第15話 絶対王者は『初めて』に挑む(Plan(計画))

「なぁ、伊織いおり

『なんだ、珍しいなこんな夜遅くに。妹の話か? それとも新キャラか?』

「後者だ」


 晩飯を食べた後、侑李ゆうりは伊織に再びアドバイスを求めるべく通話していた。今度は愛する妹のことではない、と伝えて。


『その声のトーン……。本当みたいだな』

「どの声だよ」

『至って真剣な真顔で言ってそうな、大好きな妹への雑念が全く感じられない声だ』

「……どんなのかよく分からんが、本当だ」

『よろしい』


 それだけ言って、伊織は本題に移るべく話を進めた。


『それで? 今度は何だ?』

「あのさ……、お、女の子の家に入る時ってどうすればいいんだ?」

『あー、なんだそんなことかー。そうだなぁ、女の子の家に……、って、ええっ!!?』


 平然とした様子で答えようとしたが、あまり相談内容が侑李らしく無く。伊織は声を荒らげて問い詰めた。


『おい! どういうことだ、お前!! 歳下の女の子って、彼女か!? ついにお前も俺みたいに──』

「待て! 違う!! あと、キミと一緒にだけはしないでくれ!!」

『じゃあ何だよ!? お前を家に呼ぶ異性って、彼女じゃなきゃ何なんだよ!!』


 今朝、校長に言ったように──仲のいい男女関係です、なんて言葉は通用しない。

 仲のいい友達の家に行くくらい至極当たり前なのだが、その友達が異性とわかればすぐこのザマだ。特に霧谷伊織きりがやいおりはそういう話にグイグイ食いついてくる。

 もういっそ、この男にも秘密を教えてやりたいと、侑李は思ったのだが──。


「……別に、何でもいいだろ?」


 とりあえず、強引に押し切った。


『……怪しい』


 だがそれでも伊織が食い下がらないので、冷めた声で侑李は脅しをかけた。


「これ以上探るようなら縁を切るぞ」

『そ、そこまでしなくても!』

「いつかは教えてやるから。とりあえず詮索は無しだ。いいな?」

『……そこまで言うならわかった。悪かった。でも希望がありそうだから、俺の中では『ワンチャン脈アリ少女』と称させてくれ』

「勝手にしろ。それで、僕はどうすればいいか教えてくれないか? 恋愛マスターさんよ」


 伊織の言葉を軽く受け流し、本題へ。

 軽薄な見た目な伊織だが、女性との付き合いはしっかりしている。


『れ、恋愛マスター? この俺が!? いやぁ褒めるのが得意だなぁ。お前のそういうところに好感持てるんだよなぁ~』


 侑李からのお褒めの言葉に伊織のニヤニヤが止まらない。

 その上機嫌を保ったまま、伊織は侑李にアドバイスをしようとした。


『まずはだなぁ……』

「待った。メモを取らせてくれ」

『……って、ガチかよ』

「大事なことにはメモをとれ、と習わなかったのか? ロリコン」

『いや、そうだけどよ……。てか、ロリコンは関係無いだろ! このシス──』

「そういうのいいから。早く本題に移ろう」

『ぐっ……、ムカつく。これだからこのシスコンはぁ……』


 あーもうわかったよ、と言って、伊織はウンザリしながらも話してくれた。


『いいか? まずは褒めろ。お世辞じゃないぞ? 部屋に入ってから何でもいいからマジで褒めろ??』

「……褒める、か。やはり有効な一手なのか?」

『もちろん。人間、褒められると嬉しいもんだからな。まぁ、その辺お前がどう思ってるか知らんけど』


 きっぱりと言い張る伊織の言葉を信じて、侑李は伊織の言葉を信じてメモをとった。


『あと、挙動不審になるな。興味が湧く気持ちはわかるが、落ち着け。相手によってはドン引きされるぞ?』

「ドン引きされる、か……」


 ──あの、先輩。舐め回すように私の部屋眺めるの止めてくれませんか? 正直言ってキモいです。


「……確かに」


 千尋の言いそうなセリフが頭に浮かび、侑李はすぐに納得。またメモ帳に書き記した。


「それで、他には?」


 そう聞くと、伊織は『あー』と言ってしばらく考えて──


『あとは……。エッチな本は探すなよ?』

「ん?」


 女の子の部屋で? エッチな本を探すな?

 よくわからない。侑李は怪訝な表情を浮かべた。


「伊織、それは男の部屋で慎むべき行動じゃないのか?」

『まぁ、そうとも言うな。誰しも触れて欲しくないはある。女の子にもそれはあるだろうし』

「そりゃそうかもしれないけどさ……」


 納得できない。

 確かに伊織の言う通りだが、女の子が──特に千尋がエッチな本を持っているなんてことが想像できない。


 ……もしかして?

 侑李は伊織にこんなことを聞いてみる。


「おい伊織まさか……、探したことあるのか?」

『うっ……』


 何か嫌なことを思い出したのか、伊織から苦しげな声が聞こえた。どうやらパンドラの箱に手をかけてしまったみたいだ。


「そうだよ」

「おぉ、そうか……」


 これ以上は触れないでおこう。話を終わらせよう。

 そう思ったのだが、伊織はそれでも話を続けた。


『探した、というか見つかってしまったんだよ。本を借りようと思って妹の部屋に入った時によ……』

「なるほど。てか伊織、妹いたんだな」

『あぁ、だが俺はお前と違ってシスコンじゃないし、妹は俺の好みなんかじゃない。でもなぁ……』


 伊織の声がどんどん震える。

 徐々に内容が、危ない方面に進んでいるのだろう。侑李の身体にもその恐怖が伝わる。


 ……それでも伊織は悲痛な声を上げながら──


『でもなぁ……、お、俺の妹がさ、とんでもないとんでもないやつだって判明したんだよ! なんというか、俺への愛が強いというかさ……』

「……それ、いわゆるブラコンじゃないのか?」

『あぁ。そうとも言うが、そうでもないとも言える』


 どういうことだと考える隙も無く、伊織はまるで幽霊にでも遭遇したかのような震える声で……。


『見つけたエッチな本と、ついでに見つかった日記で全てわかったんだ……。俺の妹は……好きな人への愛が重すぎるんだよぉ!!!!』

「!?」


 まるで怪談でも聞かされているのだろうか。伊織の『うわぁぁぁ!!』と叫ぶような声に驚き、侑李は身体をビクッとさせた。


『エッチな本の内容は『妹が大好きなお兄ちゃんに無理やりイケナイことやるやつ』だったし、日記には俺はもちろん、クラスメイトの女の子への重すぎる愛が書かれてたんだ! それはもう、もう……。うっ、吐き気が……』

「おいおい大丈夫か? トイレ行くか?」

『……大丈夫だ』

「そうか、ならばもういい。もうわかったから。この話は終わりだ」


 もう箱の中のミミックを十分見たんだ。これ以上箱の中身を見てはいけない。

 そう思い話を中断させようとしたが、どうしても侑李に伝えたいことみたいで──伊織は顔面蒼白のまま話し続けた。


『……いいか、侑李。女の欲ってのは強すぎるんだ。目には見えないだけで、俺たち男よりやばいんだ。エッチな本を見つけたのを妹に見られた時はもう……。まぁ、あのときは未遂で済んだんだがな』

「わかった。何が起ったのかはわからんが、これ以上は話すな」

『えっ? わからねぇの!? ……まぁ、いい』


 深く呼吸し、体勢を整えて。伊織は面と向かって、改めて侑李に忠告した。


『いいか、侑李。エッチな本は絶対に見つけるな。そして、本棚には気を付けろ』

「……あぁ」


 今までの内容の中では最重要事項であろう。侑李はその内容だけを赤ペンでメモに書き記す。


「じゃあこれで話は終わりか?」

『いや待て。最後に一つだけ』


 メモをしまって通話を切ろうとした侑李を止めて、少し間を空けてから伊織は小声で言った。


『一応、持っとけ』

「……アレ?」

『ほら、駅近くのコンビニに売ってるだろ?』

「よくわからんな。名前は分からないのか?」

『あーもう言わせんなよ!!』


 伊織の言いたいことが全く分からない侑李。

 そんな怪訝な表情を浮かべる彼に、伊織を頬を掻きながら──


『……ゴムだよ、ゴム。分かるだろ?』

「……ゴム?」


 女の子、茨木千尋、ゴム、コンビニで売ってる……ん? アレのことか?

 アレが何かわかったようだが、侑李は訝しげな表情を浮かべならこう言った。


「……あっ、あぁわかった。ありがとうな」

「おっ、おう……」


 翌日、納得できない中、侑李はコンビニで赤いヘアゴムわ購入した、

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