竜と魔法使いと名探偵 ~勇者になりたかった占い師と人を生き返らせたい死霊術師な名探偵の魔術事件簿~
安藤啓太
第一部 ≪占い師≫の夢
第一話 "The Queen Bee"
プロローグ
◆◆
流れる星々の元で 僕らは生まれ 消えてゆく
数多の英雄達の屍の山で 新しい英雄は天に臨む
◆◆
人類の歴史は竜種との戦いの歴史である。
強大な魔力と巨大な肉体をもつ竜種は天空の王者であり、地上においても最強の生物として君臨している。
それに比べて人類は竜種に比べればあまりに小さく脆い。人類の祖先、大精霊が使っていたとされる『無限の魔法』はすでに失われ、今ではほとんどの人は大精霊の血脈の残り火で弱い魔術を操るのみとなった。
魔術の才能が多く残る貴族や一部の才能のある個人は持てる力を使い、誰もが高度な魔術を再現できる『魔道具』を作り出した。俺たちの生活は魔道具に支えられている。
一方で、大精霊の血脈を起源とする魔術は『固有魔術』と呼ばれる。固有魔術を魔道具では現状再現できない高度にして特殊な魔術が行使できる。
それら魔術の知識を集め、体系化し、自在に操る優れた魔術師は、畏敬の念を込めて『魔法使い』と呼ばれる。
『魔法使い』達や、偉業を残した強力な魔術師である『勇者』達、そして数多くの魔術師たちが強大な竜種と戦い、多くの犠牲と伴いながら人類の生息域を広げていった。そうして出来たのがここ、ブルタニア王国である。
ブルタニアは竜種との戦闘に備えた城を中心としている首都を中心に、道を伸ばし、点々と存在する都市の連なりが国を形作っている。
国の守りは王下騎士団が行っており、騎士団は国内の治安維持等を主目的とする第一騎士団と、巨大竜種含む魔物から城壁を守るための第二騎士団が組織され、騎士団総長が統括している。
一方、日々の生活のために魔道具の素材を集めたり、古代文明の遺跡を持ち帰ったりという仕事は必須であるが、有事に即座に対応しなければならない騎士に任せるわけにはいかない。
そこで王の許可を得た一般市民が、魔物や竜種と戦いながら素材や遺跡を持ち帰る役割を担っている。彼らは探索者と呼ばれている。
◆◆
探索者の一人、ギルド『夜明けの天馬』所属のC級冒険者ローラン・ヒルベルトは現在、荷車の背でぼんやりと空を見上げていた。
上空に偵察用の鳥の<使い魔>が飛んでいるのが見えた。見渡す限りの青い空と青々と生い茂る緑。五月にしては日差しが強かった。温かいのは気分がいいが、一日中外にいる身としてはもう少し雲があってもいいと思う。ときどき吹く風が心地よかった。
都市の外は危険なはずなのに何をのんびりしているのかと言えば、衛星都市カエルムから地方都市フルトゥームへの旅の途中だ。
ブルタニア王国は、我らがブレータ城のある首都ブルタニアを中心とし、その周囲で6角形を作るように6都市配置している。そのうち、北を上にした逆三角形の頂点になる3つの都市が衛星都市と呼ばれ、首都の次に大きな都市になっている。また、各衛星都市を中心にしてさらに六角形を作るように都市が形成されている。
ただし、首都ブルタニアの南東方向は陸ではなく海が広がっており4都市の建造が出来ず、また山脈と北西にある大山によって1都市の建造が困難であったため、ブルタニア王国は計11都市から成ることになる。
各都市は、竜種の脅威から身を守るためにそれぞれ強固な城壁で囲まれ、魔術兵器を装備している。定期的に発生する巨大竜種によって地方都市は被害を受けざるを得ないためブルタニアと三衛星都市の四大都市以外はあまり発展していない。
都市間の移動は通常魔物避けが施された”道”を使用する。”道”は簡単な作りで、あまり整備されておらず、ボコボコしている。今日もずっと荷車がガタガタしており、乗り心地はよろしくない。フィリップ・マルソー氏の荷車の屋根は木で出来ているため、そろそろ尻が痛くなってきた。いや、文句なんて言ってられないけど。
現在俺達一行が向かっているフルトゥームは、首都ブルタニアから北西にある衛星都市カエルムからさらに西南にある。隣の都市ノクスとともに国の最南端の都市である。
近年の人口増加と人類の生活圏の拡大への対応のための事業として、フルトゥームからさらに西南の方向の、森の麓の扇状地に新たな都市を建設している。
新都市はすでに魔物の除去や整備、城壁の建設がほぼ終わっていると聞いた。これまでは騎士団や探索者の作業者が主な住人だったが、今後住居を建てていくにあたり、多くの大工、職人が集まることが予想される。
そこで依頼人である商人フィリップ・マルソー氏は拠点を新都市の一つ手前のフルトゥームに移そうと考えた。
都市間を移動するなら当然一度都市を出ねばならず、竜種や魔物に襲われる危険が伴う。そこで我々探索者に護衛任務を発注した。俺と相棒がはそれを引き受けたうちの一人というわけである。
護衛任務は何も起きなければ非常に暇だ。
それでさっきはぼーっとしていたが、これほど気が抜けるのはおかしいのではないだろうか。
(事前情報によれば、この近辺では竜種の気配は無いはず。それは良いが、魔物も妙に少ない気がする)
隊列の上空には<使い魔>のモノミカナリアが飛び、周囲を警戒している。モノミカナリアは、非常に臆病な小型の鳥だ。竜種の気配がある地域の周囲半径1キロメートルには近寄らず、さらにその場から竜種がいなくなった後も最低3日はそれが続く。
相当なビビりだが、生き残るには有益だ。この特性から竜種が近くにいないかの下見によく利用される。
都市の防衛と都市間を移動する人々のために毎朝放たれて都市間を飛び回り、俺たち探索者はギルドを通じてその情報を得る事が出来る。
「ルイス、魔物が少なくないか?気配もない」
俺は荷車の左側を歩いている相棒に声をかけた。
彼は”泥人形ルイス”、2メートル程度の長身を、全身泥で覆いつくしている。 手足はひょろりと長く。深く暗い茶色の体は日差しを浴びても乾くことなくツヤツヤと輝いている。
ルイスは肩を肩をすくめる仕草をした。
彼は言葉を発する事ができない、という設定だ。「普段からこんなもんだろ」という意味だろう、言いたいことは大体わかる。
(気にしすぎか。あんまり気にしすぎても消耗するしな。)
違和感を覚えつつ、荷車の上で周囲の警戒を続けることにした。
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この物語はグリム童話"The queen bee"に着想を得ています。
「蜜蜂の嬢王」
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