第3話 首都ラインバールへ
王国までの帰路、オレは超回復スキルの効果を試していた。
道中で出くわした魔王の手下の残党との戦いでわかった事は、受けたダメージが回復するまでにはラグがある事だ。
痛みを感じるので、身体全体にバリアが張られている様なものではなかった。
おそらく回復魔法が持続的に発動しているのだろう。
浅いダメージの場合は痛みも少なく、傷も瞬時に回復するのだが、重い攻撃を食らった際は、傷は瞬時に回復するとは言え、痛みの感覚は数秒は残ってしまうのだ。
痛みの強さで脳が回復していると理解するまでに時間がかかっているのだろう。
これは慣れてしまえば、ラグは小さくなると思うが、相手にスキを見せてしまう事になるので、無双プレイは出来そうにないな。
欠損した部位がどうなるかは確認出来ていない。
もちろん試す事は出来るのだか、いくら勇者とは言え、痛い事を自ら行う事はしたくない。
今後も検証の機会が無い事を祈ろう…
他にも検証出来た事がある。
肉体的回復以外に、魔力も回復される事だ。
何より魔力の回復は、睡眠かマナポーションを飲まないと回復されないものなので、それだけでもすごい。
魔力が無限になる訳ではなく、使った分の魔力が瞬時に回復する形だ。
なので自分の魔力のキャパシティを超えた魔法を使用することは出来ないが、自分の魔力の範疇で使える魔法は連発出来るので、とても便利だ。
下位魔法でも上位魔法並みの効果が得られそうだ。
今後のスローライフ生活で一番重宝しそうだ。
そして最後はスタミナだ。
「すごいな。全く疲れないぞ!」
来た道を常に全速力で走っているのだが、スキルのおかげで、息が上がらないのだ。
おそらく魔力と同じで無限ではないのだろうが、そもそもスタミナが一気に無くなる事はした事がないし、どうすればスタミナが一気に無くなるのかもわからないので実質はスタミナ無限だ。
移動速度は格段に上がるし、持ち出しのアイテムも大幅に増やせそうだ。
「このまま一気に王国を目指すか!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
太陽が沈む夕刻、オレは目的地である街の門に到着した。
フィリーミ王国。世界最大で人族唯一の国だ。
その首都であるラインバールへ帰ってきた。
超回復スキルのおかげで、往路半年かかった道のりを、たったの3日で戻れてしまった。
道中はほとんど全速力で走っていたが、食欲と眠気は普段と同じく襲ってきたので、その時間だけは、いっぱい食べ、たっぷりと休んだ。
何よりも三大欲求が湧いてくる事で人を超えたバケモノではなく、まだ人間であるという確認が出来た事が嬉しかった。
それで3日なのだからノンストップで走っていたら1日で到着したのではないか?
超回復恐るべし……
そんな事を思っていると、開かれている門の奥から笑みを浮かべる男が走ってきた
「シュウー!無事だったかー!」
「マイルス!ただいま!」
彼はマイルス。フィリーミ国の防衛隊隊長だ
「ははは!よく戻った!」
「ありがとう!マイルスもラインバールも何事もなさそうだね」
「お前のそのボロボロの装備よりかはマシだな!ははは!」
「半年旅をしてたら、こうなるわ!早く風呂に入りたいわ!」
この街で一番お世話になっている友との再会は感慨深いな。
孤独な半年間を埋める様にオレはマイルスとの冗談の掛け合いを楽しんだ。
一瞬の静寂が包む
真面目な顔、いや無表情に近い顔でマイルスが口を開く。
「それで……」
「ああ……やったよ……」
オレは荷物から魔王の王冠を取り出して、マイルスの前に出した。
マイルスは王冠の紋章を確認したのか、無表情の顔のまま涙を流していた。
「……ありがとう……ありがとう!」
何とも言えない気持ちが込み上げてきた。
生まれてきたなかで一番重く、嬉しい『ありがとう』だ。
オレは涙を堪えて、搾るように言葉を吐いた。
「これで……平和が訪れるといいな……」
マイルスは満面の笑みに戻り
「ああ!シュウのおかげだよ!これからが色々大変だろうけどな!」
「そうだな。王様も大変だろうな…」
「シュウもだよ!早速だが王に報告へ行かねば!今日は遅いし、王の接見は明日になるだろうから、宿屋で休んでくれ。お前も疲れてるだろ?それに臭いし!」
「うるせー!そうさせてもらうよ!」
俺の涙を返して下さい……
「じゃあ明日の朝に使いを行かせるからな!」
「あいよ!じゃあな!」
マイルスに緩く敬礼をすると、彼もまた敬礼を返して、体を反転し全速力で城まで駆け出していった。
「うおおおおおお!シュウが魔王を倒したぞおおお!」
やめてください……
◇◇◇◇◇◇◇◇
宿屋へ着くと、女将さんが出迎えてくれた。
「シュウ!おかえり!」
「女将さん!ただいま!一泊いいかい?」
「もちろんだよ!用意してあるよ!ほら!」
女将さんが鍵を渡してくれた。
「ありがとう!って特等室!?そんなお金ないよ!」
「な〜に言ってんだよ!魔王を倒してくれたってのにお金なんかもらえるかい!」
「あ、知ってたんだね…」
「当たり前だよ!どっかの馬鹿が大きい声出して叫んでんだから。今じゃ下水道のネズミですら知ってるよ!」
「そりゃそうだ…あのバカ!」
「どうせ明日になったら、全国民が知る事になるんだから、気にしなさんな」
「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えて使わせてもらうね。」
「あいよ!それと直ぐに風呂に入りな!臭いよ!」
「女将さんもかい!わーかりました!」
俺はそそくさと階段をかけ上がった。
「シュウ!」
振り向くと、女将さんは深々とお辞儀をしていた。
「ありがとう。勇者シュウ」
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