第123話

 シェリー達が屋敷の外に出ると、そこにはスーウェンと第9師団長のファスシオンと数名の軍兵が立っていた。


「で?今度は何をやらかしたの?」


 ファスシオンがシェリー達に聞いてくる。


「前回も今回もわたし達は冒険者ギルドからの依頼を受けただけです。」


「ここに来る前にギルドに寄って依頼は確認してきたけど、ポルターガイストで軍兵を呼び出さないで欲しいな。」


「地下に死体の山がありますのでお願いします。」


「はぁ?死体?」


「それでは、よろしくお願いします。」


「いやいや、それだけ言って去ろうとするな。」


「まだ、用はありますので、屋敷の中には居ますよ。」


 そう言ってシェリーは再び屋敷の中に戻っていった。

 シェリーは階段を昇っていく。もう、屋敷の中では物音も声もしない。

 シェリーは一つの扉の前で立ち止まった。先程の物置らしき小さな扉だ。そこの扉をそっと開けると「ゴトリ」と廊下側に何かが倒れ込んできた。窓からの入る月明かりに照らされたそれは、2つの小さな死体だった。多分幼い兄妹が地下から逃げ出し、ここまでたどり着いたが力尽きたのであろう。


 シェリーは幼い兄妹を運ぼうと手を伸ばし、手を止めた。2つの死体の額には文字が刻まさていた。


『神の供物』


 神の供物、即ち生贄だ。なんの神に捧げた生贄だ。あの謎の生命体はこのような物は望まない。女神ナディアもだ。

 それとも人が勝手にやっていることなのだろうか。


 神の供物・・神?神を降臨させることができる巫女!もしかして、これもマルス帝国の仕業なのだろうか。


「シェリー・カークス!あの死体の山はなんだ!」


 ファスシオンが地下の状況を見て、やって来たようだ。


「見てのとおりですが?」


「あれはまるで・・・。」


 ファスシオンも思い至ったのだろう。言葉にする事はできないようだ。


「生贄ですよ。この幼い兄妹も一緒に引き取ってください。」


 ファスシオンは近づいてきて、シェリーの横に立つ。


「アルスとミレーなのか?行方がわからなくなったと聞いていたのにこんなところで。」


「知り合いですか?」


 知り合いでもおかしくない。なぜなら、幼い兄妹はウサギ獣人なのだから。


「従兄弟の子だ。10年前に行方がわからなくなったと聞いていたんだ。」


 10年前?それにしては死体が綺麗すぎる。まるで昨日息が止まったかの様に肌が瑞々しい。

 何かがおかしい。ちぐはぐだ。多分、謎の生命体は知っているだろうが、聞いても教えてはくれないだろう。

 これ以上は考えても仕方がないと思い、シェリーは事後処理をファスシオンに任せ屋敷をあとにした。



 シェリーたちはブライから聞いていた宿に着き、遅めの夕食を取っていた。しかし、誰も話すことは無く黙々と食べていた。


「なんんだ?この通夜のような夕食は。」


 声を掛けてきたのは、先に宿に来ていたブライだ。


「え?無視。無視なのか?酷くないか?」


 誰もブライの言葉に返事をしない。


「はぁ。マジで無視は悲しいからしないでくれるか?あれだろ?屋敷に潜んでいるヤツを捕まえに行っただけだろ?」


 ブライはオルクスと同じくポルターガイストを侵入者の仕業説にするタイプらしい。


「それなら、どれだけ楽だったか。」


 ブライの言葉をグレイが否定する。


「違ったのか?」


「ここでする話じゃない。」


 確かにここには、あの問題児アイラを黙らせる為に程々いいランクの宿なのだが、この時間でも遅めの夕食を取るために食堂を利用している客はそれなりにいるのだ。他の人の耳に入っていいことではない。



「うわー。俺、第9師団じゃなくってよかった。あの屋敷の元貴族の当主は確か事故で死んで、一族も次々と謎の死で生き残りがいなかったよな。そんなの絶対に何があったか、わからないじゃないか。」


 なぜか5人部屋に通され、ブライが話を聞いてきた。なぜ、5人部屋なのか後でブライを問い詰めなければならないとシェリーは思いつつ、話には参加をせずにルークへの手紙を書いている。


 本当は毎日手紙を送りたいが勉強の邪魔になってはいけないと思い、学園に行ってからは一週間に一度だけ手紙を送るようにしている。今回のルークからの手紙は闘技場の修復のお金を出してくれたことへのお礼とあの最高学年のプライドをへし折る授業に関してだった。そして、最後にカイルさんが側にいることはわかるけど他は誰?と言う言葉で締められていた。

 なぜ、カイルが側にいることにルークは理解を示しているのだろうとシェリーは首をひねる。


 シェリーはペンを取り書き始める。


『愛しのルーちゃんへ

 お姉ちゃんはルーちゃんが居なくて毎日寂しいです。長期休みが待ち遠しく感じます。

 お金のことに関してはいいのよ。ルーちゃんが楽しく学園生活を送ってくれれば、お姉ちゃんは嬉しいです。

 あと、闘技場のルーちゃんはすごっくかっこよかったです。あのまま、魔術で脳筋猫をボコボコにしてくれてよかったのよ。

 それから、赤い犬とエルフは母親の親戚になります。脳筋猫は侵入者兼居候です。魔術が苦手らしいから、練習台にするといいわよ。

 これからシーラン王国を離れて、炎国へ向かいます。何か欲しいお土産があれば教えてね。 お姉ちゃんより』


 シェリーは満足げに手紙を封筒の中に入れ封をし、ルーク専用の陣の上に置き手紙を送る。さて、こんな手紙をもらったルークはどんな反応をするのだろうか。

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