第四楽章(6)

 その頃、地球からはるか7300万キロほど離れた宇宙をさまよっていた名もない彗星群に異変が起こった。近くにあった大惑星の引力の影響を受けてか、無数の岩塊のうちのいくつかが、周回軌道から引き離された。そして、そのとてつもなく大きな惑星へと向かって、我先にと突進していった。やがて彗星のかけらたちは、細長い尾を引きながら、次々にその大きな星へと吸い込まれていった。まるで何事もなかったかのように、太陽系最大の惑星はそれらを飲み込んだ。


 同じ頃、浅い眠りの中で、間宮はアフロディーテと再会を果たしていた。


 ----------アフロディーテは海辺に立っていた。見渡す限り、他にはだれもいなかった。寄せては返す波に、彼女は膝元まで濡れている。間宮の姿に気が付くと、アフロディーテは謎めいた笑みを浮かべ、手招きをした。裸足で駆け寄る間宮は、熱い砂の感触を足の裏に感じた。

 アフロディーテは両手を広げて間宮を迎えた。間宮がアフロディーテに抱き付くと、勢い余ってふたりは波間へと倒れ込んだ。そのままふたりはしっかりと抱き合った。愛の言葉が際限なく口をついて出てくる。その互いのささやきを波音がかき消す。濡れた砂浜で、ふたりはひとつに交わった。もう間宮には、夢と現実の区別がつかなかった。いや、間宮にとっては、すでに夢が現実だった。どちらでも構わない、ただこの瞬間が永遠に続けばいいと、間宮は願った。やがて、一際大きな波が岩場に砕け、白いしぶきが散った。


「嬉しいわ」

 熱い吐息に混じって、アフロディーテが耳もとでささやいた。


「あなたはようやく気付いてくれた。私が夢の中の幻影じゃないってことに」


「アフロディーテ、やっぱり君は……」


「あなたを解き放ってあげたいの。あなたがとらわれているその狭い世界から……」


「ぼくの世界?」


「あなたは気付いていないの。本当のあなたはもっと自由だってことに……」


「自由……?」


「そう、何も心配することはないわ。私を信じて……」

 そう言うと、アフロディーテは身体を起こし、すっと立ち上がった。


「どこへ行くの?」

 間宮を残したまま、ひとり立ち去ろうとするアフロディーテに尋ねた。彼女は無言で歩きはじめた。その背中に間宮は再び問う。


「今度はいつ会える?」


「すぐに戻ってくるわ」振り返って答えるアフロディーテ。


「すぐって?」


「もうあなたを待たせはしない。すぐに迎えにいくから……」と、アフロディーテは謎めいた笑みを浮かべた。間宮は言葉にはならないほどの喜びで満たされた。そして、そのまま深い眠りへと沈んでいった。

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