第290話
リリーナにわかってもらえないのなら仕方がないと、シェリーはアフィーリアの様子を見てくると言って席を立った。
シェリーが去った部屋には異様な空気が漂っていた。以前からシェリーと炎王が二人だけ分かる会話を見ていたシェリーのツガイ達はリリーナの言葉に同意見だった。
シェリーはわからないならわからないで構わないという感じで、去って行ったが、残された炎王は肩身の狭い思いをしていた。
「質問をいいだろうか?」
そんな空間を裂くようにカイルが炎王に声をかける。
「なんだ?」
「貴方もあのエルフの少女から死を予言されていたのだろうか」
あのダンジョンの最下層で言われたアリスの言葉が先程からずっとカイルの頭の中で繰り返されていた。
『黒の聖女が魔王に挑む未来は確定している。お前達が弱いと黒の聖女の足を引っ張る。お前達が黒の聖女を捕まえておかないと一人で魔王に突っ込んで行く。
己の番の死の未来だ。
「ああ、そこのエルフなら分かるだろうが、俺達のような者はエルフに殺されるそうだ。現に天津は殺された。」
炎王は先日スーウェンが言っていたようにエルフ族の排除対象となっており、英雄アマツの死はエルフによってもたらされたと。あの、恐ろしい技を使いこなした水龍アマツがエルフ族に敵わなかったというのだ。
「え?さっき死を選んだと言っていなかったか?」
黙って話を聞いていたグレイが思わず疑問を漏らした。確かに炎王は言っていた。天津に番がいれば死を選ばなかったのではと。
「アリスが天津に示した未来は2つだ。」
炎王は二本の指を掲げた。
「一つは己の死か、もう一つは己以外のモノの死か。後者を選んだ場合、天津の大切な者も天津が作り上げた国も全てが壊され、天津のみが生き残るというものだった」
誰かが息を飲む音が響いた。水龍アマツは究極な選択肢を黒のエルフに示されたのだった。
「アリスは天津は死を選ぶだろうと残していたが、そのとおりだった。先程佐々木さんが言っていた通り、真実を仲間の誰にも告げず一人になる状態を
「本当にそれ以外の未来はあり得なかったのだろうか」
カイルはそんな究極的な未来以外にも選択肢はあったのではないかと、仲間と共に生きる未来もあったのではないかと疑問を口にする。
「それは俺も昔思ったよ。だが、敵に回して痛感したエルフ族は恐ろしいと、流石、3千年間世界の王者で居続けた者たちだと」
炎王は何かを思い出しているかのように視線が定まらず、どこかここではないところを見ているようだ。
「いきなり転移で数十人が一斉に現れて総攻撃だ。本当にまいった。ミレーテを首都にした理由が嫌でもわからされた」
ミレーテを首都にした理由。それはもちろんユールクスがそこにダンジョンを構えているからだ。そして、炎王は最初にカイルが質問した意図に気がついた。
「もしかして、俺が未来を変えたように、黒の聖女の未来を変えたいのか?」
その言葉にカイルは頷く。
「どうだろうな。俺はどんな未来視を佐々木さんに示されたのかは知らないが、アリス自身が黒の聖女の未来視は一番不安定だと言っていたからな。どう転がるかは、なんとも言えないんじゃないのか?しかし」
炎王は言葉を止めシェリーが出ていった扉を見る。この近くには既に居ないシェリーを見るかのように
「俺と佐々木さんの在り方は真逆だ。俺は俺の庇護下に在るものは全て守ると決めた。だけど佐々木さんにとってそれは一人だけに向けられている。それ以外は仕事として受け入れている。それがある意味恐ろしいと俺は思うよ」
シェリーの在り方が恐ろしいと炎王は表現した。ルークの事は率先して動くがそれ以外のことは仕事として割り切っている。
聖女の事もツガイのこともギルドの仕事と同じ対応なのだ。
「あとは君たち次第ということだろうな」
炎王は目の前の者たちを見てニヤリと笑った。その後何かを口にしようとしたところで、ふと部屋の扉の方に視線を向けた。
何やら言い合っている声が段々とこちらに近づいて来た。
『何が駄目なのじゃ?』
『根本的なことが問題』
『頑張ってると褒めて欲しいぐらいじゃ。というか褒めて欲しいのじゃ』
『は?』
『皆、凄いと言ってくれておる。シェリーも凄いと思うじゃろ?』
『ただ単に周りが甘いだけじゃ?』
どうやら、シェリーとアフィーリアが言い合いながらこちらに向かって来ているようだ。
「二人は仲が良いのか?」
あのシェリーが、家族に対して以外敬語を常用しているシェリーが、アフィーリアに対してタメ口で話しているのを聞いてカイルが思わず口にした。
「傍から見れば仲が良いように見えるな。佐々木さんがアフィーリアの事をどう思っているか知らないが、アフィーリアは佐々木さんが来ていると知れば駆けつけて、楽しそうに話をしている。
仕事の話をしている時は邪険にしている佐々木さんも話が終わればアフィーリアの話は聞いているみたいだから、友達だろうと俺は勝手に解釈をしている」
扉が開き、シェリーとアフィーリアが同時に入ってきた。同時というより、シェリーはアフィーリアに腕を組まれて入ってきた。
「誰と誰が友達ですか?」
「と、友達じゃと!」
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