第2話
天気は晴天なり、シェリーの心は曇天なり。
依頼を押し付けられて2日経ち、王都の北門広場でシェリーは待ちぼうけをくらっていた。
今は夏季なので
「帰ろう。もう、一人で行ってもらおう。わたしは待った。時間に来ないヤツが悪い」
そうして王都を出入りしている人が行き交う外門を背にして帰ろうとしたとき、声をかけられた。
「シェリー、待たせてしまったかな?」
声をかけた相手を認識した瞬間、シェリーは地面を蹴った。そして、相手の顔面に向けて拳を振るったが、相手の顔面に打ち込む瞬間に手で遮られてしまった。
「カイルさん今日は何刻に集合とわたしに言いましたか?」
「
「では、今は何刻ですか?」
「
「わたしの事をからかっていますか?」
「ちょっと寝坊したんだよ」
カイルは悪びれもなく笑いかける。
「世の中の女性はカイルさんが、そう言って笑えば、なにもかも許されると思っていませんか?」
そう目の前にいるこの男は女性にモテる。
白銀の髪に琥珀色の瞳に整った容姿に頭部の両側から竜人族特有の角が生えている。長身で細身の体格でありながら背中に背負っている大剣からの繰り出す一撃の重さは竜人族だからもてる強さだろう。その事から『銀爪』の二つ名を持っている。
Sランクに在する強さに、美丈夫であり、まだ番がいないとなればとてもモテる。寝坊した理由もその辺にあるのだろう。
「カイルさん。わたしは帰りますので、一人で行って来て下さい」
シェリーはイライラしながらも、感情を表には出さず淡々と話す。
「町に買い出しに行く感じで言われても、2人で受けてる依頼だからね」
「
6時間待ち続けるシェリーの根性も凄いが、6時間後に平然とやってくるカイルの神経の図太さにも呆れ返るものがある。
「正確には
「待っている間に食べましたので、お腹は空いていません」
「じゃ、行こうか」
そう言ってカイルはシェリーを小脇に抱え門に足を進めた。
「人の話を聞いていないのですか。わたしは行かないと言っているのです」
カイルの腹に肘鉄をくりだすシェリーだが、人間と竜人の身体能力の差は歴然である。そもそも、飛竜の皮でできた鎧を素手で貫通させるのは常人では無理なことだ。
「補佐官のニールから引きずってでもいいから、連れていけと言われているからね。大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないです」
言い合っている間に王都を出入りする門を通る人を検問するところまで来た。この時間に門を出ようとする人影は見られず、そのまま門兵の確認作業をされる。勿論シェリーは小脇に抱えられたままである。
「身分証の提示をお願いします」
「これね」
カイルは首もとから冒険者ギルド発行のタグを出し、門兵が持っている黒い石板にかざす。
「はい。大丈夫です。そちらの方もお願いします」
「·····」
シェリーは無言のまま行動を示さず、身分証を見せる気がない。そもそも、シェリーは王都を出る気がないのだ。
「シェリー、タグ出して」
カイルが身分証を出すように促すが、シェリーにその反応は見られない。
「わたしは王都から出ませんし、行きませんからタグは出しません」
シェリーは完全に拗ねていた。行きたくもないのに早起きして待ち合わせの場所にいけば
「仕方がないなぁ」
カイルはまたしても強制的手段に出た。後ろの首もとから鎖を引っ張りだし、タグを手繰り寄せ、門兵に差し出した。
「はい。これで通っていいよね」
「カイルさん。いくらなんでも、それはダメだと思いますよ。お嬢ちゃんプルプルしていますよ」
長年王都にいれば、よく顔を合わす門兵は顔見知りだ。その門兵の人物からも流石にそれはいけないと注意を受ける。しかし、カイルはその言葉を笑顔で返した。
「大丈夫。大丈夫」
大丈夫ではない。シェリーは
なんだこの男、わたしを嘗めてるのか。仮にも同じ職場の人間だからなるべく穏便にすませて、腹の虫を納めようとしているのに、この扱いはペットか何かと思っているのか。所詮人間は竜人に敵わないと思っているからこんな態度なのか。と
そして、カイルが門の外へ踏み出そうとした瞬間、カイルが消えその場にはシェリーだけがたたずんでいた。
何がおこったのか。それは、カイルがシェリーに外門の外に吹っ飛ばされたのだ。人族であるシェリーが竜人のカイルをふっ飛ばした。これは傍から見れば信じられない光景だった。
ただ、そこに残っているのは門兵とこの世の全てが無価値だとさげすんだ目をしたシェリーだけだった。
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