第180話

「ヨーコ・・・ああ、ラースが育てているダンジョンマスターか。」


「育てていません。」


「ククク。我はこの『王の嘆き』のダンジョンマスターだ。」


 やはり、陽子と同じダンジョンマスターだった。


「と言うことは、近くにダンジョンがあるということか?俺はそんなこと全く聞いたことないぞ。」


 オルクスはこの国の傭兵団長をしていて、ダンジョンの話は一度も聞いたことなかったらしい。


「このギラン全土が我のダンジョンだ。」


 また、おかしな言葉が出てきた。この国全土がダンジョンだと言っている。そんなことあり得ないことだ。


「え?それは流石にあり得ないんじゃないのか?」


 グレイがあり得ないと言うが、隣にいるシェリーはその言葉を否定しない。


「それで、冒険者ギルドに頼んだ依頼とは何ですか?」


 シェリーはユールクスが何者かわかったのなら、ダンジョンの規模などどうでも良いと言わんばかりに、ギルドマスターに言われた依頼の事をユールクスに尋ねる。


「ああ、それなんだが、そこの金狼がここ最近仕事をサボっておってな、ダンジョンの掃除をやって欲しいのだ。」


 その言葉にシェリー怪訝な顔をして


「掃除?もしかして、ダンジョン内の魔物が増えすぎただけでは?」


「そうとも言う。」


「ちっ。シド総帥閣下。仕事をしてください。」


「あ?だから引き継ぎせずにやめたヤツのせいで傭兵団の仕事が俺に回って来ていると言っているだろ。ダンジョンの事まで手が回らん。」


 そういうことか、ギルドマスターが言っていたオルクスがいなくなったことで仕事が溜まっているというのは、傭兵団の仕事をシド総帥がしていることで、裏でやっていた仕事ができなくなっていると言いたかったのか。


「そもそも、それは私でなくても良いですよね。他の冒険者でも傭兵団の者でも良いはずです。」


 確かに、他国の者であるシェリーがせずにギランの人達がやればいいことではないだろうか。


「それはダメだ。傭兵団の奴らも国中走り回っているんだ。それから、ギルドはAランク以上の冒険者しかダンジョンに行く許可が出されていない。しかし、ダンジョン以外の魔物の活性化が起こっていて、冒険者ギルドも手が回っていない。Bランク以下だと居心地が良すぎて住みだすヤツが出てくる。だからダメだ。」


 ダンジョンが居心地が良すぎて住み着いてしまう。その言葉を聞いてシェリーはため息を吐く。ここのダンジョンに潜ったことのある者たちには納得できる言葉だった。

 だから、許可が得られた者しか王の嘆きのダンジョンに潜ることができない。


「それで報酬は何ですか?」


「ダンジョンの新たな道の扉を開けてやろう。」


 ユールクスがシェリーへの報酬として提示したものはダンジョンの未攻略の場所への導きだった。それは報酬としてはいささか不釣り合いな物だと思われる。しかし、シェリーは


「いいでしょう。しかし、今新たな道を開けることへの意味はなんですか?」


「ラースが探していたものが、まだあるのだよ。」


「ちっ。あの時もう無いと言っていましたよね。」


 この『王の嘆き』ダンジョンの存在を教えてもらい、5年前にこの国に来た時、そこにいるシド総帥と冒険者ギルドのギルドマスターに頼み込んで・・・いや、力ずくで許可をもらい、ダンジョンに潜っていたのだ。あるかないかわからないモノを探して。

 そして、ダンジョンマスターを捕まえてあるかないかわからないものの場所を聞き出していたのだ。


「そうだ、あの時のラースに見せられる物はアレだけだった。今ならもう一つ見せてやろう。」


 どうやら、そのモノに条件指定をされていたようだ。


「掃除は表と裏どちらで、道は何処から入りますか?」


「掃除は表30階層までで道は裏50階層だ。」


「それは30階層から裏に入って掃除しろということですか?」


「そうとも言う。」


「ちっ。」


 シェリーは考える。目の前のダンジョンマスターを見ながら考える。ここのダンジョンは表ダンジョンと裏ダンジョンが存在する。表ダンジョンはAランクの冒険者なら攻略できる仕様になっている。

 しかし、裏ダンジョンとなるとレベル100を超えていないと厳しいのだ。はっきり言ってSランクの冒険者仕様のダンジョンと言っていい。この大陸にある古いダンジョンには表と裏があるダンジョンが多い。

 一度、目の前のダンジョンマスターに聞いて見たことがある。なぜ、裏ダンジョンなんて物を作ったのかと、その答えは『暇だったから』だった。長くダンジョンマスターなんて物をしていると、作りたくなってくるものなのだろうか。


 レベルが100を超えていないと裏ダンジョンは厳しいとなると、グレイとスーウェンとオルクスは付いていけなくなる。というかはっきり言って邪魔だ。しかし、置いていくとなると文句が出てくるに違いない。とすると・・・。


「一つ提案を言わせてもらえますか?」


「なんだ?」


「表の5階層から30階層までをこの4人に掃除をしてもらうことにして、私が裏を1階層から50階層まで掃除をしましょう。ですから、経験値を倍にしてください。」


 シェリーはしれっとレベルが200を超えているカイルも外した。


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