第233話

 仕方がないので、マップ機能を使用する。家の中ではこのスキルを使いたくないのがシェリーの本音だ。知らなくて良いものや有ってはならないモノが家の中にあったりするからだ。

 以前、シェリーと佐々木に人格が別れていたときシェリーがあまりマップ機能を使用しなかった理由もこのあたりにあったりする。


 どうやら、後ろにいるのはリオンのようだが、地下の現状を垣間見てしまい思わずため息が出てしまった。後で、処分するようにオリバーに言っておこうとシェリーは心に留めておく。


「リオンさん。そろそろ起きたいので離してもらえますか?」


「・・・。」


 返事がない。一体何の反省中か知らないが、今日は冒険者ギルドに行って全ての依頼が完了したと報告しに行かなければならない。


「はぁ。グレイさん、これ何とかなりません?今日は朝から冒険者ギルドに行く予定なのですが?」


「うーん。カイルがアレを簡単に倒したって聞いてからこんな感じなんだよな。」


 あれ?昨日の龍人アマツのステータスが付与された鎧のことか。元々、あの鎧を制するには陽子が言っていたようにレベル150以上の者か、鎧の特性を凌駕した攻撃で押え込むしかないのだ。


「仕方がないのでは?あの鎧は龍人のステータスを持っていましたから、普通では対処不可能です。」


 シェリーがそう言うと解放された。龍人という言葉に納得してくれたようだ。また、捕まらないうちにシェリーはさっさと起き上がりベッドから下りる。

 そんなシェリーにグレイは聞いてきた。


「因みにシェリーはカイルが倒した鎧に勝てるのか?」


「本人ではなく所詮鎧ですから」


 勝てるか勝てないかは断言しなかったが、所詮、鎧。その言葉にグレイとリオンは項垂れてしまった。



「なぁ。なんで勝てないんだ?」


 カイルの膝の上に座らされ食事をしているシェリーにオルクスが聞いてきた。


「多数の相手だったから負けたんだと思ったけど、一対一でもなんで勝てないんだ?」


「私に聞かれても困るのですが?」


 シェリーは呆れながら答えた。そんな事は知ったことではないと


「レベルが足りないからなのか?」


 シェリーがまともに答えなくても、更に聞いてきた。真剣な目をして、オルクスが聞いてきた。


「レベルは関係ないと思うよ。あのヨーコさんがレベル150はないとキツイと言っていたけど、シェリーはそこまでレベルないから、そこにこだわらなくてもいいよ。」


 そう、カイルが断言した。確かに陽子がそのような事を言っていたことも、シェリーがレベル150無いことも事実だ。


「じゃ、何が問題なのだ。」


 今度はリオンが聞いてきた。カイルを睨みながら・・・己が倒せなかった鎧を倒した事が相当根に持っているのだろう。


 何が問題・・・それをシェリーがなぜわざわざ指摘しなければならないのだろう。シェリーは無視をして食事を続ける。


「シェリー、答えてあげないのかな?」


 カイルにそう言われる。シェリーは黙々と食事を続ける手を一度止め


「炎王が悪い。」


 と一言だけ言って、また食べ始める。シェリーの一言にリオンは首を傾げ、カイルは「ああ、そういう事」と納得したように呟いた。


「リオン。君は炎王と手合わせをしたことが幾度かあるよね。俺も覚えがあるけど、絶対的強者に勝てないから途中で諦めてしまう。目の前の者には勝つことができないとそこで思考が止まってしまってないか?」


 カイルの言葉にリオンは何か思い当たることがあるのかハッとした表情になる。


「多分それが刷り込まれてしまっているんだろうね。あと、何で魔力が豊富にあるのに使わないのか不思議なんだけど?」


「豊富?初代様から比べると水滴ほどしかないのに?」


 リオンの言葉にシェリーは食後のお茶をのみながら、ため息を吐く。


「はぁ。馬鹿。陽子さん、炎王がそろそろそっちに行く頃だと思うから、来たら教えて下さい。」


 シェリーは何処ともなくポソリと声を掛ける。すると、『りょうかーい』とどこからか陽子の声が聞こえてきた。


 その声にグレイは「うぉ!」と声を発して立ち上がり辺りを見回していた。


「なんであの女の声が聞こえてくるんだ!」


 オルクスも立ち上がって辺りを見回している。そして、


「ヨーコって言ったよな。もう一度戦わせろ!」


 オルクスが怒鳴るように声を上げる。それに対して陽子は『ササッちに無駄って言われたからダメだよぅ。』と声が返ってきた。

 その返答にオルクスはお茶を飲んでいるシェリーを見る。


「何か?」


「無駄ってどういうことだ?」


「そのままです。」


 答える気がないシェリーはそう言ってカイルの膝の上から下りる。


「私も聞きたいですね。」


 しかし、隣にいるスーウェンに掴まってしまった。抱き寄せられて、シェリーに微笑んでいるが、目が真剣だった。


「はぁ。私、冒険者ギルドに行きたいのですが?」


 一応、シェリーは自分の要望を言ってみることにした。

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