第453話
「え?ライターさんじゃないっすか!なんでメイルーンにいるんすか?」
「お?お前、青狼の部隊に居た者か?」
どうやら、ライターとグレットは知り合いだったようだ。
「そおっす!クスト隊長の第2058突撃部隊にいたグレットっす」
いや、討伐戦を共に戦い抜いた者同士のようだ。そのグレットに向けて手招きをするライター。
「まぁ、入ってこい。ルークと····一度シェリーの嬢ちゃんと一緒にきたエルフの兄さんも入ってこい」
ライターは一度しかここを訪れたことのなかったスーウェンのことを覚えていたようだ。
中庭に通されたグレットは目を疑った。そこは高い建物に囲まれた空が狭い空間だった。だが、元々はこの場は人々が洗濯物を干したり憩いの場にする中庭である。
なので、そこそこの広さはあるが、地面はボコボコに荒らされ、その中央には見覚えがあるようでない筋肉ムキムキのウサギ獣人が仰向けで倒れている。倒れているウサギ獣人の近くには黒髪の者が倒れている。ライターがここに居て、黒髪の人物がいるとはグレットには嫌な予感しかしない。
「俺がここにいる理由はシェリーの嬢ちゃんがルークの剣の師にと俺を脅迫して連れて来たからだ」
ライターがこの国にいる理由を言ったが、何か物騒な言葉が聞こえた気がする。
「酷いだろ?ガキが大人を脅してくるんだぞ?」
そのライターの愚痴をグレットは真面目な顔をして答える。
「あの嬢ちゃんならあり得るっす。ちょっと聞きたいんっすけど、あの倒れている二人は誰っす?嫌な予感しかしないっすけど」
グレットは真剣な目をしてライターに尋ねるが、その話し方からどうも真面目に話しているようには聞こえない。
「ん?一人は確か第9師団長の息子だと言っていたな。名前はリッターだ」
「ファスシオン第9師団長の!!」
ファスシオンは線の細い美少年と言っていい容姿だ。しかし、倒れているウサギ獣人は筋肉ムキムキの統括師団長の血筋がうかがえる。いや、統括師団長の息子がファスシオンであるが。
「あっちの黒いのはナオフミの息子のユーマだ」
その言葉を聞いたグレットは慌てて、この場を出ていこうとする。が、首根っこのライターに掴まれてしまった。そう、蛇人であるグレットがいとも簡単にライターに行動を止められてしまったのだ。ただの人族でしかないライターにだ。
「まぁ、落ち着いて聞け。「コレが落ち着けるわけないっす!」」
ライターの言葉を遮って、ここを出ていこうとするグレットは、ライターの手から逃れようともがいているが、全くライターの手が離れる様子がない。
「あの勇者っすよ!これは国に報告する義務があるっす!この国に勇者の血を持つ者が2人もいるって、あの狂った···うぐっ!」
ライターはグレットの腹を殴って黙らせた。もう、ライターは人族ではない疑いが出てきた。
「黙れって言ってるだろうがぁ!!!」
ライターは怒声を響かせグレットを叱咤しているが、一度も黙るようには言ってはいない。
「おい、ここで滅多な事を言うんじゃねぇ!この一帯はオリバーの結界が張られているんだ!あいつの耳にでも入ってみろ!俺じゃアイツを抑えられないんだ!ナオフミよりもやばい奴を怒らせるなよ!」
思いっきり腹を殴られたグレットは意識を飛ばしピクピクと痙攣している。おかげで、世間では死んだとされているオリバーの名前を聞かれずにすんではいるが、やはりライターの人族ではない疑惑がさらに濃くなった。強靭で柔軟な筋肉を持つ蛇人の動きを止め、意識を飛ばすほどの攻撃を加える事ができるなど、普通ではない。
殴ったことで意識を失ったグレットをライターは舌打ちをして、地面に投げ捨てる。また一つ地面に横たわる死体が出来上がってしまった。
「で、ルークは何の用だ?」
ライターはここに再び足を運んだルークに用件を聞く。安易にお前もつまらないこと言うんじゃねーぞという、オーラを醸し出しながら。
「先生にもう一度、一から鍛え直してもらいたいんだ」
ルークはここに来た理由をライターに告げるが、ライターは増々機嫌が悪くなっていった。
「
確かにその言い方だと、今まで何も理解もできず、身にもついていないと捉えられる。
「あ、そうじゃなくて、今まで一対一でしか対戦していなかったけれど、もう少し視野を広げた戦いかたもしないと駄目だなって思ったんだ」
そのルークの言葉にライターは真剣な顔をして、ルークの目を隻眼で覗き込むように見る。まるで、ルークが言っている言葉の真意を探るように。
「違うな。それは誰かに言われた言葉だ。ルーク。お前自身で思った言葉じゃないだろう?」
確かにそれはカイルから言われた言葉だ。一対一でしか相手に剣を向けてこなかったルークにはわからない感覚だ。流石ルークの剣の師だと言って良いのか。流石、蛇人をぶっ飛ばす力を持った人外だと言えばいいのか。
「それで、エルフの兄さんは何だ?ルークの付き添いか?」
ライターに問いかけられたスーウェンはライターに抱いていた印象があまりにも違うため困惑しながらも、答える。
「魔導術と剣術を使いこなせると伺ったので、教えを請いたいと思いまして」
スーウェンがライターに抱いていた印象は所詮人族だという、見下したものだった。だから、己の言葉に是と答えるだろうと思っていたが、ここに来てそうでは無いかもしれないと思い始めていた。
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