第88話 愛紗との約束。三年生の女神
愛紗は、お父さんに一度も会ったことはないらしい。
彼女もお母さんから詳しい話を聞いたことはないそうだ。
「――そう。確か、愛紗に会いたがっているって話だよね?」
「うん……一度くらい会ってもいいかなって」
「本当? そっか……うん、いいと思うよ」
「それでね、サキくん……」
「なんだい?」
「お父さんと会う際、そのぅ一緒について来てほしいなって……」
「うん、いいよ。俺で良ければ勿論」
元々は自分から言い出したことだしね。
愛紗の不安が少しでも解消できればだ。
そんな彼女は隣で瞳を潤ませ微笑んでくれる。
「……ありがとう。やっぱり、サキくんだなぁ」
ぎゅっ
嬉しさが溢れた無意識だろうか。
愛紗がさりげなく手を握ってくる。
俺は胸を高鳴らせつつ受け入れた。
「うん、愛紗には本当に助けられているから……これくらい」
「そんなこと……本当言うとね、会うのが怖いの……今更って感じもするし」
「愛紗……」
彼女からすれば当然の心理だと思う。
だって顔すら知らない、言わば他人みたいな人だ。
いきなり父親だって言われたって、ピンとくる筈がない。
「でもね。サキくんが傍にいてくれるだけで凄く勇気がもらえるの……だから後悔しないよう、前を向いて歩きたいんだぁ」
「愛紗なら大丈夫さ。俺が傍にいるよ……必ず守ってみせるから」
「うん、うん……ありがとね、サキくん」
愛紗と約束をし、彼女を家まで送り届ける。
その間、ずっと手を繋いだまま。
お父さんと会う日が決まったら連絡くれるとのことだった。
次の日、放課後。
今日から本格的に新体制の生徒会が活動することになった。
朝、全校朝礼があり、全生徒へ向けてその新メンバーが紹介される。
俺は生徒会副会長として初めてステージに立ち、生徒達に向けて簡単な挨拶を交わす。
勿論、これだけの大衆が注目する中で話をするのは人生初の経験であり、超緊張しまくって何を話したのか覚えていない。
続いて書記になった愛紗と、庶務の詩音とシンもステージに立ち、それぞれ簡単な挨拶を交わしている。
愛紗と詩音は流石『三美神』と呼ばれているだけあり、全校男子から感嘆の声が漏れ、生徒会長の麗花と並んだ時は黙っていてもオーラ全開で存在感をアピールしていた。
この子達が俺の家に暇さえあれば泊りに来てくれると思うと、今更ながら凄いことだと再認識する。
シンはやはり女子に人気があるようで、時折黄色い声が聞かれている。
その都度、俺の隣に立っていた会計の黒原が「チッ」と舌打ちしていた。
昼休み。
俺は麗花と二人で、三年生がいる階へ行く。
いつも屋上へ行くのに階段越しから見える風景だが、こうして足を運ぶのは初めてだ。
妙に緊張してしまう。
一応、みんな年上の先輩なので目が合う人達全員に頭を下げてみせる。
麗花は毅然として、俺の隣で歩いていた。
普段の彼女は『塩姫』と呼ばれ近寄り難いオーラを醸し出すも、俺としてはその姿がカッコ良く見える。
その反面、俺だけに見せるギャップが半端なく可愛いから。
特に修学旅行のデートは最高に良かった。
ある教室の扉前で立ち止まる。
「――サキ君、ここの教室に彼女はいるわ。あれから連絡してアポを取っているから安心して」
そう。
俺達二人は生徒会として、これからある先輩に会おうとしている。
「失礼します――」
麗花は扉を開け、一礼して教室に入って行く。
俺はその後ろを付き添う形で歩いた。
教室の作りは当然ながらウチのクラスと変わらないが、場の雰囲気が異なっている。
見知らぬ生徒、年上の先輩達。
なんかアウェー感が漂っている。
まるで招かれざる客。
周囲から、そんな目で見られているような気がしてならない。
「いたわ、彼女よ」
麗花の言葉に、俺はその場所に視線を向ける。
窓際の後ろ席辺りで複数の男子達が囲むように固まっていた。
俺達が近づくと、男子達は割れるように離れて行く。
ぽっつんと席に座っていた一人の女子生徒が姿を見せる。
この人が『女神』と称される三年生……。
モデルをしているだけあり、とても綺麗な女性だった。
流れるような綺麗なセミロングヘアの黒髪に癖っ毛のようにワンカールが巻かれている。
小顔でとても大人っぽい印象を受ける。おまけにスタイルも抜群だ。
ぱっと見の雰囲気は、愛紗のような可憐で、麗花のような凛とした雰囲気を持ち、詩音のように明るく笑っている。
なるほど……女神と言われるだけのことはあるかもな。
俺達はこの先輩に会いにきたんだ。
期末テスト前に開催される『体育祭』を無事に成功させるために――
「――神楽さん」
「あっ、麗ちゃん元気?」
「はい、普段通りです。こちらの彼は……」
「うん、副会長の神西くんね? 朝礼で挨拶してたね、覚えてるよ」
「か、神西 幸之です。よろしくお願いします」
やばい、思わず自己紹介を噛んでしまった。
「神楽 美架那だよ。私も苗字に『神』つくから、
言いながら、ニコッと柔らかく微笑んでくれる。
と、尊い……なんか、凄くいい先輩っぽいなぁ。
麗花が評価するだけのことはあるぞ。
「それで神楽さん。昨日、少し触れさせてもらった『体育祭』の件ですが……」
「うん、勿論協力するよ。高校生活最後の行事だからね。ちゃんと、みんなにも言っておくから安心して」
おおっ! 早速、女神の加護……いや協力を得られたぞ。
本当にいい先輩じゃないか?
ところで、『みんな』って例の『勇者四天王』のことか?
誰がその人なんだろう?
神楽先輩を囲んでいた男子達の中に、そんな雰囲気の人はいなかった感じがする。
「ところで神西くんって、しぃちゃんと仲がいいんでしょ?」
神楽先輩は席から立ち上がり、俺に近づいてくる。
モデルしているだけあって、女子にしては身長が高い方かもしれない。
ちょうど俺と同じくらいだろうか?
「しぃちゃん?」
「詩音ちゃん。聞いたことない? あの子と同じ事務所なの?」
「ええ、昨日聞きました。でも俺、彼女が読者モデルしているって初めて知って、そっちの方が驚きましたけどね」
「うん。あの子、凄く可愛いしセンスあるから専属にならないかってずっと声を掛けられているんだけどね。けど、『ハマッている男の子がいるから無理』って断っているのよ」
え? そのハマッている男の子って……もしかして、俺?
そう思った瞬間、つい赤面してしまう。
顔中が火照ってしまい、おそらく耳元まで真っ赤だと思う。
「ふふふ、神西くんって初心でかわいい……しぃちゃんがメロメロなのわかるなぁ」
神楽先輩は覗き込むように顔を近づけてくる。
その綺麗すぎる顔立ちに、余計に頭の中が熱くなる。
「あっ、いやぁ、そのぅ……先輩、顔近づけすぎです、はい」
「ん~? 神西くんとは何か他人のような気がしないんだよね……私と前世で何かあった?」
知りませんよ、前世なんて。
いや待てよ? そういや昨日、麗花や詩音、それに黒原が言ってたな。
この人、俺に「何かが似ている」って……。
今の所、まるで接点なさそうだけどな……。
「――何にしてんだぁ! テメェ!」
突然、男の声が響いた。
すると、どかどかと一人の三年生らしき男が教室に入ってきた。
かなりの長身で赤色の髪にパーマをあてている。
身体つきもがっしりしていて、どこかオラオラ系っぽい。
顔立ちは整っているが、目つきが悪くやんちゃそうだ。
その男は椅子や机を吹き飛ばしながら猛ダッシュして、こっちに向かって来る。
何を思ったのか、いきなり俺に向けて殴り掛かってきた――。
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