第90話 女神伝説:凶犬との出会い
「ところで麗花、これからどうする? 話が
「神楽さんに頼るしかないわね。間に入ってもらうようお願いしてみるわ。幸い、彼女をよく知る詩音も生徒会の『庶務』だから、やり取りしやすいと思うし……」
「その
「ええ。全員、彼女に何かしらの好意を持っているようね。だから近づく男に容赦ないみたい」
それで俺を誤解して殴り掛かってきたのか?
極めて迷惑な話だ。
「でも、神楽先輩と付き合っているイメージはなかったな……仲は良さそうだったけど」
「神楽さん、入学したての頃はとても苦労したみたいよ……。なんでも当初は、その四人と真っ向から対立していたみたいだから」
「そうなのか?」
「ええ、それがいつの間にか想われ慕われるようになって、今の関係に至ったって感じ……。これは女子達の間じゃ『レジェンド』として有名な話よ。だから教師の間でも神楽さんには一目置いているみたいね」
「なるほど……『女神』と呼ばれるわけか」
「けど一つ気になることはあったわ……」
「なんだい?」
「――神楽さん……サキ君のこと気に入ったみたいね。同じ匂いを感じ取ったみたい」
「……あんなの社交辞令だろ?」
「違うわ。神楽さん、あれだけ綺麗だけど本来は色恋沙汰より、バイトで稼ぐのが趣味みたいな人よ。さっきの男子達の集まりは、勇磨さんが命じて囲ませたボディガードみたいな人達ね。彼女に悪い虫がつかないようにするための」
「……俺って悪い虫? ってか、そこまでする?」
「勇磨さんにとってはそうでしょうね。後、そこまでする人よ」
……なんか、もう関わりたくないなぁ。面倒くさすぎて。
どうせ、あと半年くらいでいなくなる人達だし、このまましれっとしたいよ。
生徒会に入ったばっかりにか……でも麗花を支えてあげるため覚悟したことだ。
「だから神楽さんも半分諦めて、彼らの好意もある程度は容認するようにしているらしいわ……。だから、サキ君に言った台詞って凄く珍しいのよ」
俺が黙って聞いている中、麗花の様子が可笑しくなっているのに気づく。
どこかムスッとして俯き、俺から目を逸らしている。
「……サキ君もカッコ良いとか言われて、満更じゃなさそうで……ブツブツ」
あれ? 麗花……焼き餅を焼いているのか?
これまた初めて目の当たりにする表情だ。
普段、毅然とした『塩姫』とのギャップが見られ、とても可愛い。
自然と胸が疼いてしまう……。
「麗花、前に言ったろ? 俺は他の子とどうこうはないよ。ましてや相手は先輩だし……」
「サキ君って年上の女性は苦手な方なの?」
いや、そんなことないよ全然。
自分で言うのもアレだけど、年上から年下までストライクゾーンは広いと思う。
「まぁ、年齢は関係ないけど……今は生徒会を頑張りたいし、みんなとの関係を大切にしたいからね。修学旅行でも約束したろ? 麗花と沢山思い出を作りたいって」
「……うん。そうね、ごめんなさい」
麗花は頬を染め、柔らかく微笑んでくれる。
この学校の男子では、俺しか見る事はない貴重で優しい笑顔だ。
なんか散々な目に合ったけど、最後の最後でいい事があったような気がする。
~
麗ちゃんと神西くんが帰った後、取り巻きの男子生徒中心に、倒された椅子や机を正しく整列し直していた。
「天馬! キミが張本人なんだから一緒に片づけるんだぞ!」
「クソッ! あの副会長のガキィッ! 俺のマッハパンチを躱しきりやがってぇ! 気に入らねぇ!」
後頭部を押さえ、さっきから恨み節を唱えている。
ところでマッハパンチって何よ?
「もういいから手伝いなさいよ! ほらぁ!」
私は天馬の腕を引っ張り無理矢理にでも手伝わせようとする。
途端、彼の強面の表情が緩み、頬を染めてニマ~ッと目を細めて笑みを浮かべる。
「ったく、しょーがねぇな~、ミカナはぁ~ん。俺がいねぇとなんもできねぇもんなぁ~ん」
キモイわ、こいつ……。
性根はいい奴なんだけど、凶犬で誰にでも噛みつくのが、たまに傷……いや傍迷惑なのよ。
だからこうして、私が首輪を付けるようにしているんだけどね。
――そんな天馬との出会いは、私が入学してからの間もなくだった。
当時の天馬は他の仲間達と共に幅を利かせイキッていた。
それこそ、歯向かう者、気に入らない者なら上級生だろうと教師だろうと徹底的に叩き潰す凶犬みたい奴。
ある日、私のクラスメイトの女子が彼らとトラブルを起こしてしまう。
理由は、彼らの仲間の一人がクラスメイトの女子を弄んで、それを咎めたことからの発端らしい。
ただの言い合いなら関係ないと黙認しようと思った。
けど、天馬はそのクラスメイトの女子を「うるせぇ、クソ女ァ!」と一喝して掌で引っ叩いたのだ。
瞬間――私はキレた。
私は女性に暴力を振るう男が大っ嫌いだ。
何故なら、私の亡くなった父がそうだったから……。
そのせいで、お母さんが働けない身体になったようなものだから……。
「ちょっと! 何、女の子を叩いているのよぉ! 最低ッ!」
「んだぁ、この女ァ!? 文句あるなら、かかってこいやぁ!」
天馬は両腕を広げ「やれるもんならやってみろよぉ!」っと挑発してくる。
さも、お前如きの攻撃なんて屁でもないと言わんばかりに……。
私の怒りのボルテージがMAXまで上昇し噴火した。
「舐めるなぁぁぁっ!」
思いっきり、奴の股間に蹴りを入れてやった。
「き、金的だとぉぉぉぉ―――っ!!!?」
天馬は床に倒れ、その場で悶え苦しむ。
ざまぁみろっと思ったのも束の間――。
今度は私が目を付けられることになった。
それ以降、私は彼らを取り巻く男子達から頻繁に嫌がらせを受ける。
嫌がらせと言えば聞こえがいいが、はっきり言って陰湿的なイジメだった。
教師に相談しても、天馬達の名を出せば有耶無耶にされてしまう。
次第に周囲からも孤立して遠ざけられる。
無理もない。
みんな奴らの親の力に怯えているのだから。
――それでも私は負けなかったわ。
生まれながら極度の負けず嫌いなのよね。
やられたら倍にしてやり返す。
それが私の流儀よ。
陰湿な嫌がらせには、その上を凌ぐ嫌がらせをする。
数なんて関係ない。一人になるのを見越して仕返ししてやった。
中には私を無理矢理手籠めにしようとする連中もいたけど、予め隠し持っていた痴漢用スプレーで目潰しして必殺技の『金的蹴り』で撃退してやったわ。
だけど、このままエスカレートしたら、私の家族にまで危害が及び兼ねない。
それだけは避けなければならなかった。
なので、私はトップである天馬とつるんでいる仲間三人を呼び出して決着つけることにしたのよ。
屋上にて。
「神楽とか言ったな……この女ァ! 俺らに屈服したら今までの事は赦してやる! まず土下座して詫びろ!」
「冗談じゃないわ! あんた達みたいな親のスネかじりに屈するくらいなら死んだ方がましよ!」
「だったら決着つけるしかねぇなぁ、ああ!?」
「そのつもりで呼んだのよぉ!」
私は力強い足取りで、天馬へと近づいて行く。
「ち、ちょ待てぇ!」
「何よ?」
「お前、また俺の金的を狙うつもりだろ?」
「だったら何よ!?」
「ふっ、はははははっ! クソ女、破れたりーっ!」
「何が可笑しいのよ!?」
「俺は今、ファールカップを付けているんだぜぇ! 特注製だぜぇ、ざまぁ!」
天馬はドヤ顔で股間を叩いている。
確かにカンカンって音が聞こえるわ。
「それで?」
「だから今の俺に弱点はねぇ! 無敵の存在だぁ! 死ねぇぇぇぇっ!」
天馬は勝利を確信し、両腕を掲げて襲ってきた。
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