旧キーメイカーのダンジョン攻略 〜俺だけ使える鍵でこっそりと特別なダンジョンに潜ります〜
UMA
第1話
俺の名前は南條解。
福井県というド田舎に住む、特に何の取り柄もない高校2年生だ。
今日も今日とて学校が終わり、そそくさと家に帰る途中なのである。
部活はやっていない、かと言って家で勉強するわけでもない、中途半端な学生生活を送っていた。
(買い物して帰るのも面倒だし、今日はサラダ油と塩のパスタにするかなぁ……)
3年前に両親を事故で亡くし、当時建て替えたばかりであった新居と両親の多額の保険金が残った。
そのおかげでお金に困る生活はしていないものの、日常生活の質は散々なものとなっていた。
ただ時折、幼馴染がご飯を作りに家に来てくれるのがとても助かっている。
今日の晩ご飯の事を考えながらカエルの鳴き声が煩い田んぼ道をてくてく歩いていると、俺は突然強い目眩に襲われた。
「ちょ、なんだ……? めちゃくちゃ気持ち悪……」
『南條解に天啓が降りました』
それと同時に頭の中で機械音声のようなアナウンスが流れる。
「な、なんだよこれ……フラフラするし、頭の中で変な声聞こえるし疲れてるのかな……」
1、2分程してふらつきが無くなった事を確認すると、もう目と鼻の先である自宅に急ぎ足で向かう。
「今日は早く寝て体調を整えよう、ん……?」
俺は違和感を覚えた。
カエルの鳴き声が全くしないのだ、あの煩い鳴き声が消え、辺りには静寂が広がっている。
「え……いったいどういう事なん……」
その時、ドンッと言う音と共に大きく地面が揺れ始める。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ…………。
とても立っていられない、恐ろしく大きな地震が襲う。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!」
俺は地面に倒れ込み地震がおさまるのを待つ。
遠くの方で悲鳴やら叫び声が聞こえる……。
2分程たった頃、ようやく揺れがおさまり辺りを確認すると、かなり遠くの方で何か塔のようなものが見えた。
「ん? あんな所にあんなもの無かったはず……て、あれ俺のスマホ……あああああああ!!!!!」
大きな地震のせいでスマホがポケットから落ち、あろう事か道の脇にある農業用用水路にダイブしてしまっていたのだ。
「マジかぁ……これはへこむわ……」
スマホが逝った事により、遠くに塔が見えた事など頭の中から消え去り、落ち込みながら自宅へ戻った。
家の中は元々物が少なかった事もあり、それ程被害は無かった。
ただ辛かった事と言えば、テレビが台の上から落ち壊れてしまっていて、外の情報が全くと言っていい程分からなかった事である。
(スマホも壊れちゃったし、こりゃ明日学校で情報貰うしかないな……)
そう考えると家の中を軽く掃除し、塩パスタを食べて早めに就寝する。
……
…………………
……………………………
次の日、学校へ着くとクラスの過半数が休んでいたが、来ている皆はとても興奮しながら〈天啓〉の事について話していた。
俺は同じクラスメイトであり時々家にご飯を作りに来てくる幼馴染でもある“佐藤楓”に昨日の地震の事を聞きたくて挨拶がてら話題をふる。
「おはよう楓、昨日凄かったな〜。規模どんくらいだった?」
すると楓は凄い勢いで、明るい茶色の髪を纏めたポニーテールと制服のスカート揺らし、こっちに駆け寄ってくる。
「ちょっと解! 凄いなんてもんじゃないよ! 解の天啓って何だった!? てかラ○ンしたのに全く返さないから心配してたんだよ!?」
「なんだ天啓って……皆話してるけどゲームの話か……?」
全く理解出来ない状況に俺は困惑する。
「え? 何言ってんの解、昨日からネットやテレビでずっと話題に上がってるじゃん」
(あ、まずは昨日の事を説明しなきゃだな……)
俺は昨日あった悲しい出来事を楓に伝える。
すると楓はなるほどといった感じで納得し説明してくれる。
「えっと……驚かないで聞いてね。なんかね、昨日の地震が終わった後、全世界の人に〈天啓〉ていう特殊能力みたいな力が現れたの……」
楓はとても真剣な顔で伝えてくる、楓は冗談はよく言うがこんな真剣な顔で冗談を言う事はない。
いつもと様子が違う雰囲気に俺は戸惑う。
「え、冗談だよな? そんなゲームみたいな話あるわけ無いだろ?」
にわかには信じれられない話に楓は首を横に降る。
「嘘じゃないよ、自分の〈天啓〉を確認する方法があるの。〈天啓紙〉って心の中で念じてみて……」
「おいおい楓、そんなものが出るわけ無いだろ……(天啓紙)」
その瞬間、手のひらの上に半透明で、紙の様なものが突然現れた。
「ほんとに出た!?」
ブンブンと手を動かしても半透明な紙は離れずついてくる。
現実離れしたこの状況に狼狽していると、楓はこう答える。
「ツ○ッターで〈天啓〉の表示方法が拡散されてたからもうクラスの皆は知ってるよ、ちなみに消す時は〈天啓紙解除〉て念じれば消えるんだって。解はどんな〈天啓〉だった?」
非現実的な事に俺は半ば思考を放棄しながら紙を見る。
【名前】南條解
【天啓】キーメイカー☆0
【天啓力】10
「なんだ、キーメイカーって……? あと〈天啓力〉? ドラゴン○ールの戦闘力みたいなものか?」
「〈天啓力〉は多分その人の強さなんじゃないのかって言われてるね、あと〈天啓〉の横に書かてれる☆はその天啓のレア度なんじゃないのかって噂だよ」
そう言うと楓は俺の〈天啓紙〉をのぞき込んできた。
「解の天啓は……キーメイカー? って何だろ?」
そうやって〈天啓紙〉を二人でのぞき込んでいると、他のクラスメイトも俺の〈天啓紙〉をのぞき込んできた。
俺の〈天啓紙〉を見るやいなや、クラスの周りから笑いが起きる。
「おいおい、南條の〈天啓力〉10だってよ(笑)」
「俺なんか250あるぜ(笑)」
「てか星0ってなんだよ(笑)」
「えー、南條君〈天啓力〉低いねー(笑)」
「ぼぼ僕より、低い人がいて良かった」メガネクイッ
そんな悲しい言葉を浴びせられる。
ネットでよく見る年収マウントみたいだ。
(てか……私の〈天啓力〉低すぎ……?)
「ちょっと皆! 失礼だと思わないの!? ご、ごめん解……嫌な気持ちにさせちゃったね……」
楓はそう申し訳なさそうに謝ってきた。
「いや、楓のせいじゃないよ。楓はなんの〈天啓〉だったんだ?」
話題を変えるため、楓の〈天啓〉を聞く。
「私の〈天啓〉は治癒師だったよ、まだ使った事ないから分かんないけど怪我とか治せるなら便利だよね」
「おー、すごい便利そうだな」
俺も治癒師が良かったなぁ、と思っていると楓がまた驚きの発言をする。
「あとね、全世界の人の言葉が統一されたみたいなの」
統一……統一ってどういう事だ?
頭の上にクエスチョンマークを出していると楓はこう続ける。
「とりあえず、Y○uTuberが今の状況をまとめた動画出してるからそれ見てみて」
楓は自分のスマホを取り出し動画を見せてくれた。
『ブンブンハローY○uTube! どうもヒ○キンです。今日は〜……』
かの有名なY○uTuberが今回の事件の話をしている、まとめるとこうだ。
・全人類に天啓という特殊能力が備わった。
・世界各地に塔が現れるも現状はまだ中に入れないらしい。(外国では軍隊による攻撃が行われたが全くの無傷)
・全世界の言葉が同じ言葉に統一された。例えば日本人ならすべて言葉も文字も日本語に認識できる。それが世界各地で起こっているらしい。
・全世界で塔が現れた事により死傷者が出ているが規模を考えるとそこまで多くないらしい。
・ヒ○キンの〈天啓〉は全身が光る能力らしい。
『みなさん、くれぐれも気をつけて行動しましょう。僕はこの度被害に合われた方たちの為に1億円募金します!こういう時こそ一人一人が手を取り合って……』
「現状こんな感じみたい、国は今回の事でてんやわんやで対応はまだまだ掛かりそうだね。」
そう言うと楓はスマホをポケットにしまった。
「うーん、すごい事になったなぁ……」
これから先どうなるんだろうと、未来の事に想いを馳せながら、まだ瞼の裏に残る大物YouTuberが自身の〈天啓〉を使用し、光り輝きながら手を顔の前に上げ変顔をするシーンを思い出して、俺はなんとも言えない気持ちになった。
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