第143話 二人の勇者と呼ばれる男の内情 

※会話文なく、二人の勇者と呼ばれる男の内心と内情のみを書かれております。

 3700文字に及びますが、どうかご了承お願いいたします。




勇岬ゆうさき 茶近さこんside



 あれから少し遡り――。


 天馬が神西と「美架那が泊っている件」で平和的に話を終えた。


 俺的にはあのまま二人の潰し合いのバトルを期待していたが、神西が思いの外に素直な奴だった。

 また天馬も最近じゃ、妙に神西を評価し始めていることから、そこまでには至らなかった感じだ。


 ……つまんねぇ。


 天馬の奴も普段は暴君の癖に、時折妙な男気みたいなのを発揮するから質が悪い。

 テメェの家なら、んな筋を通さなくたって好き放題にやってやれるじゃねぇか?


 今更よく見せようとしたって、誰もテメェを評価してくれねぇよ。

 

 所詮は苦労知らずの『勇磨財閥』の坊ちゃんなんだからな。



 ――だが俺は違う。



 生まれた時から、ずっと戦場に立たされる宿命にあった。


 俺の家は代々受け継がれる『茶道の家元』ってなっているが実は違う。


 古武道である『勇岬流柔術』が本家なんだ。

 だが過去の戦争で衰退し、今じゃ一子相伝として身内だけで継承されている武道だった。


 現代では、もう一つの側面である『茶道』が規模を広げ、長者番付の常連になるくらい有名になっている。


 一見、和の心に溢れ華やかな家系だが、それはあくまで『茶道』に関してだけだ。


 勇岬家、そのモノは違う。



 ――敵に心内を見透かされることなかれ。



 俺はずっとその教育を受けていた。


 泣くことも怒ることも許されず、ずっと笑っていることだけが許される異常な家だ。


 現に俺の家族連中は、いつもへらへらと笑っている。

 けど腹の中は真っ黒な奴ばかりだ。

 相手を油断させ心の隙を生じさせることから戦術が始まるという教えからである。


 おかげでガキの頃から、他の大人達からのウケが良く可愛がられたのも事実だ。


 反面、同級生達から嫉妬を受け、「大人に媚びを売っている」とか「ニヤついて気持ち悪い」と罵られ、標的にされやすかった。


 だが決してイジメられることはない。


 そこは勇岬家の戦術的処世術がある。


 まず一つは相手が多勢の場合、被害を最小にするため、わざと負けること。そして主導リーダー格が単独の時に二度と手を出してこないよう徹底的に叩きのめす。

 美架那がよくやる戦い方でもあるな。


 もう一つは相手がどうしょうもなく巨大な場合、その者の懐に入り込む戦術だ。

 つまり、そいつに気に入られるように媚びを売り、仲間になった振りして内側から陥落させる方法……。


 ――今、俺が天馬にやっている戦術だ。


 後者のやり方は非常にストレスが溜まり好きじゃないが、流石に天馬をボコった後の始末が悪い。


 勇磨財閥を敵に回しちまったら、成り上がりの俺ん家なんて簡単に潰されちまう。

 

 家柄ヒエラルキーで天馬の家柄に唯一対抗できるのは同じ学校の二年だった『王田家』くらいだろうぜ。

 あそこは金もあるが、何よりなんでもねじ伏せるだけの権力がある。国内なら、ほぼ最強じゃないのか?


 これらの理由から、天馬を内側から陥落させるために、ずっと勇魁と堅勇と徒党を組んでいるんだ。


 互いに似たような家柄で、天馬嫌いが共通しているからな。

 おまけにどっちも腹黒い連中だ。


 しかし最近――勇魁の様子が可笑しい。


 普段から正義を振り翳している独りよがりの偽善者だが、天馬同様に時折やたらと物分かりが良さそうないい子ちゃんになる時がある。


 ――今回の神西への対応もそうだ。


 前なら邪魔だと思っただけで『粛清』と称して、俺らに煽られながら一緒に排除してやがった癖にな……。


 おそらく卒業間近ってのもあり、心境が変わってきたのかもしれない。


 そして、美架那――。


 あいつの存在が勇魁に影響を与えているんだ。



 ――俺ら四人とも、美架那に惚れている。



 普段は殆ど話さないが、俺だってそこだけはガチだ。


 美架那は俺のことをよく「キミの笑顔ってなんか胡散臭いね」と罵ってくるけど、実際にその通りだな。

 けど、あいつはその事を知っても分け隔てなく接してくれる。

 しかも親以上に親身になってくれるんだ。

 

 こんな女は初めてだ。

 初めて損得勘定なしで付き合える奴なんだ。


 美架那なら俺の全てを受け入れてくれるかもしれない。


 いや、きっと受け入れてくれるだろう――。


 だから余計に、天馬達に負けるわけにはいかない。


 俺は必ず『美架那争奪戦』っていうレースに勝ってみせるぜ!



 ――たとえ、どんな卑怯な手を使ってでもなぁ。






鳥羽とば 堅勇けんゆうside



 神西との話を終え、ボクらはすぐに解散した。


 っと言っても、すぐ勇魁の家に呼び出されているけどね。


 当然、天パ赤ゴリラ(天馬)を抜きだ。

 また三人でこれからのことを話し合うのだろう。

 

 しかし気に入らない。


 ――神西 幸之。


 二年の『三美神』だけでなく、ボクらの美架那にまで手を付けるなんてな。

 実際はそうじゃなくて「あくまで協力」だって言っているが、どうだか怪しいもんさ。


 特に『寝取りの神西』っと呼ばれている男なんて余計だろ?


 ボクの家は日本から世界の至る土地を買い占める『不動産王』と呼ばれているが、元は裏社会で繁栄した暴力団組織だ。

 暴対法や暴排条例の影響で、日本の表舞台へ移ったようなものかな。


 おまけに祖母はイタリアのマフィア一族だったらしい。

 

 したがってボクはクォーターってわけさ。


 だからどうだってことはない。

 結束は固い家だから親子関係は良好だし、祖父の代はどうあれ普通に暮らしているつもりだ。

 まぁ頻繁に、祖父を尋ねて時折それっぽい大人達が出入りするくらいかな?


 ――だが周囲はそう見てくれない。


 幼少の頃からボクが暴力団の息子だと思われ、恐れられていることもあり遠ざけられていた。

 友達なんて誰一人としていなかった。


 反面、ボクを利用しようと取り巻く連中はいた。

 周囲から舐められないようにしたいらしい。


 ぼっちになるよりマシだと思い、ボクもそんな連中に乗っかった。


 口も方便で「その気になれば違法武器を入手できる」とかハッタリをかましながら……。

 実際そんなことできるわけないんだけどね。

 とっくの前に警察に捕まっているだろ?


 中学に入り、フェンシングをやり始め、状況が変わり始める。

 何故か女子達に注目されるようになった。


 ボクの容姿に惹かれたようだ。


 嬉しかったね。

 今までは、家柄の方にしか見られなかったからね。


 初めて、ボクを個人として見てくれているんだと思った。


 それからボクはガールフレンドを増やして、彼女達を大切にするようになったんだ。

 時には傷つけてしまうけど、そこは男女の駆け引きだから仕方ない。


 だが少なくとも、遊井や王田のようなセフレなどいない。

 ボクの中では、みんな本気で付き合っているつもりだ。


 そして中二の頃、勇魁と茶近に出会った。


 二人共、やっぱりボクの家柄を勘違いしているようだけど、まぁいいやっと話を合わせてやることにする。

 けど、彼らも同じような側面を持っているからか気だけは合った。


 それから天パ赤ゴリラこと天馬を紹介されたが評判通りの酷い男だった。


 世間知らずの坊ちゃま――。


 まさに、そのまんまの奴だ。


 勇魁や茶近は『打倒天馬』を掲げているが、ボクは内心じゃどうでも良かった。

 

 ボクだけを見てくれる女の子達と平和に仲良くできればそれでいい。

 周囲から変人ナルシストと思われようと別にどうってことはない。

 彼女達はボクにとってファミリーなのだから……。


 ――だから、ファミリー達に何かあったら絶対に許さないけどね。


 天馬は家訓やらで『男女平等』とやらで場合によっては女子にも手を上げる奴だから、唯一そこだけは嫌いだ。

 

 ボクのスタンスとしては、とりあえず勇魁と茶近に乗っかって昔のようにハッタリをかましながら適当に話を合わせておけば丸く収まるだろう程度だ。


 裏の情報入手は祖父の名前を出せば、大抵の精通するチンピラは簡単に教えてくれるし、ファミリーの女子達の仲にも情報通の子がいるからね。


 その辺では勇魁のニーズには応えてやっているつもりだ。

 彼も捻じ曲がってはいるが、正義感だけは本物のようだからな。

 まぁ協力しているのは、妹の亜夢さんが可愛いからだけどね。


 だが茶近……。


 こいつだけには一番注意しなければならない。

 人懐っこく、いつも笑っているが、それは全てフェイク。

 腹の中では何を考えているかわからない。

 

 おまけにほとんど尻尾を出さないからね。

 

 ボクも本心を隠すが、こいつだけは初めて見る異質のタイプだと悟った。

 

 そう、まるで笑顔で他人に寄生して内臓から食らおうとする寄生虫だと思う。


 勇魁も茶近の本性には薄っすら気づいているようだが、それをコントロールしようとしている節もある。

 危険すぎる……僕なら絶対にやろうともしないね。


 そんなボク達四人が微妙なバランスで成り立っている中。



 ――美架那に出会った。


 

 あの天パ赤ゴリラの天馬が惚れるだけのことはある。


 外見の美しさから内面の美しさ、そして強さと優しさにボクでさえ魅了されてしまった。


 美架那と付き合えるなら、ボクは全て捨ててもいい。

 地位や名声もいらない。

 今も真剣に付き合っている女の子ファミリー達とも別れることはできるだろう。


 ボクは美架那と本気でファミリーになりたいと思った。


 だから邪魔する連中は排除しなければならない。


 本来なら、天馬、勇魁、茶近だって容赦はしない。

 手荒なことをしてでも奪いにいくだろう。


 だが、彼らとは卒業するまで『美架那を守る』と誓っている。

 彼女のためにもそこだけは守らなければならない。


 ――しかし、神西 幸之……キミは関係ないだろ?


 ボクのファミリーになる美架那に近づく奴は誰であろうと排除する。


 たとえ、その可能性のあるかもしれないだけでもだ――!

 


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