第71話

 脳筋猫が強制送還された後、すぐさま、結界を元通りにしてもらい。シェリーは安堵感を覚えた。


「まさか、結界が壊されるなんてね。」


 一仕事を終えたオリバーは相変わらず、目の下の隈が酷い状態の顔でニコニコしながらカレーを食べていた。シェリーにお詫びに好きな物を作ると言われて 、即座にカレーと答えたのだ。カレーのスパイシーな感じが脳内に刺激がイって癖になってしまったらしい。


「もう、三重さんじゅうぐらいしてほしい。」


 シェリーはお茶を飲みながら要望を伝える。因みにカイルの膝の上でだ。


「無駄だと思うよ。猛将プラエフェクト将軍の質を纏っているなら無駄。」


「あー。もう少し一般人的の理性を付けて欲しかった。」


 シェリーは頭を抱えてしまう。


「どういうことです。その言い方はまるで・・・。」


 まるで、そう存在するように造られたように聞こえる。


「シェリーの番達は神の遊び心で造られたと推測できるんだよ。」


「俺達が造られた?」


「そうだよ。初代聖女の番の質を纏ったグレイ君」


 オリバーは持っていたスプーンでグレイを指す。


「では、例の彼が2番目の聖女の番であるプラエフェクト将軍なら私は3番目ですか?」


「正解、3番目の聖女の番の教皇グラシアドースだよスーウェン君。そして、カイル君。君は勇者ナオフミの質を纏っている。そんな、嫌そうな顔しなくてもいいじゃないか。ナオフミではなく勇者の質だよ。」


「では、最後の一人はまさか」


「そう、4番目の聖女の番、暴君レイアルティス王。聖女を手にいれるために、エルフの国を亡ぼし精霊王国になるきっかけになった人物だね。シェリーが番というものを避ける意味がわかるだろ?」


 はぁ。とシェリーはため息を吐く。ここ1ヶ月、シェリーが愛してやまないルークが離れたことを切っ掛けとして、カイル、グレイ、スーウェンそして追い返したものの脳筋猫。いくらなんでも早すぎる。あの白い謎の生命体が関与しているのは間違いない。


「ん?ちょっと待て。初代聖女の番って聖剣だったよな。俺はそんなに剣は得意じゃないぞ。」


 グレイが疑問を呈する。確かにグレイは剣を使うが身体能力の素早さを生かした、アサシンの戦闘タイプだ。だから、普通の剣も使うが短めの双剣を普段は使っているのだ。


「君達は従兄弟いとこで、本当なら幼馴染として育つはずだった。多分、初代聖女だけがまともに役目をはたしていたのだろう。だから、番であり幼馴染という役を与えられた。

 神の誤算はシェリーとナオフミが知り合いだったこと。それもシェリーが文句を言うほど嫌っているなんて思わなかったんだろうな。で、シェリーは血の繋がった勇者と聖女より、ルークと俺を取ったことで君は役を果たせなくなったというわけだ。」


「おい、その言い方だと本当は全て神の手の上で転がされていたといいたいのか。」


「シェリーが斜め上の行動に出なければそうなっていただろうな。」



「シェリー、シェリーは俺達が嫌い?」


 先程から何も話していなかったカイルがシェリーに問いかける。シェリーとしては答えにくい質問だ。嫌いかと問われれば嫌いじゃないと答えるが、その答えイコール好きかといえば違う。

 シェリーが考えている姿を番である3人が見つめる。


「カイルさんの時間にルーズなところが嫌いです。」


「う。それは直す。」


「グレイさんとスーウェンさんは好き嫌いが言えるほど知りません。」


 落ち込む三人に追い討ちをかけるようにオリバーも問う。


「じゃ、俺のことは?」


「オリバーはいなければ生きていけません。」


 シェリーの精神面を大きく支える結界とペンダントを作れるのはオリバーだけなので、そのような答えになってしまうのだが、番の三人の落ち込みは地の底まで行っていた。


「ははは。いい答えが聞けた。ご馳走さま。」


 そう言って 、オリバーは自分の研究室に戻って行った。オリバーが出ていったことでシェリーも片付けをするためにカイルの膝の上から降り、食器を持ってキッチンへ向かう。残されたのは、地の底まで堕ちてしまった男三人だけだった。




「つらい、つらすぎる。」


 頭を抱え、嘆くグレイ。


「グラシアドース猊下ですか。あの変態と一緒にされるのは嫌です。」


 シャーレン精霊王国にはその人物に関しての何らかの記述があるのだろう。


 勇者ナオフミの質かとカイルは考える。人物的にはあまり好きではないが、行動的に羨ましいとか、考え方が似ていると思ったことがあった。これがあの白い高位の存在による干渉からなる産物だとすれば、シェリーが頑なに世界からの干渉を拒絶している理由もわかる。まるで、己ではない己がいるように思えてくる。

 世界からの干渉を拒絶するシェリー、世界の楔から放たれたというオリバー。二人から見た番というモノに縛られた己など、さぞや滑稽に映っているに違いない。しかし、番の楔から放たれたいかと問われれば、それは恐怖の感情に支配されてしまう。番という者を知ってしまえば、番のいない未来など考えられない。

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