第3話
ぽつぽつと冒険者たちが早めに依頼を終えて小腹を満たそうと、ギルド内の食堂で寛いでいるところでシェリーはカウンターに陣どってオークのステーキを頬張っていた。
「シェリーの嬢ちゃん。今日から行くって言ってなかったか?」
カウンターの奥の厨房からジェフが語りかけくるが、シェリーは無言でひたすら食べていた。
「ルー坊が心配だからって、戻って来たらダメじゃないか」
ダンッっと、カウンターにシェリーのこぶしが突き刺さる。
「ねぇ。わたしがルーちゃんが心配だからって、仕事をキャンセルしたことあった?なかったよね」
「そ、そうだな」
ジェフはシェリーの瞳孔が開いてる目で睨まれて、若干逃げ腰になっている。しかし、厨房の先に出口などないので意味がない行動ではあった。
「シェリーじゃないか。ルーク不足で行かなかったのか。依頼はきちんとこなさいとダメだぞ」
間の悪いことに業務補佐官ニールが同じようなことを言ってしまった。
「あ?」
シェリーの濁った返事が返ってきた。いつもの感じとは違うシェリーの姿を見てニールは首を傾げる。
「なあ、ジェフ。何があった?」
「わからん。
シェリーはカイルをぶっ飛ばしてから、すぐさま王都の中に引き返していた。シェリーは怒っていた。ものすごく怒っていた。普段は自分のジョブの能力を封印して依頼をこなしていたが、それを一部解除をして竜人であるカイルをぶっ飛ばすほど怒っていたのだ。
「シェリー。戻っていたのか。探したよ」
シェリーの背後から声をかけたのは、王都の外へ2
声を掛けられた瞬間、シェリーはイスを倒しながら振り向き、カイルの顔面を殴ろうとしたが、またしても手首を掴まれ止められてしまった。その手にはカイルの目を刺そうとするフォークが握られていた。
「シェリー、フォークは人に向けるものじゃないよ。何を怒っているかわからないけど、これで機嫌直してもらえないかな?」
「姉さん、カイルさんが困っていたのだけど···」
シェリーの目の前には騎士養成学園に行っているはずのルークがいた。
「ルーちゃんがいる。ルーちゃんどうしたの。学園で何かあった?いじめられたの?」
シェリーの目の前にはシェリーの事を心配そうな目で見ている少年がいる。光を反射して煌めいている金色の髪にシェリーと同じピンクの瞳には長い金の睫が縁取っている。小顔に中性的容姿に成長途中のほっそりとした体格は一見、少女のようにも見える。
シェリーと並んで姉弟だと紹介されなければ、親戚か赤の他人と思えるほど似ていない。唯一似ているところをあげるとするならピンクの瞳ぐらいだろう。
「最初の3日間はお昼までなんだよ。今日は地方から来た子がどこで買い物したらいいのか分からないって言ってたから案内してたんだ」
「そうなの。一緒に遊びにいける友達ができてよかったわね。」
「それでね、北門の広場を案内してたらカイルさんに会って、姉さんが依頼を無視して帰った聞いた「あ?」」
シェリーの濁った声が被さった。
ルークはその瞬間に悟った。姉がとてつもなく怒っていると、ルークによる姉シェリーの評価は家族のこと以外は無関心だということだ。
冒険者をやって稼いでいるのはルークに人と関わり社会性を身に付けさせ一般的人間にしようとしているからだ。ルークは人として壊滅的にダメな人物を知っている為、姉の行動と言動にはある程度理解はしている。すべては家族であるルークの為なのだ。だから他の人には関心が向かない、その姉が怒っているのだ。
「カイルさん、姉さんに何をしたのですか?」
「ん?何もしてないよ。集合場所の広場に行って、門まで歩いていって、シェリーから攻撃を受けて吹っ飛ばされた」
カイルの言っている内容的には間違いはないが、色々抜けているところがある。
「嬢ちゃん、カイルを吹っ飛ばしたって、上級魔術を王都周辺で使ったら捕まっちまうぞ」
ジェフが竜人に攻撃が通るほどの威力の魔術を使うことに危機感を示した。しかし、シェリーはカイルを殴っただけだ。その場にいた門兵もシェリーの正当性を認めたのか、咎めることはなかったのだ。
「あれは魔術じゃなかったよね。俺に一撃を与えたあの攻撃は何かな?」
カイルはシェリーの目を覗きこむが、シェリーの目は虚無を映しているかのように何も反応しない。
ルークは悪寒を感じた。相当、姉は腹を立てているようだと。だから、ルークは姉の機嫌を直してもらうために捨て身の作戦にでた。
「お姉ちゃん、今日は何をして過ごしたかルークにお話してほしいな」
きゅるるんと効果音がつきそうな上目遣いをして、美少女におねだりされる姉という構図を作りだしたのであった。
「いいよ。るぅちゃん」
ルークの羞恥心をさらすことで、シェリーの機嫌は急上昇したのであった。
「今日はね。
シェリーは上機嫌で朝の食事のメニューから屋台で何を買ったことまで、こと細かく話していったのだった。
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