第340話
「賢者の塔の謎の消滅はそれが原因だったのか。番だというのなら、魔導師オリバーの奇行もうなずける。しかし、それがどうし·····ん?番?」
ミゲルロディアは目の前にいるシェリーと何かと名を耳にする5人を見る。
「聖女と番。ラフテリア様とロビン様。世界を浄化する者とその守護者ということか。これはまた常識というものを逸脱したものだな」
流石、統治者であっただけあり頭の回転は早いようだ。シェリーの言わんとしたことに理解を示した。
「そうですね」
シェリーは呆れるような声で同意する。全くもって常識というものを逸脱している。
ミゲルロディアは自分の息子に視線を向ける。そして、何かを納得したように頷いた。
「そうか、愛し子のことに口を出すなということは、聖女の番となるためだったのか。しかし、それならグレイは些か問題だろう?」
ミゲルロディアのその言葉にグレイは『うっ』っと声を漏らす。一番レベルも低く、足手まといになっている自覚があるだけに、己の父親から言われた言葉は胸に刺さった。
「私が判断することではありませんので」
シェリーの突き放す言葉がとどめとなり、グレイは耳をへにょんとさせ項垂れた。
「ナディア様もそうおっしゃってくだされば、トルドール遺跡ぐらいはいかせたものを」
ラースを教育するために使用するダンジョンにラースでは無いものを行かせると言うのは普通はあり得ないことだ。
「それも今さらなことだ。さて、昼も過ぎてしまったので、さっさと城に戻ろうか」
ミゲルロディアの言葉に外に視線を向けると天中高く太陽が上り、少々傾いていた。
昼?ミゲルロディアの言葉にシェリーは違和感が出てきた。昼を過ぎた頃にラースを出たはずだ。
ああ、時差か。きっと今頃あちらの大陸は日が沈んでいる頃になるのだろう。
ただ、城に戻るというミゲルロディアに確認しておかないといけない。本当にこのまま転移をしていいのかと。
「伯父様。このまま転移してもよろしいのでしょうか?お時間が必要なら後日、お迎えにあがりますが?」
「ん?私に必要なのはこの手記だけだからね。後は何も必要はない」
この手記。以前もそれ以外は必要がないと言われたミゲルロディアの番の手記だ。
そうであればと、シェリーは立ち上がる。
ミゲルロディアが戻る気になっているのだ。気が変わらない内に戻った方が良いに決まっている。
シェリーはスーウェンに視線を向けると、心得たとスーウェンは頷き、身の丈ほどの杖を取り出す。
そして、スーウェンは今いる部屋よりも少し小さめの転移陣を魔力で描きだし、魔力を陣に込めだす。その時突然部屋の扉が開いた。
「6番目!また、そっちの大陸に行くから、会ってよね!」
扉から顔を出したのはラフテリアだった。魔力が動き出したので、慌てて来たのだろう。
「シェリーちゃん。ありがとう。いくら感謝しても足りないくらい」
ラフテリアがそれ以上前に出て転移に巻き込まれないように肩を抱きながら、ロビンが言った。
それに対し、シェリーは何かを思い出したかのように『あっ』と声を上げ、ロビンに向かって声を掛ける。
「ロビン様。先日、新しい刀を手に入れたので、また、手合わせをお願いします」
普通に来週の予定でも言うように言った。海をまたいでいるというのに、直ぐに会えるかと言わんばかりだ。それに対し、ロビンはニコリと笑って返答する。
「いいよ。次、月が綺麗な日にしょう」
ロビンもまた、簡単に受け答えをする。それは転移を使えるのが、ラフテリアではなくロビンだからだ。そう、以前もラフテリアはロビンに頼っていた。首だけだったロビンにだ。
「では、そのように」
シェリーが答えると同時に、転移陣が光を放つ。
「『転移』」
スーウェンの言葉を同時に、シェリー達は魔の大陸を去って行った。
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「行っちゃったね」
ラフテリアがシェリーたちが居た場所を見ながら言った。
「そうだね。リアはこれからどうしたい?」
ロビンは愛おしい者を見る目でラフテリアを見る。長い間、同じ目線でラフテリアを見つめる事が出来なかった。この様に、人の姿となって見つめることは、この4千年間なかったのだ。
己が持てるものは頭脳のみ。だから、赤き魔女に頼んで魔導術を習った。
手があれば剣を持ってラフテリアを守れた。足があればラフテリアの元に駆けつけることができた。しかし、己の体は朽ち果て、その後、別の存在に成ってしまった。
無いものは仕方がない。己が持てるものでラフテリアを守らなければならなかった。
だからこその魔術であり、魔導術だった。
今は違う。己は新たに体を得た。剣が持てる手があり、駆けつけるための足がある。それに加え、マリートゥヴァが持っていた膨大な魔力が己の中に存在している。
同じ過ちは二度としない。
例え、番の絆が無くなってしまったとしても、ラフテリアが愛する者であることには変わりはない。
白き神から言われたラフテリアを守るという使命を果たす。ロビンも白き神との約束を守るために、剣を再び取る。
ラフテリアを二度と手放さない為に。
そのラフテリアはロビンを見て笑う。
「わたしはロビンが一緒に居てくれれば、どこでもいいよ。わたしが行きたいところはロビンの隣だから」
聖女であったラフテリアと聖剣であったロビン。
彼らは再び手を取り、神との約束を守る為に足を踏み出したのだった。
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大魔女エリザベートも時々名があがっておりますが、彼女も世界の鍵となる人物ではあります。
彼女の話も10話程書いておりますが、長くなりそうで、途中で止まってしまっております。いつかは投稿までこぎつけたいものです。
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