第356話
カイルに殴れたオルクスは、カイルの速さに反応出来ず、そのまま部屋の端までぶっ飛ばされる。
そして、カイルはグレイ、スーウェン、そして、リオンに対してその拳を振るった。
「今回は流石に腹が立った。君たちは何?」
カイルは殴られ、吹き飛ばされた4人の元に向かう。竜人であるカイルにぶっ飛ばされたのだ手加減しているとはいえ、その衝撃は普通ではない。
グレイとスーウェンは意識を飛ばし、オルクスは起き上がれはしているが、立ち上がれないようで殴られた頬を押さえ、膝をついている。
リオンは何とか立ち上がっているもののヨタリとよろめいている。
「白き高位なる御方ならわかる。アレはこの地には存在してはならない人ならざる神だ。だけど、あの将軍と呼ばれているエルフはこの地に存在した者。そんな者に圧倒されて、無様に動けなくなって、君たちは何だ?」
カイルの頭の中に一瞬、この者たちの息の根を止めてしまえばいいのではないのかという考えが浮かんできた。勇者ナオフミの取った行動は正しかったのではと。
しかし、その考えを振り払うかのように頭を振る。その行動に己の番であるシェリーは良しとしないと。
シェリーがプラエフェクト将軍に言っていた言葉は正に自分たちに向けられている言葉なのではないのかと。
『守るべきものは番である聖女の心』
という事。はっきり言えば、シェリーはレベル100超えの英雄クラスだ。大抵の者はシェリーには敵わない。そして、本気を出していないとはいえ、レベル200超えのプラエフェクト将軍すら勝てるのだ。
それは番という存在を煩わしいと思うだろう。
だから、最低限はシェリーの足を引っ張らない力が求められるのだ。
「今回はただの手合わせだった。だけど、この世界には超越者クラスはまだまだ存在する。そんな者を前に君たちは膝を折り、シェリーに戦わすのか?それって違うよな」
カイルの言葉を聞いていたオルクスとリオンがハッとしてシェリーを見る。確かに今回は手合わせだった。それもシェリーがプラエフェクト将軍の戦い方は勉強になると言って、わざわざ彼らに見せつけたようなものだった。
そのシェリーはというと、部屋の一角にいたミゲルロディアのところに行き何かを話している。
自分は関係がないと言わんばかりだ。どちらかといえば、オーウィルディアの方がシェリーとシェリーのツガイたちの方をみてオロオロしている。
そして、カイルは気を失ったスーウェンの元に行き、無理やり目覚めさせる。
「今回、あの結界に対して対応できたのがスーウェン、君だけだったとわかっているのか?シェリーが怪我なく何事もなくて良かったけど、それは結果論だよな。あの場で剣に刺されたのがシェリーだったらどうするんだ?結界が解けないままになることぐらいわかるよな」
カイルに指摘され、アルテリカの火の結界の危険性に気が付き、カイルの言葉どおりだと理解したような驚いた顔をスーウェンがする。
なぜ、その考えに行き着かないのかとカイルは憤りを覚えるが、そもそも戦いの場に身を置いていなければ、考えが及ばないのかもしれない。
彼らに言えることは圧倒的に戦いという経験が少ないのだ。いや、それぞれの事情があることは理解できる。
それが顕著に現れているのが、未だに地に伏しているグレイだろう。女神ナディアの神言により、与えられたであろう教育が当主であるミゲルロディアにされなかったのは、マイナス要因でしかない。
「これで自分たちの未熟さがわかったのなら、戻ったら四の五の言わずにヨーコさんのダンジョンに行くように」
今まで何かと理由を付けて行くことを否定していた『愚者の常闇』ダンジョンに行くようにカイルは促す。その名が示す通り、愚か者はダンジョンから出ることが適わない。今の彼らに適したダンジョンだろう。
カイルが4人に対して憤りをぶつけているのを横目に、シェリーはミゲルロディアの方に向かっていた。本当ならミゲルロディアの為にこの場に来たにも関わらず、結局シェリーとプラエフェクト将軍との手合わせをするだけに留まったのだ。本来の目的は果たせずにプラエフェクト将軍は世界の記憶の中に還ってしまった。
「ミゲルロディア大公閣下。申し訳ございませんでした。私が彼と手合わせをするだけになってしまいました」
そう言ってシェリーはミゲルロディアに対し頭をさげる。しかし、ミゲルロディアは横に首を振りシェリーの言葉を否定した。
「いや、君が謝ることは何もない。ただ、私が超越者という者に興味があっただけだ。私では超越者を制御するのは難しいということがわかっただけで十分だ。過去には超越者を制御した当主もいたが、魔人となったこの身でさえ、その域に達することは無かったということだ」
ミゲルロディアは苦笑いを浮かべ、己の未熟さを笑った。例え魔人化し、膨大な魔力を内に秘めていても、扱えきれなければ、意味が無いと自嘲したのだった。
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