第18話 まりこ
「ありえない。こんな画像、まりこをついて回らないと撮れないような……。完全に名誉毀損だよ。誰がこんなこと……」
「……思い当たるのはあの男しかいない。最近音沙汰ないと思ってたら、こんなこと……」
夕焼け色の校舎でクラスメイトと談笑してふざけあっていたことがまるで夢であったかのようだ。
画像が出回り、最初はフォローしてくれていたみんなも、学校が終わる頃には私と距離を置いていて、よく言えば腫れ物を触るような、悪く取ればハブくようになっていた。たとえ担任が画像の削除を強制させても、もうそれは手遅れで、生徒指導室での話を終えて教室に戻る頃には、また画像がクラス中に広まっていたのだ。
「どうするの? 先生には」
「もう話すことはないよ、今日、先生との話はついたから。親に話しをしたら面倒なことになるだけ。私は椎名と違って両親と仲良くないから。……一人っ子だし、これからも一人で生き抜いていくのよ」
いつもならまだ学校に残っといるような時間帯。茜さす閑静な住宅街を椎名と二人きりで歩いていると、妙なもの悲しさに襲われた。
「そんな悲しいこと言わないでよ、親友でしょう!? ……私、私がどうにか力になれないかな? まりこが心配で仕方がないよ」
椎名は今朝からずっと興奮しっぱなしだった。時に物思いにふけっていたかと思えば、時には泣きそうな顔で励ましてきたり、とにかくいつもに比べて、被害を受けた私以上に情緒が不安定だった。
「……そうだね。誰かボディガードみたいな、そんな人がいればな……」
「……そうだ! 私のお兄ちゃんの部屋からなら、ちょうどまりこの部屋の玄関も見えるはず。そうだよ、その手があったよ」
「え? どうするの? 」
「監視してもらうのよ、録画してね。その上で特定できたら現行犯で牽制する! 何やってんダァって少し脅かせばさ、俺の女に何してくれてんだー! てな感じで、怖い感じで! どうかな? 」
「うーん……」
「あ、無理にとは言わない! だってそれこそ監視するんだもんね……」
椎名の兄とはまだ顔を合わしたことがない。どんな人間なのかも分からない。私が私自身を監視させる許可を出すなんて、簡単に許してはいけないような気もする。だが他に最善の策もないように思う。
「……いや、それで効果があるなら、それでも良いかも。だけど、警察沙汰にはしたくないのよ」
「わかってるよ。その上でお兄ちゃんがちょうど良いんだよ。今は浪人中でバイトもしてないから一日中家にいるはずだから。男だし、今、力になれる最適の人間だと思うんだけど」
浪人中。どんな人なのだろう。ストーカー男も浪人生のようだし、もしも顔見知りだったらと思うと怖かった。
──拓海さんにだって、この件に限っては頼るわけにもいけない。
「……うん、そうだね。わかった。でもまずは、本人に了承してもらわないと」
「オッケー、それなら話が早いよ。今からうちに来て! 話しをしようよ」
「ありがとう、椎名」
椎名は希望に満ちた瞳が生き生きとしている。まるで私の地位が落ちてしまったことに歓喜しているような。──否、唯一無二の親友になり上がれたとでも勘違いしてるのだろうか。私に協力することで、自分のヒエラルキーが上がっていくとでも思っているのか。ここで私の汚名返上をしなければ、椎名の努力も無駄に終わる。ここで挽回しなければと是が非でも兄を利用してみせようという魂胆なのか……。
──心の中がもやもやして、どうしてもネガティブに考えが向いてしまう。私は、今起こっている事を冷静に見据えようと、深く、深呼吸した。
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