第139話 異端と咬ませ犬勇者との話し合い。




「――サキちゃん、朝から様子が変だけどどうしたの?」


 朝食時、夏純ネェが聞いてくる。

 いつも俺が学校に行くまで寝ている癖に今日に限って随分と早起きだな。


 いや、違う。


 俺が奇声を発したことで彼女を起こしてしまったようだ。


「なっ、なんでもないよ……」


 俺は言いながら、向かい側に座る詩音と麗花をチラ見する。


 二人は何事もなさそうに、しれっと食事を取っているも、その頬はほんのりとピンク色に染上げていた。

 

 ちなみに食卓テーブルは四人用なので、俺と夏純ネェと愛紗達三人と子供達二人で合わせると計7名であり、超狭くすし詰め状態である。


「私、今日でも追加できそうな食卓テーブル買ってくるわ」


「あっ、うん……頼むよ、夏純ネェ」


「だからサキちゃん、お金ちょーだい♪」


 みんなが見ていてもお構いなしに、高校生からお金をせびる御年23歳の社会人。


「…………ミカナ先輩みたいにバイトでもしたら?」


 家に居て頼りになるけど、逆に子供たちに悪影響を与えてしまいそうで怖い。


 まぁ、その子供達の前で舞い上がりすぎて奇声を発してしまった俺も問題だけどな。


 ミカナ先輩か……。

 そういや俺がトレーニングから帰って来た時にはもう出かけていたな。

 家計のためとはいえ、本当に頑張る人だと思う。


 今回はどうしようもなく、俺を頼ってくれたけど、これまでもずっと一人で頑張って来たんだろうか?

 俺と一つしか歳が変わらないのに大変だよな。





 学校の登校時。

 

 俺は愛紗達三人と歩いている。

 これからしばらく、家から学校まで常に一緒だと思うと、これはこれで凄いことだ。


「――よぉ、サキ、おはよう! ん? どうして愛紗ちゃん達もいるんだ?」


 近所に住んでいるリョウが気さくに声を掛けてくる。


「おう、リョウ、おはよう。いや、これには理由があってさ――」


 俺が言いかけた所で、愛紗が腕の袖口を引っ張ってくる。


「愛紗、どうした?」


「……サキくん。わたし達、ミカナさんから口止めされているでしょ?」


 愛紗は顔を近づけて耳元で囁くように忠告する。


 あっ、そうだった。



 昨日の夜、ミカナ先輩から――


「私までサキくんの家にしばらく泊まること、親友の亜夢ちゃんにしか伝えてないから、天馬達には言わないでね。他の人にも内緒だよ」


 と、言われていたんだ。



 きっと天馬先輩に自分の弱味というか、大変なところを見られたくないんだろう


 特に家庭の事情や金銭面で……。


 ミカナ先輩の気持ちもわかるから、みなまで聞かなかったけど。


「ん? どうした?」


「い、いやぁ……まぁ、期末テスト勉強を兼ねてって感じ。ほら、ミカナ先輩の弟妹ていまいさんも預かっているだろ? 俺と親戚の姉ちゃんだけじゃ不安だからさ……」


 ほぼ嘘をつかずに、なんとか誤魔化す。


「なるほど、俺はてっきりハーレムを満喫するためだと思ったぜ、へへへ」


 うるせぇっと言いたいところだが、返す言葉もない。


 ――実際に満喫中だしな。





 学校にて、放課後。



 生徒会室に、天馬先輩が来た。


 この人から訪れるなんて珍しい……つーか、初めてだ。


 以前なら敵対心剥きだしだった先輩だが、『遊園地での慰労会』で親睦も深まり、俺との不仲も解消されたので、みんな驚いてはいたが警戒する程ではない。



「天馬先輩、こんにちは。どうしたんですか?」


 俺は愛想よく笑顔で一礼する。

 だが本人はどこか様子が変だ。

 普段の威勢がないというか、何か神妙な面持ちのように感じる。


「よぉ、神西……話があるんだが」


「話ってなんですか?」


「ここじゃ、あれだ……二人で話したい」


「ええ、俺は構いませんけど……」


 少し前なら絶対に嫌だったが、ある程度打ち解け合った今なら問題ないだろうっと思った。


 そして、俺は生徒会長の麗花に「少し席を外す」と告げ、天馬先輩と二人で出て行く。



 彼は何も言わず、ひたすら廊下を歩いている。



「先輩、どこへ行くんですか?」


「……ついてくりゃわかる」


 ただ、そう一言だけを告げる。


 なんだ? やっぱり様子が変だぞ?





 そうこうしている内に、校舎裏まで来てしまった。


 ――ぶっちゃけ嫌な予感がする。


 これってシメられるパターンじゃね?


 恋愛には『激鈍』だと色々な連中に罵られる俺だが、こういうことには案外敏感だ。


 伊達に17年間モブキャラしていたわけじゃない。


 高二の一学期から、愛紗達の件で目立ってきた。

 本来は、ただそれだけの学生だからな。


 経験上の危機回避能力ぐらい備わっているさ。



 俺は一歩下がって間合いを取る。

 さりげなく半身姿勢を保持した。


 いきなり不意を突かれてもいいように、天馬先輩の動きを凝視する。


「……天馬先輩、そろそろ話を聞かせてもらえないですか?」


 俺が尋ねると、背を向けていた天馬先輩は正面を向いた。

 今まで見たことのない、真剣でとても無垢な表情だ。


「――神西、お前を男と見込んで、率直に聞きたいことがある」


「はい?」


「ミカナの件だ――」


「ミカナ先輩の? お預かりしている弟さんと妹さんのことですか?」


 自分が預かりたいとでも言い出すのか?


「違う、あいつ自身のことだ」


「ミカナ先輩自身の……」


 なんか嫌な予感がしてきたぞ……これ。


「ミカナは今、お前の家で泊まっているのか?」


 キタわ、これ。

 やっぱりそういうネタだったか?


 しかし、どこで仕入れたんだ、そんな情報……。


 ミカナ先輩は「親友のアムちゃんにしか伝えてない」って言ってたから、亜夢先輩からだろうか?


 でも亜夢先輩……そんな口の軽そうな人じゃなさそうだけど……。

 やっぱり、そう見えるだけで裏表のある人なんだろうか?


「――どうなんだ、神西!?」


「え? はい、泊まってますよ。普通に」


 俺はあっさり暴露する。


 だって隠した方が余計にやましいと思われるじゃん。

 ミカナ先輩には口止めされたけど、ここまで知られているなら仕方ない。

 家に帰ったら、彼女に謝るしかないとシンプルに考えた。



 一方で、天馬先輩は瞳孔を開き驚愕している。

 相当ショックなのか身体が硬直してフリーズしているようだ。


「天馬先輩?」


「……何故だ? どうしてお前の家に泊まっている?」


「お母さんの入院費を稼ぐため、アルバイトを増やすそうです。それに弟さんと妹さんもお預かりしているから傍にいたいと……とてもいい子達だけど、お姉ちゃんがいないと寂しそうですからね」


 家計が苦しいとか天馬先輩達に知られたくないとまでは言えないが、ほぼ8割方は本当のことを言ってみる。

 でもこれ以上は俺が話すべきことじゃないけどな。


「……そ、そうか、なるほど。まぁ、あいつの家は大変だとは聞いたからな。俺に頼ってくれればオールクリアなのに……ミカナの奴、どうして神西に頼るんだ?」


 あっ、それ?


 俺もずっと疑問に思ってたんだよ……。


 ミカナ先輩って、他の三年生で頼れる一般の友達とかいないのか?

 あんな綺麗で明るくて性格のいい人なのに……。

 みんな自家用ヘリやリムジンを所持している大富豪ばかりなのか?


 そういや、ミカナ先輩って天馬先輩達の話をすると決まってこうも言ってたよな?


『――私が『彼ら』といるのは、自分が『ストッパー役』を担っていることもあるわ』


 って……。


 今の天馬先輩はそうでもないようだけど、一年生の頃の彼らは無茶苦茶していたと聞く。


 ミカナ先輩は、そんな天馬先輩に好意を持たれ「友達」として付き合うことで、彼を含む『勇者四天王』を封じ込めたって話だったな。


 まさに女神……ある意味じゃ『人柱』か。


 きっとその代償で他人に頼れない事情があるんだろうな。


 こっちも聞かれた身だから、俺もその辺を尋ねてみるか……。


「天馬先輩、俺からも聞いていいですか?」


「なんだ?」


「ミカナ先輩って亜夢先輩以外に女の友達とかいないんですか?」


「……高一の頃まではいたようだが、今はいねぇ」


「今はいない? どういう意味ですか?」


「多分、俺達のせいだと思う――」


 天馬先輩は淡々とした口調で、当時の状況を話した。






──────────────────


いつもお読み頂きありがとうございます!


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、

どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。

皆様の応援で気合入れて更新を頑張っていきたいです(#^^#)


これからもどうぞ応援のほどお願いいたします!<(_ _)>







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る