謎めいた香の存在感が際立っている。
戦後間もない頃であれば、まだまだ親の意向によって見ず知らずの男性との結婚を強いられることは、ままあったでしょう。とすれば、香の取った行為は、自らの愛情の永続を願ってのものだったのでしょうか。
そこをまさに香らせながら物語は意外な方向に転がり出します。この転がり方のキュートさと奇抜さが、おぼろさんの持ち味ですね。
風吹くや隠れ顔なる乙女椿 (楠本憲吉)
乙女椿はまじまじとは見られない魅惑があって、本作にもその設定が生きていると思います。
ちなみに作中に話が出てくる親指姫って、最後に幸せになりますが、それまで出会ったヒキガエルやコガネムシたちを踏みつけ犠牲にしているという批判がありますね。香もそうなのでしょうか。
それから、椿はふつう枯れる前に落ちますが(落ち椿)、乙女椿は落ちずに枯れると言われます。香と玲子は枯れていても、まだ落ちていないのかも知れませんね。