第61話 影の勇者ついに動き出す
あれから数日後、中間テストを迎える。
前回ほどの手応えはないものの、そこそこ答えを埋められたと思う。
一応、麗花が作ってくれた問題集だけはやっていたからな。
次の日、テスト結果が掲示された。
今回の俺は91位だ。
う~ん。辛うじてだが、ランキング入りできたぞ。
まぁ、1年生の頃は順位にも入れなかったので十分ちゃ十分だが……。
もう少し頑張れば良かっただろうか?
1位は麗花で愛紗は上位に入っている。
二人とも相変わらずの優秀ぶりだ。
詩音は真ん中くらいか……意外だが一応は頑張っていたみたいだし、実は地頭はいいようだ。
シンも特訓を付き合っていた癖に、俺より上位でランキング入りしている。
本人曰く「中学から、ずっとぼっちだったから勉強が趣味と化している」らしい。
まぁ、期末こそ頑張ろう!
ここはもう開き直るしかない。
そういえば、あの万年2位の『王田 勇星』も今はまだ自宅謹慎中でテストが受けられない状況だったな。
だから当然、順位には載っていない。
きっと謹慎が終わった後に個別でテストを受けることになるだろう。
にしても、王田の奴。
真面目に自宅で過ごしているのだろうか?
なんか不安が過る。
そういや『遊井 勇哉』の時も、テスト明けに襲われたんだよな。
今の俺ならそこそこ立ち向かえるけど、ブチ切れるだけの遊井と違って、王田は剣道の有段者でもあるからな。
なんか状況も似ているし用心するに越したことはないか……。
俺は気持ちを切り替え、放課後に『火野ボクシングジム』へ通う。
シンと蹴り技を交えたスパーリングをするためだ。
もう下半身の痛みも消失し、蹴り技の特訓はより本格的な内容へと進展している。
基本的な技を修得し、後は実際にどう組み合わせていくかなどの実戦となっていた
「スポーツだと判定とかで手数の多いコンビネーション技が重要となるが、実戦ではより確実に相手を倒すための一撃が重要となってくる。蹴り技を組み入れることで、どう自分が主導権を握れるか方法を試してくれ」
「わかったよ、シン」
「まぁ、サキの場合は型にハマらないのが特徴だからな。相手によって突っ込んで戦うのもありだし、安全圏から打ち込むのもいい。こればっかりは本人のセンス次第だな」
「なるほど……相手にもよるかもな」
俺はシンと実際に打ち合いながら、所々で助言を貰っている。
やっぱり、こいつは強い。
蹴り技を組み入れて戦うことで、余計にその実力がわかった。
互いにプロテクターを身につけてなかったら大怪我をしているだろう。
「おい、お前ら。ここはボクシングジムだからな」
リョウは隣のリングで別な相手とスパーリングしながら皮肉を漏らしている。
奴も近日中にプロテストを受けるために特訓中である。
「サキ君もプロを目指そうよ」
会長でありトレーナーのリョウの親父さんが声を掛けてくれる。
色黒のオールバックに端整な顔立ちで、ガッシリとした体格のダンディな人だ。
「いえ、叔父さん……俺、学生のうちはまだ……」
そもそもプロを目指して特訓しているわけじゃないし。
「……そうか、今からでも十分に狙えると思うんだけどな」
叔父さんは残念そうに呟いている。
なんでも若いうちの方が世界を狙いやすいそうだ。
流石に、俺なんかじゃ無理だと思う。
こんな感じで、俺の特訓は日々進化していく。
そして土曜日。
いよいよ愛紗とのデートの日だ。
俺は待ち合わせ場所である、駅前のオブジェの前で待っていた。
今更ながら緊張してきたぞ。
考えてみれば、初めての女の子デートだよな?
しかも相手は、あの愛紗だ。
学園のアイドルであり、まさに三美神の象徴ともいえる女子である。
以前なら雲の上のような尊い存在だったけど、今は最も身近な距離にいてくれる。
――不思議なものだ。
全てはあの時、愛紗が不良に絡まれて助けたことから始まったんだよなぁ。
俺の運命が大きく変わったこと。
平凡で学生生活を終えるより、彼女達と一緒に過ごすことを選んだんだ。
それに値する存在になるために、俺は風評を跳ね除けてここまで頑張ってきた。
あの出来事があったからこそ、こうしてお互い信頼して近くに感じられる存在となったんだ。
いつも優しくて献身的で家庭的な愛紗。
そんな彼女と二人っきりの初デートか……。
「――お兄ちゃん」
ふと、一人の少年が声を掛けて来た。
見た目は小学校低学年くらいで、ごく普通の男の子だ。
「ん? 俺のこと?」
「そう、これ……」
少年は手にもっていたモノを俺に渡してくる。
それは『スマホ』だった。
「……何、これ? どうして俺に?」
「さっきカッコイイ別のお兄ちゃんから、これを渡してくれって頼まれたんだよ」
別のお兄ちゃん?
誰だ?
そう告げると、少年は俺から離れ、別の友達と合流して何処かへ行ってしまった。
ブッ、ブブブブ――。
タイミングよく、スマホが鳴る。
画面には見たこのない番号が表示されている。
仕方ないので、俺は着信に出ることにした。
「もしもし……」
『神西君だね』
聞き覚えのある声。
この声は……王田 勇星!?
「王田!? どうしてお前が……このスマホはなんだ!?」
『キミとやり取りするためだよ。キミの番号なんて調べれば簡単に入手できるけど、それはそれで手間だからね。それはあげるよ』
「そういうこと訊いてんじゃない! どういう意図かと訊いてんだ!?」
『――では率直に言おう。南野さんは預かった』
なんだと!? 今、何て言ったんだ!?
あまりにも唐突で衝撃的な内容に、俺は言葉を失い絶句してしまう。
『もう一度言おうか? 南野 愛紗さんを預かっているんだよ、この僕が――』
スマホ越しで、王田はニヤつき声で言った。
~南野 愛紗side
時は遡り。
わたしはサキくんとの待ち合わせ場所に向かう。
ぎりぎりまで自分の服装をチェックしていたから急いで行かなきゃ。
サキくん……わたしの格好、変に思わないかなぁ。
初めて彼との二人っきりデート。
とてもドキドキして緊張するけど、凄く楽しみ。
こないだの詩音じゃないけど、最近のサキくんはより素敵になったと思う。
外見だけじゃなく、内面的に強さと優しさが増している。
サキくん自身は気づいてないかもしれないけど……あの『路美』って子が憧れる気持ちもわかる。
わたしは、サキくんが好き。
あの日、助けてもらった時から、ずっと恋焦がれていた。
でもサキくんは、わたしのことどう思っているのかなぁ?
最近、特にそう思えてくる……時折、不安を覚える。
今日のデートで少しいい……。
サキくんと進展があれば嬉しいなぁ。
「――南野さん」
人気のない路地で、不意に後ろから誰かが声を掛けてくる。
わたしは振り返ると、クラスメイトの『王田くん』が近づいてきた。
見慣れない私服姿だ。
学校が休みだから当然か……でも。
わたしは立ち止まる。
「王田くん……どうしてここに?」
「たまたま通りかかって、キミを見つけたんだ。随分、可愛らしくて素敵な服装だね。良かったら、これから二人で遊びに行かないかい?」
「……悪いけど、大切な人と待ち合わせをしているの。それに王田くん、謹慎中でしょ?」
わたしは身構えて少しだけ警戒する。
彼のこと、これまでずっと爽やかな紳士だと思ってたけど、先日の件もありすっかり見方が変わってしまった。
何か、『あの人』と重なって見えてしまう。
そう……まるで、わたしの幼馴染だった、あの『遊井 勇哉』だ。
「大切な人? 神西のことか?」
王田くんの穏やかだった口調が変わる。
わたしはこくりと頷いた。
すると、彼はガシッと、わたしの二の腕を力強く握り締めてきた。
「い、痛いよ、王田くん!?」
「何故だ!? 何故、あんな奴がいいんだ!? どうして僕を選んでくれないんだ!? 僕が奴に劣るとでも言うのか!?」
「嫌ァ、離してぇ!」
わたしは必死で振り解こうとした瞬間。
ビリッ!
首筋から電流が走った。
わたしの意識が朦朧とする。
彼の片手に何かが握られていた。
スタンガン……?
わたしは目の前が真っ暗になり、その場で倒れこんだ。
「ごめんね……南野さん」
哀しそうに呟く、王田くんの声が耳に残る。
――サキくん。
わたしは最も会いたい人を想いつつ、完全に意識を失った。
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