第455話
「ああ、だから生半可なことじゃ、加護は得られないのか」
ルークはロビンから言われた言葉に納得した。言われてみればそのとおりだ。信仰もしていないのに、なぜ加護が得られると思っていたのか。
「先生。それでもいいので僕にもう一度基礎から教えてください。せめて姉さんの隣に立てるぐらいになりたいのです」
「あ?シェリーの嬢ちゃんの隣だ?ありゃ一種の特異者だ。オリバーもそうだったが、神に愛されすぎた者が陥る存在だ」
そのライターの言葉にスーウェンが反応する。それは白き神の存在を思わせる言葉だからだ。
「どういう意味ですか?」
「あー。なんていうか、グローリア国では時々存在していたんだよ。神に愛されすぎて種族の枠を逸脱した者がな。一番有名なのはやはり大魔女エリザベートだろう。人は3000年も生きられない筈だが、大魔女エリザベートが人族という枠を超え生き続けた」
確かに人は3000年も生きることはできない。この話はオリバーが以前カイルに話していた『狂った魔女』の話に繋がる物だ。
オリバーはシェリーこそが普通ではないといい。狂った魔女の例え話をした。神の加護を得ようとした魔女の話だ。
神の加護に生きる意味を見出した魔女の話。
そう、種族の枠を超え逸脱した力を得ることのできる神の加護は人の人生を狂わすほどの力がある。その加護を上手く使いこなせなければ、アフィーリアの様に微生物兵器を作り出し、被害をもたらすことになるのだ。
「まぁ、あれだ。俺たちが特異者と呼んでいる者たちと並ぼうと思えば、それこそ、神の加護を複数持っていなければ、無理だろうな」
「先生もその特異者なのですか?」
ルークは獣人を制した力を見せつけたライターに尋ねる。
「あ?俺か?俺なんてオリバーに比べれば可愛らしいものだ。5つしか加護を持っていないからな」
5つ。普通は1つも持っていないのが一般的だが、ライターはそれでも特異者には当たらないという。だが、軍人であり、討伐戦を戦い抜いた蛇人であるグレットを一撃で沈めたのは確かな事だ。
「それにエルフの兄さん。あんたは俺じゃなく、オリバーに教えを請うたほうがいいと思うが、駄目なのか?」
スーウェンはオリバーの力の一端を見せつけられたことがあった。それは魔導師として魔導術を使ったわけではなく、殴る蹴るだけで、己の父親の戦意を消失させた事だ。
その時にスーウェンは思った。この人物は自分とは次元が違うと。
「恐らく、これぐらい何故できないのかと言われて御仕舞になりそうです」
スーウェンから返ってきた返事は、ライターも納得すべきことだった。アイツなら言いそうだと。
その頃、グレイとオルクスはいうと、未だに第一層門で足止めをくらっていた。
「だからさぁ、ここを通してくれないか?」
「駄目だ」
「いや、だから青狼に用があるんだ」
「駄目だ」
という攻防を
「オルクス。ちょっとこっちに来い」
オルクスが苛立って第5師団長であるヒューレクトに手を出そうかと、上げようとした腕をグレイが掴んで、来た道を指し示した。
「何だ。グレイ!」
グレイの背を追いながら、イライラとした雰囲気をまとわしているオルクス。
「オルクス。今、手をだそうとしただろう?軍と事を構えるのは良くない」
グレイは当たり前の事を口にする。もしここでオルクスがヒューレクレトに手を出そうものなら、業務妨害で捕まり連行されるだろう。
「じゃ、どうしろと言うんだ?」
「第1層には許可がないと、入れないというなら、許可が貰えるところに行けばいい」
グレイは後ろを振り返って、不機嫌そうなオルクスを見て、ニヤリと笑った。
そして、グレイがオルクスを連れて来たところといえば····。
「あ?第1層内の仕事だと?」
タバコを吹かしながら、不機嫌そうに眉間をシワを寄せたニールのところだ。
「そんなことよりも、討伐依頼を受けろ。人が足りないんだ。働け!シェリーにもルークにつきっきりじゃなく依頼を受けに来いと言っておけ」
タバコを吸い殻に押し付け、新たにタバコを取り出すニール。その横にはニコニコと微笑むオリビアがいるのは変わりない。
「第6師団長と連絡が取りたいんだ。だけど、第1層には許可がないと入れないから、どうにかできないか?討伐の依頼は受ける」
グレイが討伐依頼を受けるので、どうにかならないかとニールに言ってみると、ニールは積んである紙の束から、10枚ほど抜き取った。
「期限は一週間だ」
「おい、どう見ても一日1件の量じゃないよな」
オルクスは日にちと紙の枚数が合っていないと指摘するが、ニールは呆れたような視線を二人に向ける。
「あ?第1層内に入る許可書をタダで貰えると思うなよ?これぐらい働け」
ざっと目を通すとおおよそCランクが受ける依頼ではなく、どうみてもAランクが受ける討伐依頼も混じっている。
「これを受けるなら、一筆書いてやろう」
ニールは紫煙を吐きながら、二人に向けて笑みを浮かべた。
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