第80話
シェリーは王都の北にあるイアール山脈の麓に来ていた。あれから5日たっていた。聖女様デビューとしてニールが選択した依頼は巨大スライムの討伐だった。普通のスライムならその辺の木の枝でプスプス刺していたらスライムの核に当たっちゃたと言う感じで子供達の遊び相手兼魔物狩りの練習台なのだが、スライムが巨大かするごとにスライムに様々な特性が付随し手が出せなくなるのだ。
今回は3
聖女様に1体は倒してもらい、他のスライムは王国北側管轄の第10師団第1中隊の中でも特殊班と言われる、精鋭部隊が始末することになった。
シェリーはアンディウム師団長と合流し聖女候補の到着を待っていた。シェリーの右側にカイル、左側にグレイ、後ろにスーウェンとオルクスが陣取っている。これはもう問題にしかならないと悟ったシェリーの目は死んでいた。
シェリーは説得した。付いてきても1人だと。しかし、誰一人として説得できなかった。
シェリーはアンディウムみたいなのがタイプなのかとかアンディウムが好きなのかとか言われたが、冒険者の御姉様方とか軍の御姉様方が噂をしているのを聞いていただけで本人を見たのは出回っている絵姿と昨日が初めてでタイプとか好きとかではないと言ったがダメだった。
そして、4人ついて来た。
「アンディウム師団長、集合時間から
シェリーは魔時計を見ながら言う。今日の
「君が帰ったら私が困るからダメです。」
「自力で頑張って欲しいです。」
「しっかし、遅ぇよなぁ。」
薄い青色の髪にオレンジの目をした猫獣人がやってきた。今回の討伐を任された第10師団第一中隊長のヴァン・リヴィーニ中隊長である。
「昼寝してきていいっすか?」
「ダメです。」
「聖女候補ってのは、人を待たすほど偉いのか?」
「聖女候補は未知の生物です。偉いかどうかは関係はないでしょう。」
「アンディウム師団長。聖女候補は人族だと聞いたんっすけど、間違ってたんっすか?」
アンディウムは空を見上げながら
「生物学的には人族でしょう。しかし、言葉が理解できないのです。」
「相当、頭がキテるってやつですか。そんなやつを聖女にしていいっすかね。」
「教会でどうにかしていただきたい。こっちにはもう振らないでほしい。」
アンディウムは懇願するように空を見つめている。傍で見ていると山脈を背景に白い軍服を着た天使が神に願いを届けているようだ。シェリーは広報の御姉様方から渡された魔道写真機でその姿を収めておく。誰かのツボにははまるだろう。
遠くの方で何かが近づいて来る音がする。ガラガラと大きな音がすることから馬車なのだろうが、もしかして王都からこのイアール山脈まで地道を馬車で移動したのか?一体何日かかるのだろう。
馬車移動なんて農村の荷馬車か貴族の威厳のためにしか使われていないし、それも貴族は都市の中を移動するぐらいで、さすがに長距離を移動するとなれば騎獣に直接乗るか、騎獣に専用の魔道馬車をつけ空を飛ぶ、騎獣の負担が大きいためそれほど長くは飛べないが、それでも地道を走る馬車より断然早い。
荷馬車を引くのによく使われる大型の二羽の鳥型の騎獣に豪華な馬車が繋がれており、アンバランスさがにじみ出ている。言い換えれば、荷を運ぶのに使われるロバに豪華な馬車を引かせている感覚だ。
この鳥は飛べず安定性がないため荷馬車専用と言っていい、乗り心地はきっと最悪だろう。御者が降りてきて出入り口に足場を用意し扉を開けた。
中から出てきた人物は御者が手を差し出したにもかかわらず、それを無視し自分の足で足場に降り立ち、裾の長い服を踏んでしまったのか上手く足が出せず、顔からダイブした。
そもそも、魔物の討伐をしに行くのに、夜会に行くような肩を出し裾が長く広がったドレスを着てくるというのはどうなんだ?金髪青目の縦ロールを施された髪は解れかかり 、美人というより、可愛らし13歳ぐらいの少女が着るのには少し早いのではないだろうか。
「ちょっと手を貸すぐらいしなさいよ。」
ちゃんと御者は手を貸そうとしていた。しかし、その手を取らなかったのに文句を言われてしまっては、どうしようもない。
聖女候補の少女のあとから人が出てくる気配が無く。もしかして教会は聖女候補を一人で来させたのだろうか。アンディウムもそれを不自然に思ったのか御者に聞いていた。
「聖女候補の付き人の方はいらっしゃらないのですか?」
御者は聖女候補の少女を無視し、申し訳なさそうにして
「途中まで4人のシスターが乗っておられましたが、皆さん馬車に酔われて、途中で降りられてしまいまして、聖女候補お一人をこちらにお送りいたしました。」
その答えを聞いたこの場にいる者達の心の声は一つになった。
━なぜ、魔道馬車ではなく普通の地面を走る馬車にしたのだ━ と
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