第60話
翌日やっと解放されたシェリーは、公都グリードを後にすることができた。
本当は離宮で一晩過ごさずに、さっさと出て行くつもりだったのだが、『次元の悪魔』の話をしてしまったために、離宮を離れることが出来なかったのだ。
そして、ユウマの約束を果たすために勇者ナオフミの隠れ家の森まで来た。シェリーの後ろには、同行を拒否されたはずのグレイとスーウェンがついて来ていた。そう、グレイとスーウェンは開き直って勝手にシェリーについて来たのだった。
ここを去って二週間程はたっているが、流石に覚えているだろうと思い、結界の外で火の玉を打ち上げ爆発させる。上空で爆発が起こり、爆音とそれに続く振動が体に響く。
「来なければいいのに。」
シェリーの本音が口から漏れていた。
「あの感じだと来ると思うよ。」
シェリーの隣に立つカイルが結界の方を向いて言う。
少し待つと2つの気配がこちらに向かってきた。ナオフミとユウマだろう。
「ちっ。」
シェリーは思わず舌打ちをする。
「佐々木さん舌打ち聞こえてるで。」
「構いません。来なくてもよかったのですよ。」
相変わらず、父娘の会話ではない。ナオフミはシェリーに頭を下げ
「佐々木さん、ユウマのことたのんます。」
「私は学園に行かせる手続きをすればいいのですよね。」
「そうや。」
「どんな、過程を通っても通えればいいのですよね。」
「なんかすっごい嫌な予感かするんやけど。どないなことや。」
「まず、ユウマさんには常識がない。礼儀がなってない。人との対話が出来ていない。はっきり言って基本がなってない上に、最低限受かる学力がない。そして、このステータス、その辺の赤子並みの能力しかない。騎士養成学園には絶対受からないです。魔術学園の方なら、基本的な教養と学力があればギリギリ受かるという能力です。」
「なんだと!俺が弱いって言うのか!」
シェリーに貶されたユウマが吠える。
「レベル1なのに?騎士養成学園に入るには最低レベル20は必要ですよ。」
弱い犬程よく吠える・・・。12歳でレベル1は普通はない。その辺で走り回っている子供でも、スライムをつついて遊んでいるので最低でもレベル5は行くはずだ。10歳を越えてもレベル1のままなんて、まさに箱入り息子だ。
「う・・・。そんなこと言ってお前はいくつなんだ。」
「レベル124。」
「グフッ」
「シェリーレベル100越えていたんだ?」
カイルが驚き声を掛ける。
「忘れてください。」
「Sランクに「忘れてください。」」
レベル100。冒険者Sランクになる最低条件の一つである。
「そうか。レベル20はいるんかいな。それなら、好きに
「そうそう、小嶋さん。オーウィルディア様に怒られるので覚悟しておいてください。そのうち、ここに訪ねにこられます。」
「オーちゃんが?何言われるんやろ。」
「それでは、私はこれで失礼します。」
「ちょっと、まってえや。何言われるんか教えてえな。」
シェリーは引き留めるナオフミを無視して踵を返し、森の外へ向かう。
「父ちゃん、俺頑張るからな。」
「気いつけて行きや。」
家族という名の別れを背中で聞きながら、シェリーがこの地を後にするのだった。
騎獣を持っていないユウマをグレイが乗せ、上空を飛び、翌夕方にはシーラン王国の辺境都市トーセイまで戻ってきた。
宿を取るために、古びた扉の前に立つシェリーに
「どこの怪しい宿に泊める気だ。鳥族の怪しい宿には人食いババアが出るって父ちゃんが言っていたぞ!」
とユウマが騒ぎたてる。きっと、ナオフミに適当な舌切りすずめの話を聞かされたのではないだろうか。雀の宿に人食いババアがいるとか・・・。
シェリーはユウマを放置し扉を開ける。チリリンと扉が開くと同時にベルが鳴る。
「おう。客か。」
「ギヤアアァァァ。」
うるさい。鳩尾に一発入れておく。
「5人で1部屋ずつ一泊お願いします。」
「ここはそんなに部屋はない。他を当たれ。」
白い毛と髭で覆われた人物が答える。
「1人部屋1つ、4人部屋1つで」
「大部屋の一泊だな。101号だ。」
「客の要望は通らないのですか?」
「後ろの3人から1部屋だと言っているぞ。」
シェリーが振り向くとカイルが『1部屋』と書いた紙を出していた。
「多数決で1部屋だ。コレ鍵な。夕食はどうするんだ。」
「部屋に持って来てほしいです。」
鍵をもったシェリーはため息をつき、奥へと向かう。一人部屋でゆっくり過ごすのは王都メイルーンに帰るまでお預けかと思うシェリーだった。
おまけ
???傭兵訓練所
「なあ。団長はなんであんなに荒れているんだ。」
訓練所の地面には死屍累々の男達が重なりあって倒れている。
「4日前に国境の視察に行った時に見つけたんだってよ。」
「なにを見つけたんだ?」
「隊長の番」
「めでたいことじゃないか、何が問題なんだ。」
「視察が長引いてイライラしてる隊長を副長が引きずって、伯爵との会食に連れて行っていた時に見つけたらしんだ。
隊長がいきなり飛び出すものだから、副長がいつもの逃亡と思って、思い切りぶん殴って会食に連れて行ったんだと。そしたら翌日には番の気配もなにもなくって、あの通り荒れているんだよ。」
「気配もないってことは魔導師が転移でもしたのか。」
「それもな。隊長の番の周りには、竜人、金狼、エルフがいたらしい。国境警備の奴が覚えていたんだ。黒髪のチョー美人だって。」
「マジかよ。黒髪の種族って相当ヤバイやつじゃないのか?」
「そいつ曰く、人族らしい。種族の特徴が無かったらしいからな。」
「ほう。それは誰の情報か詳しくは教えて貰おうか、なぜ、お前の方が俺よりも知っているんだ?」
「「ギヤアアァァァ」」
満身創痍の傭兵が2名追加されたのであった。
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