夢が幻想になる

春嵐

第1話

「こう、考えたことはないか」

声をかけられた。

勧誘ではない。宗教でもない。普通ではないけど、普通に聞こえてしまう声。だから、立ち止まって振り返ってしまった。

「今が、夢だと」

自分によく似ていて、それでいてちょっと違う女性がいた。同じような服だけど、これもちょっと違う。スカートの色が少し黒い。髪の色も少し茶色いか。

「夢?」

「今が夢で、目覚めると現実が待っていると」

漫画でそういうのあったな、と言おうとして、やめた。

相手の。目。

まっすぐこちらを見つめているのに、まったく私を見ていない。

私を見ているけど、私を見ていない。

「夢と現実の境が、わからないのか?」

そう。口調。声は同じなのに、口調が違う。私は。

「私は、いつも敬語を」

私は。

なんだ。

いつも敬語を使って、誰と喋っている。ここはどこだ。朝なのか。夜なのか。

私は誰だ。

「現実を、夢にしてしまう」

声。そうだ。口調は違うけど、私の声。

「おそろしい能力だ。なのに、それを使ってお前は永遠に夢にとじこもっている」

目の前にいるのは、私であって私ではない。

「夢を、現実にしたいとは思わないのか」

目覚めた。

夢。

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