第17話 まりこ
顔を見るなり、畏怖の目、陰口。軽蔑の眼差し……。
朝、教室に入ってすぐに何が起こっているのかがわかった。
パパ活における、パパ募集中を掲示した画像付きのページのスクリーンショット画像がクラス中に広まっていた。
間も無くして私は生徒指導室に呼ばれ、担任から事情聴取されることとなった。
「まりこ。大変なことになっている。今は画像の加工なんて誰にでもできるが、クラス、いや、学年や学校中、さらには外部にまで既に画像が出回ってしまっているかもしれない。携帯を没収して削除させるようには勤めたが、これでも万全とは言えないだろう。何か、この件に関して見に覚えはあるかい? 」
「……あの。すみませんが、先生はどちら側の人間ですか? 」
「えっ? 」
担任は空気を大きく飲んで声を漏らした。画像をばら撒かれた私よりも動揺しているようだった。
どちら側の人間か──。
敵なのか味方なのか。私を庇いたい側なのか、もしくはパパになりたかったとでも思っているのだろうか……。
「心配いりませんよ。大方、誰がやったのかわかってるんです」
口からのでまかせだった。
「合成なんですよ、先生。これは誰かの悪ふざけだと分かっているので、私はいじめられてなんかもいませんし、学校にとって不名誉なことをマスコミにバラされる心配もないと断言できます」
これも大嘘だ。
「この画像のこれ、ここの部分をよく見てください。肩から首にかけての背景が荒くなっているでしょう? これは隣のクラスの高良さんが補導のおじさんに腕を引かれている時のものを私の顔にすり替えたのだと思います。私は彼女とよく話をするので、知っているんですが、これを利用してあたかも私が援助交際のようなことをしていると、犯人は思わせたかったのだろうと推測します。高良さんと親しい人たちに聞けばすぐにわかることだと思いますけど」
「そうなのか? 嘘じゃないんだな? 」
「私のスマホをチェックでもしてみますか? その件はもう解決していて、高良さんの両親や私の両親にも連絡を入れてもらっても構わないですが、もう解決していることなのでそれが逆に事件を大きくさせるのではないかな、と私は思うんですが」
「……そうか、それもそうだな。終わったことをほじくり返すのも、高良にとって良い影響はないだろうし……」
うまく揺動できている。
「その事件はみんな知っているんですよ。それを誰かが面白がって、あり得ない私のキャラを使ってからかっているんだと思います」
「だがそれには何の意図が──」
「だって先生、私が援交する理由がありますか? すると思いますか? 」
「いやそこまでは何も……」
担任はついには掻くように頭を抱えた。
「必要もないし、そんな暇もないですよ。もし疑いが晴れなければ椎名さんに聞いてください。最近彼女と私はよく一緒に勉強してるんです」
「そうなのか? 」
今度は私に向き直って、まるで一度諦めかけた夢をまた思い返したかのように表情がぱっと明るくなった。
「アリバイならあるんですから、私からもみんなにバカなことはやめるように話ししてみます。先生の方自ら大事にしなくっていいんですよ。私がネタになって皆んなが面白いならそれで良いじゃないですか。私はどうとも思っていませんよ」
「まりこ……お前ってやつは本当に……」
今度は何故だか担任の方が涙ぐみ始める。
「皆んな試験前でストレスが溜まってるんです。先生の方こそ、あまり気に揉まないでくださいね? 」
これで──完全に勝ちだ。
学校はいつだって揉め事を嫌い、事件を揉消すことに着眼して事を運ぶものなのだ。
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