第二十話
「学校で〜自分の〈天啓力〉を自慢するチャラい男がいたんですよ〜」
「なああああにいいいいいいい!!!やっちまったなぁ!!!」
「男は黙って」
「勉学!!!!!!」
「真面目すぎるよ〜」
学校の帰り道、いきなり楓さんが会話の中でネタを挟んできて俺は咄嗟に反応してしまったわけなんですが、いったいどうしたと言うんでしょうか。
「いやいや、いきなりどしたの?」
俺は楓に尋ねる。
「え、知らない? クール○コ、最近見ないけど私好きなんだよね〜、ちなみになかや○きんに君も好きだよ、正直もっと評価されるべきだと思ってる」
「い、いや……芸人の話じゃなくて〈天啓力〉うんぬんの話」
「あ〜、解は3組の鳳凰院
「え!?」
俺は何故かドキリとする。
「鳳凰院てスポーツ万能、容姿端麗、学力も全国上位、女子から人気でファンクラブまであるっていうあの!?」
なんだこの焦燥感はっ……。
「そうそう、その鳳凰院君。けど私あの人なんか苦手なんだよね、別に自慢してくる〈天啓力〉も飛び抜けてるって程でもなかったし、まず上から目線も嫌い」
あっ、そうなんだ。
けど中々に辛辣ですね楓さん。
「ちなみに鳳凰院の〈天啓力〉っていくつだったの?」
俺は興味本位で聞いてみる。
「なんだっけ……?650くらいかな?普通に私の方が上だったよ。まあ〈天啓力〉が高かったからなんだって話なんだけどね」
楓はあっけらかんと話す。
まあ〈天啓力〉でマウント取ろうとしている相手が自分より上だったらそりゃ悲惨だな……。
「私は今そんな事より解とダンジョンに潜って色々な事を見たいし体験したいんだよね!だから早く帰って今日も冒険に出発だよ!」
楓はほらほら、と言って俺を急かす。
うわぁ……俺も頑張ろう。
……
……………
………………………
「と言うわけで今日は“始まりの神殿の鍵”を使うけど、それでいいか?」
俺達はいつもの装備に着替えてトイレのドアに向かう。
「大丈夫だよ! てか今はそれしか鍵ないしね」
楓は笑いながら答える。
まあ鍵を新しく作れば良いといえば良いんだけど、俺自身、神殿と言う言葉がめちゃくちゃ気になるしな。
「じゃあ行くぞ」
俺は鍵を握りながらドアを開ける。
「うわー! 凄いね解、立派な神殿だよ!」
ドアの先には、目が覚めるような白の神殿があった。
造りはギリシアのパルテノン神殿のような造りで天井が高く、空間以上の広がりを感じる。
壁にはたくさんの壁画があり、フロアには一定の間隔で立派な彫刻が鎮座している。
そして神殿の中央は床が一段高い造りになっており、そこには台座らしきものが見える。
ここは芸術に疎い俺でさえ、とても美しいと感じる場所だった。
「ここって、なんの場所なんだろうね?」
楓が周りをぐるっと見渡しながら呟く。
「何なんだろうな、この世界の宗教的な意味合いのある場所っぽい気はするけど……お、あの台座の所に人がいるな、ちょっと聞いてみよう」
俺達は神殿の雰囲気を壊さないよう静かに台座まで向かう。
「あのー、すみません。ここはどういったところなんですか?」
俺は恐る恐る聞いてみる。
するとそこにいる立派な衣装を着た女性の神官らしき人はこう答える。
「ここは人が持つ可能性を広げ、歩むべき道を指し示す場所、“始まりの神殿”です。見たところ、あなた方はまだ洗礼を受けていないご様子。どうでしょう、ここで洗礼を受けていきますか?」
「可能性を広げる? 洗礼?」
楓は頭にクエスチョンマークを浮かべている姿を見ながら、ハッとして神官に尋ねる。
「もしかしてこの神殿は“職業”を決める場所なんですか?」
「ええ、平たく言えばそうですね」
女性の神官はニッコリとそう答える。
なるほど、ステータスで[職業]が空欄だったから、転職出来る場所があるとは思ってはいたけどここだったのか。
(けど何かトントン拍子過ぎないか? 元々俺にある運の高さと幸運の〈天啓〉のおかげなのか?)
うーーん、と俺が考えてる横から楓が手を上げ……。
「はいはい! 私、洗礼したいです!」
そう元気に発言する。
「か、楓……もっと話を聞いてからにしないか?」
「えー、だって転職できるんでしょ? きっとやり得だよ、爆アド爆アド!」
いや爆アドって楓さん……。
「とりあえず神官さんに聞いてからにしよう。何も分からないまま洗礼を受けたら向こうにも失礼だしな」
失礼だと言う事にして説明をしてもらおう、洗礼した後に厳しいルールや行動を制限されたら、たまったもんじゃ無い。
「分かりました、では説明します」
結構長い話だったので話をまとめるとこうだ。
・職業はこれまでの生き方、在り方で決まる。
・職業には熟練度がある。
・職業によりステータスの増減がある。
・職業に合ったスキルを覚える。
・職業を極めたら上位職が開放される。
・洗礼を受けた後のルールは特にない。
・お金は必要ない。
「色々教えてくれたけど要は爆アドって事でしょ?」
「いや……まあ確かに間違ってないんだよなぁ……」
爆アドである。
「説明を聞いて納得できました。俺達2人とも洗礼をお願いします」
俺は神官さんに洗礼をお願いします。
「では1人ずつこの台座の上にある“導きの書”に触れてください」
「解、私からやっていい?」
楓は目をキラキラさせながら言ってくる、俺はもちろん、と伝えた。
楓が“導きの書”に触れると本が光り輝き、楓の体もその光で包まれる。
暫くして、
「もう大丈夫ですよ、終わりました」
神官さんが口を開く。
「あ、もう終わった?」
何事もなかったかのようにキョトンとした顔で楓が言う。
「どうだった? なんか変わった事あったか?」
俺は気になって楓に聞く。
「うーん、なんか昔の思い出が頭の中でぐるぐる回ってたかなぁ? けど内容はあんまり覚えてないんだよね、なんでだろ?」
どういう事だ……? 思い出?
「先程も申しましたが、職業はこれまでの生き方、在り方で決まるので“導きの書”がそれを視て判断するのです。なので昔の事を思い出すと言われています」
「なるほど、なんか怖いな……」
「まあ私も出来たんだから解も大丈夫だよ! 早く早く!」
「わ、分かったって。ちょ、押すなよっ」
俺は楓に背中を押され台座に置いてある本の前に立つ。
よおし、触るぞ……
俺は意を決して本に触れた。
……
…………
……………………
1人は嫌だよ、辛いよ。
なんでお父さんとお母さんだけ…?
なんで僕だけ残したの?
なんで?なんで?
今日も楓が家に来て色々してくれる、ありがたいけど正直ほっといてほしいんだ。
1人にしておいてくれないかな?
なんで僕を1人にしてくれないの?
なんで?なんで?
今日は楓が久しぶりにご飯を作りに来てくれる。
本当にありがたい。楓には感謝してもしきれない。
1人でいるより心が楽なんだ。
けどなんで俺にここまで優しくしてくれるんだろう?
なんで?なんで?
世界が一変した。危険な世の中になる。
誰でも力を持てる様な世界になったという事は、俺も強くなれるという事だろう?
大切な人達は絶対に俺が守る。
……なんで?なんで?
そんなの分かってる、俺は失いたくないんだ。
人との関係を構築したくない。無くなったときに、心を失わないように。
人との関係を構築したくない。亡くなったときに、心が壊れないように。
だけど、自分に優しくしてくれた人達に恩返しをしたい。守りたい。
心を。人を。危険に晒されないように、脅威を縛り付けて、それに鍵をかけて閉じ込めて蓋をする……。
大切なものを失わないように。
『君がどういう人間か分かった気がするよ』
……
……………
………………………
「解、解!? 大丈夫!?」
楓に体を揺さぶられ、気が付く。
どうやら倒れてしまったようだ。
俺はふと違和感に気づき、頬に手を当てる。
「え、なんで俺泣いてるんだ?」
もう涙なんて相当流していない。
本に触れた後の事はあんまり覚えていないから何故泣いているのか理由も分からない。
けど何となくスッキリしてるのが余計に戸惑う。
「相当深い場所まで本が視たのでしょう、貴方はこの本に愛されてるのかも知れません。きっと良い職業に就ける事でしょう。」
神官さんはニッコリと笑い、手を差し伸べてくれる。
「何だか不思議な体験だったな」
「そうだね、変な感じ!」
俺は自分のステータスを確認する。
【名前】南條 解
[レベル]9
[職業]鎖使い
[スキル]チェイン
【天啓】キーメイカー☆0、鑑定(初級)☆2、幸運☆1
【天啓力】415
[HP]58(69)
[MP]23
[筋力]40(48)
[敏捷]35
[魔力]19
[運]70
ん、なんだ? 鎖使いって?
あれか、某人気漫画で人気キャラのあれか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます