第285話

「聞いてはいませんが、いらなかったですか?」


 剣が欲しいか欲しくないかと問われれば、それは勿論。


「ほしい。あ、でも、先にオルクスとリオンの剣を」


「そういう約束でしたので、問題ありません」


「なんの約束?いつ約束した?」


「剣神とですので、気にしないでください。それに、オルクスさんとリオンさんの剣は作ってもらわないと駄目なので、直ぐには手に入りませんよ」


 剣神···。グレイがシェリーを説得していた横で、シェリーにしか見えない姿の剣神レピダが必死にシェリーを説得していた。


『剣は大事だよ!今回これわちゃったのはいい機会だから、僕のお気に入りのファブロに言って作ってあげるよ。

 それにもうナディアちゃんの愛し子の剣は作ってあるんだからね!この前、君が用意した素材で作ったドラゴンの牙で作った双剣!

 あの英雄ソルラファールと同じレッドドラゴンの剣!この愛し子にいいと思うんだよね。

 だから、炎国に行こうよ!』


 あの時シェリーは最近本当に神という者の接触が酷いと呆れていたのだった。



「剣神」


 オルクスがシェリーの側に寄ってきた。


「シェリー、剣神がシェリーの所に来て何を言ったんだ?あの仮面のヤツが剣神だったのか?」


 確かに見える形では仮面の者しか目の前に顕れなかった。しかし、あの仮面の者は本当に祭りを楽しんでいただけだと、シェリーは解釈している。


「違います。親方さんが剣神の加護を持っているので、剣神が口添えしてあげるから、炎国に行こうと言われただけです」


 色々端折ってシェリーは言う。まぁ大体合っているのでいいだろう。


「流石、鍛冶師ファブロだ。すごいな!」


 以前から欲しかった剣が剣神の加護を持つ者が打った剣だと知ったオルクスは尻尾をゆらゆらさせている。


「何が凄いんじゃ?」


 奥からファブロが布に包まれたものを持って戻ってきた。その後ろからは大柄な鬼族の男性が付いてきている。何かと雑用を押し付けられているベンだ。


「なんでもありませんよ」


 そう言ってシェリーは入り口から体をずらし、ファブロに道を開ける。


「本当に黒髪だ」


 何度か顔を合わせたことのあるベンが珍しそうにシェリーを見る。


「こんにちは、ベンさん」


「なんで、黒髪なんだ?でも、こっちの方が絶対にいいよな」


 子供の頃から炎王の紹介でここで刀を作ってもらっていたシェリーがいきなり金髪から黒髪になったのだ疑問に思わないわけはない。


「昔は背が同じぐらいだったのに、今も相変わらず小さいのに、姿は変わるなんて変だよな」


「鬼族と違ってそんなに大きくなりませんよ」


 シェリーは呆れたように言う。種族が元々違うのだベンの様に見上げるほど大きくなれはしない。


「ベン!喋ってないでさっさと人形ひとがたを設置しろ!」


「はい!只今!」


 ファブロに言われ慌てて、走り出すベン。確かにここを紹介されて少ししてから見かけるようになったベンは同じぐらいの背だったが、ここに来るたびに竹の子のようにぐんぐん背が伸びていった記憶はあるなとシェリーはベンの背中を見る。


「シェリー。彼とは親しいのかな?」


 なんだか機嫌が悪そうなカイルが話掛けてきた。シェリーは何あったのかと首を傾げながら


「ここに来て話をするぐらいです」


 と答える。親しいかと問われればどうだろうか。彼はファブロと同じで頭の中は剣のことでいっぱいの人物だ。話の内容も素材に関するものだったりする。


「ふーん」


「赤髪の兄ちゃん!これで試し切りをしてみてくれ」


 広場の中央付近で鎧の人形ひとがたの横でファブロがグレイに呼びかけている。シェリーの横にいるカイルは納得したようで、あまり納得していないようだ。


 グレイはファブロの所に行って、剣を受け取り、刃を顕にする。2本の対になった剣は1本は赤い刃でもう1本は白い刃だった。


 柄はドラゴン皮でできており、鞘も同じくドラゴンの骨と鱗できていた。とても美しい双剣だった。


 グレイはその双剣を手に持ち構える。そして、鎧に向かって一撃、回転して二撃目。一撃目で固定された鎧は宙に放おり出され、二撃目で真っ二つに割れた。


 地面に降り立たグレイは双剣を見ていた。信じられないと言わんばかりに凝視している。見た感じだと普通だと思えることだったが、使い手のグレイには何か感じる事があったのだろう。


「どうだ?面白い剣じゃろ?片刃ずつ仕様が違うから、使いこなせば中々楽しいと思うぞ」


 剣に楽しさは求めてはいないが。剣神がグレイの為に作った剣だ。グレイの特性に合った仕様になっているのだろう。



閑話


「ベン!喋ってないでさっさと人形ひとがたを設置しろ!」


「はい!只今!」


「お前、死にたいのか?」


「は?」


「あの嬢ちゃんの周りを見て気が付かないのか?」


「何をです?」


「はぁ。もう少し剣以外の事を勉強した方がいいかもしれんのう」


 ファブロは弟子に向かって遠い目をしていた。

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