第230話
陽子の言葉にグレイは黙り込んでしまった。確かにその時よりレベルが上がったが、以前剣を交えた聖剣ロビンに勝てるかと言われれば勝つことはできないと言えるだろう。
「なんの話だ?」
唯一、その時居なかったリオンから疑問を呈された陽子は未だに壁際に待機させていた数体の鎧の一体に声をかける。
「ロビン君こっちに来て」
すると首がない鎧が一体、陽子の側までガシャガシャと音を立てながらやってきた。
「これ聖剣ロビンのステータスを付与した鎧。魔力まで再現されていないけど、剣術は本人以上だよ。鬼くんが刺されたヤツだよね。」
「幾度かここに来てその名を聞くが何者だ?聖剣という者が存在した歴史は無かったはずだが?」
その言葉に陽子は首を傾げる。その存在を目にしたことのある陽子にしたら歴史では存在しないことになっていることが不思議なようだ。
「あれぇ?聖剣が存在しない?それっておかしくない?あんな強烈に印象が残る存在が?じゃ、あの歪んだ聖女様も?」
「歴史の改竄です。」
チェックをし終わったのか、シェリーが顔を上げて陽子に真っ赤になった紙の束を差し出してきた。
「おお、真っ赤だ。歴史の改竄かぁ。まぁ、私が言いたいのは、この鎧にすら勝てないのにドルロール遺跡のダンジョンに行くなんて陽子さんは許しません!」
陽子がロビン君と呼んだ鎧をコンと叩いて言った。
「それってあの暴君レイアルティス王のステータスをもった鎧もあるのか?」
オルクスが陽子に聞いてきた。そう、以前にオルクスが言っていた。暴君レイアルティス王ともう一度戦わせろと。
「ないよ。これさ、動力に魔石を使ってるから、魔力の再現ができないって言われたんだよね。だから、魔導師のレイアルティス王とかエリザベートのステータスの鎧はないんだよね。」
「ないのか。」
オルクスはとても残念そうに言うが陽子は壁際に待機させている別の鎧を指して
「あれならいいんじゃないかな?プラエフェクト将軍のステータスだよ。魔剣グラーシアも再現して欲しいと頼んでみたけど、趣味じゃないと断られてしまったんだよね。」
陽子の指した鎧を見たオルクスは顔を嬉しそうに歪めた。
「あれか。あれに足を持っていかれたんだよな。食後の運動にあれと戦わせてくれ。」
「いいよ。そのために、元のところに帰さずに待機させていたんだよね。」
陽子はニコリと笑った。そして、彼らにとって欲しい言葉も追加した。
「特別にこれらの鎧を行動不能にすれば、経験値をあげちゃうよ。なんたってここはダンジョンだからね。」
そして、シェリーは裏庭に連れてこられてしまっていた。シェリーはどうでもいい事だったので、行く必要はないと言ったのだが、陽子に引っ張って来られた。治療する要員は必要だと言われ・・・陽子も彼らが不死身の鎧に勝てるとは思っていないようだ。
一対一の形式で行うようなのだが、カイルはシェリーの隣にいる。陽子曰く、カイルが戦うと鎧自体を破壊されそうなので、後でオリバーのお小言が降ってきそうだから駄目だと判断したらしい。
「はい。はじめー。」
陽子が鎧に命令したことを開始するように言葉を放った。それと同時に金属と金属がぶつかる音が響く。
「狼くんとロビンとじゃ、やっぱり力の差は歴然だね。」
陽子がシェリーに話し掛けるもシェリーはこの場が時間の無駄だとすら思っている。
「えー。無視なの?ササッち。無視!」
「時間の無駄。」
「そう言わないよ。ほら、頑張っているじゃない。エルフの兄ちゃんはササッちが言っていたことを実行して失敗しているけど」
スーウェンは地面に穴を空けて落とすまでは良かったが、直ぐに鎧が跳躍して穴から飛び出してきた。
「普通の穴を空けるだけじゃ駄目なのはわかりますよね。」
「わからないんじゃないから、こうなっているんだよ。」
飛び出してきた鎧に攻撃され、スーウェンは魔術も紡ぐ暇も与えられず防戦一方のようだ。
「はぁ。地面を泥状化して沈めてから水分を抜くとか思わないのですか?あの筋肉うさぎの先祖のステータスですよ。」
「やっぱ魔導師は近接戦は不利だねぇ。一番にエルフの兄ちゃんが脱落だね。」
陽子がスーウェンに攻撃していた鎧に止まるように命令して、スーウェンを回収して鎧がこちらにやってきた。
死にかけた人物に更に戦うように強要した陽子も陽子だが、それを止めようとしなかったシェリーもシェリーだ。
シェリーはスーウェンの傷を治し、陽子に家の中に連れて行くように言う。
「やっぱ連戦はきつかったかなぁ。」
残りの3人の戦いを見ていた陽子がポソリと呟いた。
「でも、冒険者をしていると、こういう事はよくあるよね。一晩中、山の中を駆けることもあったしね。」
「私は結界を張って休みます。」
シェリーはカイルの言葉を否定したが、そもそもシェリーの結界のように強力な結界を張れる人物は皆無と言っていいだろう。
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