入れて強火で焼いていく。片面に焦げ目がついたら裏返し、薪を隣のかまどに移して火力を弱めたらフタ(はないので代わりに大皿)を乗せゆっくり火を通す。
その間に玉ねぎを薄く切って十分ほど炒め、自家製ブイヨンを加えてひたすら煮込む。本当は飴色になるまでじっくり炒めたいものの時間がないのでもう煮込むが、しゃりしゃりする玉ねぎは嫌なので食べるギリギリまで煮込む。
「お嬢、焼いちまってもいいっすかね?」
「おけー! 焼いちゃってぇ!」
私がハンバーグとスープだけを作っているのはレドが普通に料理ができるからだ。
祖父やスヴェンはやる気すらなく、アルノーは手伝ってくれるが味付けまではしない。
アルノー曰く味付けは自信がない、らしい。
そのためか味付けを含めた料理を出来るようになったのはレドのみで、最近はちょくちょく料理の味付けまで任せるようになったのだ。
バターとガーリックの香りと、アスパラとキノコのジュウジュウと焼ける音。
レドは目分量で塩と胡椒をかけいれペロリと味見をする。少し考えるそぶりを見せるともう一度胡椒を振り入れた。
「美味しく出来た?」
「ーー多分?」
ヘラリと笑うレドの頭を撫でお皿の準備を頼み、私は最後の仕事に取り掛かる。
深皿にオニオンスープとチーズをいれ、以前精霊にもらった火の花を近づけた。
チーズはその花の熱でトロトロに溶けていき、火に接したところは少しずつ焦げていきチーズの香ばしい匂いが辺りに充満していく。
「ーー美味そうな匂いしてるなぁ」
「あ、おかえりー! 今ハンバーグ焼いてるから飲み物用意して待ってて」
両腕いっぱいに酒の実を持ったスヴェンはスンスンと鼻を鳴らし、ついでにお腹も鳴らした。
腹減ったと笑いながら実を絞り酒を用意し、作りたてのオニオンスープもテーブルに運んでいく。
私はレドが作ったソテーを乗せた皿の上にハンバーグをのせていき、余った肉汁にケチャップ、醤油、スパイスを加えてハンバーグソースを作った。そのトロリとしたそのソースをハンバーグの上にかければ完成だ。
後は祖父とアルノーがピザを持って帰ってくればいいだけなのだが、その間に作り置きしてあるピクルスと切っただけのフルーツ、パイナップルと林檎、苺や葡萄を炭酸水で混ぜたフルーテポンチをテーブルに準備した。
「さぁて! 後はピザだけだね!」
小皿やスプーンやフォークを用意し席に着き、まだかまだかと三人で待っていれば眉間に皺を寄せた祖父が勢いよく扉をあけ、レドの手を引き奥の部屋に連れていく。
「なんなのお爺ちゃん! ご飯なのに!」
その勢いに驚きながら祖父の後に続きどうしたのかと問えば、とりあえずこの部屋に居なさいときつく言われ、後からきたアルノーも部屋に連れ込まれ私達三人は唖然と顔を見つめあった。訳もわからずぽかんと口を開けていたが、ご飯を邪魔をされた怒りがフツフツと煮えたぎってきたのである。
「何かあったの?」
「……知らない人がいた。 多分その人のせいかも」
「ここにいろってことはよくないことなんすかね?」
「ーーーーとりあえず壁に耳あてて盗み聞きしてよう」
ボロ屋なうちは壁は薄い。
そしてレドは耳がいいから盗み聞きし放題だろう。
折角温かいうちに食べようとした夕食を邪魔したのは誰だと耳を済ませれば、知りたくもなかった人の名前が聞こえてきた。
「私はガリレオ・バーベイル。 知らぬわけではなかろう?」
”ガリレオ・バーベイル”
この地を治める領主様だ。
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