第22話

 大蜘蛛に続き泉の浄化はシェリーがさっくり終わらせ、難題の人探しになるのだが、800キロメルの距離を2日かけて移動し辺境都市まで来た。

 都市に着いたときは、もう日が暮れる時間になるので今日の泊まるところを決めたいところだ。

 辺境都市トーセイは唯一ラース公国への街道がある都市になる。シーラン王国とラース公国は東西に1000キロメルと長く隣接地形ではあるが、その間に4000メル級の山々が連なるイアール山脈が横たわり、唯一、辺境都市トーセイの場所は海に隣接しているため平地で国境を越える事ができる。行き来しやすいということは攻められる可能性もあるわけで、城郭都市としての機能もしている。


 強固にそびえ立つ鉄製の門を潜り抜けると、白い石畳の上を行き来する人たちがいる。家路を急ぐ人、夕食の買い出しの人、外で一杯飲もうとしてい人で賑わっていた。


「シェリー、トーセイまで来たけど、ギルドに依ってみる?それとも先に今日の宿を決めようか。」


 カイルが人の波に身をまかせながら言う。


「この時間だから先に宿を決めましょう。ああ、ここはどうですか。」


 メイン通りに入り口が面しているが間口が狭くドアの横に何が書かれているかわからない、古びた看板が置かれている。何の店かはさっぱりもってわからない。


 チリリン


 ドアを開けると上部に取り付けてあるベルがなる。


「おう。客か。」


 全くもって客を受け入れる感じがしない。入り口のカウンターから白い髪と髭で覆われたよく顔の分からない人物から声をかけられた。


「じいさん久しぶりです。」


「あ?シェリーの嬢ちゃんかルー坊は一緒じゃないのか。」


「なんとルーちゃんは騎士養成学園に無事合格したのです。わたしのルーちゃんはすごいのです。」


 笑顔全開でシェリーは弟の自慢話をする。


「おめでとうさん。今日は何泊予定だ。」


「一泊1人部屋「2人部屋1つで」いします。」


 一瞬で真顔になって答えるシェリーにカイルの声が被さった。


「おう。ルー坊のことだけは表情がデレデレだな。で、部屋は1つなのか2つなのか。」


「2つ「1つだ」」


 またしても被さる。シェリーはカイルを睨み付ける。昨日も同じ様にもめた。


「シェリー嬢ちゃんと兄ちゃんはどうゆう関係だ?」


「冒険者の同僚。」


「番だ。」


「じゃ、1部屋だな。」


 2対1でシェリーの意見は通らなかった。


「晩飯はどうすんだ。」


「わたしは部屋でいただきます。」


「俺も」


「わかった。205の部屋で鍵はこれな。」


 鍵をもらい、薄暗い廊下を進んでいく。

 一番奥の扉をあけるとそこは外灯に照らされらた中庭にでた。直ぐ右手にある階段をのぼる。中庭を挟みコの字型の建物の右側一番し奥の部屋に持たされた鍵を挿した。


「外からじゃ分からないけど中々いいところだね。広いテラスまであるじゃないか。」


「まあ、知らない人は分からないし、地元の人も知らない人もいるでしょうね。」



 確かに、間口が狭く、看板も煤けており何の店か分からない所に入って行くのは勇気のいることだ。

 ここのテラスからは先程みた中庭が見渡せ、部屋の中は小さいキッチン、シャワー室にトイレ、クローゼット、ダイニングテーブルにソファーそしてベットと長期滞在もできる仕様になっていた。


「よくここを知っていたね。」


「ルーちゃんの師匠の最終試験がここのイアール山脈であってね。本当はすっごーーーくついて行きたかったけど、邪魔になるからここに滞在して依頼でもこなして待ってろとクソじじいが言うから、ここの宿で2週間ルーちゃんの帰りを待っていたの。」


 内容的には恋する乙女の言い分だが、決して弟を見守る姉の言葉ではない。


「でここの紹介は」


 コンコンコンコン

 とドアをノックする音に遮られた。


「夕食をお持ち致しました。」


 とドアの外から女性の声がした。ドアを開けるとカートとそれを押す猫獣人の女性が立っていた。


「失礼します。」


 女性はカートを押しながら入って来るとダイニングテーブルに食事を並べ始めた。


「シェリーちゃん聞いたわよ。番に出会ったんだって?良かったわね。ミーナよりも先越されてしまったわね。」


「いえ。マリーさんわたしはルーちゃん一筋です。」


「あら、そこは変わらないのね。」


「もしかして、ミーニャさんのお姉さん?」


「ミーナの母です。あの子元気にがんばっているかしら?」


 食事を並べ終わった女性はミーニャと同じオレンジの髪のお団子頭からはピンとしたオレンジの耳が見え、黄色の目をしていた。裾の長いベージュのワンピースに白いエプロン姿をしている。


「ええ、相変わらずにゃにゃ言っていますよ。」


「ふふふ。相変わらずね。まあ、そこが可愛いのだけどゆっくりしていってね。食べ終わった食器はいつも通り廊下のカートに乗せてくれたらいいからね。」


 と、言いながら、カートを押し部屋を出ていった。


「ここはミーニャの家なのか?」


「『番を見つけて帰ってくるにゃ。』と言って家を出たそうです。食事にしましょう。今日は自分で食べます。絶対食べます。」


 強く宣言をしてシェリーは席に着く。そう、昨日はカイルに捕まり膝上抱っこで夕食を口に突っ込まれ、シェリーの精神的ダメージが大きく折角の食事の味がわからなくなってしまったのだった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

来ていただきまして、ありがとうございます。

本日、短編小説を投稿させていただきます。詳しくは近況ノートでコメントしております。

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