000 退屈な神の遊び
神は退屈だった。
科学が発展した世界も、魔法が発展した世界も、人間が支配する世界も、亜人が支配する世界も、神に従順な世界も、作った世界が全て似たり寄ったりの世界だったのだ。
ある日神は一つの世界の一冊の書物を手に取った。
それは一人の若者が異なる世界へ転生し、勇者になるという空想の物語。
暇で暇で仕方がなかった神はその書物に則り、一人の青年に膨大な力を授け異なる世界へと送り込んだ。
転生した青年はまるで書物の主人公のように育ち、ついには人々の敵であったドラゴンさえも討ち取ったその喜劇に。思わず笑みを浮かべずにいられない。
神はそれから他世界へ老若男女構わず送り込むことにした。
そして彼女もまた、運悪く転生させられた人間の一人である。
「私の誤りでお前は死んだ。故に異なる世界での生を与えよう」
しかしながら彼女は他の人間とは少し異なり、その言葉を直ぐに受け止めやしなかった。
「神など存在しない!」
そう彼女は叫び、彼女は語る。
目から鼻から体液垂れ流しにする彼女がいうに、自分が不幸なのだから神はいないのだと。
もし神がいたのならば平等な世界だったはず! そして神ならば私を生かすも殺すも神次第! 故にお前の誤りで私が死んだのならば、お前は神ではない!
全くもって、自己中心的で、神に対して信仰心など無い人間が彼女だった。
三十半ばで飯が不味い事を理由に男に捨てられ、酔い潰れ、その腹いせに遺書を残し屋上からの紐なしバンジー。
そして神と名乗った神に向い偽物扱い。神が呆れるほど馬鹿だった。
そのつまらない言い草に最初こそ異世界に飛ばす事をやめようかと思った神だったが、彼女の言葉でその考えを改めた。
「生まれ変わったら料理上手になりたい!」
権力でも美貌でも無いその言葉に、神は驚いた。
「何故そのようなモノを望む? 世界を統べる力が欲しくないのか? 万人に好かれる容姿がほしくないのか? 今ならどんな力でもお前に与えてやれるというのに」
そんな神の言葉に鼻水だらけの顔を左右に振り、そんなモノを貰ってもどうもならないと叫んだ。
「生まれ変わろうが私は私! このクソみたいな性格は変わりゃしない! 世界を統べることが出来ても裏切られる事が目に見えている!美人になろうがメシマズならどうせまた捨てられる! だが美味い飯を作れればこんな惨めな思いはしなくてすむんだ! もしお前が神なら私に飯に関する全ての”力”をよこせこの野郎!! そしてウハウハに生きてやる!」
酔い潰れ泣き叫ぶ女に、えずき、汚らしく吐き出す女に神はほくそ笑んで己の力の一部を譲渡し、彼女が望まない強大な力さえも授けた。
そしてタチの悪い一つの思想を神は思いついた。
「さあ行け。無様に足掻いて生きてみよ。食の力がどれ程偉大なのか、私に見せてみよ」
頷きもしない彼女を他世界へ落としまた神は、誰もいないその空間で嘲笑い、そしてさらに呟いた。
”駒をつくり、示してみよ”
その言葉は彼女に届いたかは定かではないが、神は他の誰かでは無い彼女に目を向け、そして今でも彼女の生き様を見つめている。
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