第25話 絆の呪法

その時、乱道は心の中で笑っていた。

まさか、かつての呪術師ども…、

かの蘆屋道仙とその仲間たちのように、自分をここまで追い込む者が現れようとは。

そして、理解した…もはや、彼らを実験体として利用することはできぬと。

それは当然、彼らを殺す…、自身の本気の本気を出さねば勝てる状況ではないからである。

実際、乱道はそれまで手加減をしていた。自らの研究を完成させるために、彼ら実験体を生かしてとらえる必要があったからである。

…でも、もはやそれはかなわない。全力を出して彼らを葬る以外に、この時代で研究を続けることはできない。


せっかくの十二月将も、もはや利用価値はあるまい。それがはっきりと理解できたから、それ以降の行動は至極当然の行為であった。


「十二月将よ…わが血肉となるがいい」


その瞬間、乱道と魂を合一していた十二月将は悲鳴をあげた。

その魂のアギトが、十二月将の魂を喰らい…乱道の力に変えていく。十二月将の力は乱道の力となった。


「乱道…貴様…」


その乱道の行動に、真名が顔をしかめる。

当然、やるとは思っていたが…実際の行為を見るとあまりにひどい。


「自分の使鬼を…喰らったのか?」


潤もまた半ば青ざめてその行為を見る。

そうして十二月将を喰らい終えた乱道は一回り巨大化していた。

頭に十もの角が生え牙も鋭くなった。目は四つに増え、腕もまた三対に増えた。

その尻からは龍尾が生えて、もはや人ではない化け物へと変じていた。


【疾く…】


ヒトならざる声で乱道は唱える。次の瞬間、乱道は信じられない速度で走った。


「潤!!!!」


乱道が潤に鉤爪を振り抜き、真名が潤との間に割って入る。


ドン!!!!!


真名の金剛拳が乱道の腕を叩き落とし、その軌道を変える。

それによって潤は何とか乱道の攻撃を避けることができた。


「潤!!!!!!! これで最後だ!!!!!!!

行くぞ!!!!!!!」


そう叫ぶ真名に答えるように、潤は最後の秘術を使う。


<明見識法>


<天羅荒神>


潤の意識が乱道の未来を読み、同時にその身を神の域へと覚醒させる。

そして…、


【いこう! 潤!!】


潤と魂を合一している使鬼たちが、潤の魂に浸透していく。

それは、かの乱道が十二月将を喰らった状態に似ているが…


<鬼装転輪>


それは、共生する魂たちの力の合一。


『天魔合身』の真名、そして『天羅荒神』の潤は、その連携で乱道の域にまで到達しようとした。


「行くぞ!!!!」


「はい!!!!」


二人は息を合わせて乱道に向けて駆ける。

三つの閃光か乱れ交錯しぶつかった。


ドン!!!!


何もない空間、乱道の最後の拠点で、人知を超えた超人たちがぶつかり火花を散らす。


乱道がその三対の腕を振り抜き…


真名がその金剛拳でそれを打ち落とす。


乱道がその口から水流や電撃をまき散らし…


潤がその奔流を五芒星の結界ではじく。


「がああああ!!!!!!」


獣のような声をあげて乱道の鉤爪が潤へと向かう。

それを、潤は瞬時にかわし、カウンターの金剛拳の連打を打ち込む。

乱道は一瞬、その身を黒ネズミに変じてかわし、返す刀で巨大な針を打ち込んでくる。


「はああああ!!!!!!!」


真名はその一撃を、金剛拳で針の横っ面を殴り飛ばしてはじく。


<怨毒龍>


その瞬間、乱道の目が輝き、針が毒煙へと変じる。

潤はその毒煙を、対魔剣術で切り払う。


「かはああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


乱道が吠えながら、その全身から炎を噴き上げる。

潤と真名はその高熱の炎をまともに受けて吹き飛んだ。


「カカカカカカカカ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


乱道はさらに身を巨大化させながら吠え猛る。

潤と真名にとって絶望的ともいえる、無限の霊力が乱道に向かって収束していく。


「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ!!!!!

ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ!!!!!!!!!!」


乱道が呪を叫ぶたびに、さらなる力を乱道に与える。

それはあまりにも理不尽な呪法。

真名は炎に呻きながら呟く。


「く…、死怨院呪殺道…、

これが憎悪の力」


憎しみは憎しみを呼ぶ、その連鎖は果てしなく、まさに人の業として消えることはない。

だからこそ、乱道の呪法は無限の力を得られる。


「カカカ!!!!!!!

もはや貴様らを手に入れようとは思わん!!!!

この場で八つ裂きにして、次の機会を待つとしよう!!!!!」


乱道はもはや手加減をやめた。絶命の一撃を潤と真名に向ける。

あまりにも強大すぎる存在…


死怨院乱道。


それに対抗する術は───。


「まずは貴様だ!!!!

蘆屋真名!!!!!!!」


乱道がその咆哮を真名に叩き込む。真名はそれを受けて呻き膝をついた。


「く?! これは天罡の?!」


それは、天魔合身の精神浸食を加速させる穢れた咆哮であった。


「くそ…」


その苦し気な真名の姿に、潤は唇をかむ。


(このままじゃだめだ!!!

考えろ!!! 考えるんだ!!!!!)


潤は乱道に向かって駆けながらそう考える。乱道と潤の拳が交錯する。


「カカカカカ!!!!!!!」


乱道の嘲笑と、潤の鮮血が舞うのは同時であった。


「がは!!!!!!!!」


潤は血反吐を吐きながらその場に膝をつく。その腹に乱道の拳が突き刺さっていた。


(天羅荒神でさえ…)


今の乱道はあまりにも強すぎる。その暴風のごとき力に、潤も真名も膝をつくしかなかった。


「潤…」


真名は潤に向かって目を向ける、潤の視線と重なり両者は無言で頷いた。


(真名さん…一つだけ…。一つだけ勝つ方法を見つけました…)


(わかってる…行こう…共に…)


両者はもはや言葉もなく言葉を交わす。

そして、二人は一つの賭けに出たのである。


「ガハ!!!!!!!!」


潤は腹から乱道の腕を引き抜くと、血を吐きながら後方へと飛ぶ、そこにいるのは真名である。


「なにをしようと無駄だ!!!!!!

今の俺には貴様らなど虫けらにすぎん!!!!!!!!!!」


その力をさらに引き上げ巨大化しつつ乱道は吠える。

それを黙って見つめる二人は、その手を触れさせた。


「行きます…真名さん!!!」


血を吐きその場に膝をつきながら潤が叫ぶ。

それに真名は頷きで答えた。


「ともにゆこう!!!!!!

これが最後だ!!!!!!!!!」


真名のその言葉と、乱道の目が驚愕で見開かれるのは同時であった。


「まさか!!!!!!!!!!!!!!!!!」


次の瞬間、潤の『使鬼の目』が覚醒する。

そして、真名との間に絶大な霊力の繋がりを生み出した。


「まさか!!!!!!!!!!!

そうか?!!!!!!!!!

天魔合身!!!!!!!!!!!!

妖魔化の力?!!!!!!!!」


そう、それはかの鬼神使役法と同じ魂の合一…超共生状態。


真名は今、『天魔合身』によって半ば妖魔化をしている、だからこそその状態の真名は、潤の『使鬼の目』の魂接続効果を受けることができる。


「天魔合身!!!!!!!!!!!!!

天羅荒神!!!!!!!!!!!!!

その統一?!!!!!!!!!!!!!」


そう…それこそが潤たちの最後の最後の切り札。


「「行くぞ!!!!!! 乱道!!!!!!!!!!!」」


潤と真名が同時に叫ぶ。


真名は潤の霊力を取り込んで体内で練り上げる…そして、

それを再び受け取った潤は、またその体内で霊力を練り上げる。

それを繰り返し…、その霊力は爆発的に巨大化していく。


「「はああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」」


潤と真名の意識が溶け合い一つとなる。


(潤…)


(真名さん…)


その手はしっかりと握られ、離れることはなかった。


<蘆屋流最終極意・陰陽合神いんようごうしん


潤たちの霊力が、乱道を超えて跳ね上がる。その拳が輝いた。


「「いけえええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」


二人の裂帛の気合と共に、強大な霊力の奔流がほとばしり出る。

その奔流は巨大化を続ける乱道を丸のみに飲み込み、その身を焼き尽くす。


「がはああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


その光には俱利伽羅七星剣の力をも付与されており、もはや乱道はその身を…魂を保つ術は残されていなかった。


「はああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

これは!!!!!!!!!!!!! これが?!!!!!!!!!!!!!!!!

まさか?!!!!!!!!!!!!!!!!!」


その時、その瞬間、乱道はなぜかかの舌道の言葉を思い出していた。


『時に愛は憎悪をも超える』


…それは確かにその通りであった。


「がああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

この俺が敗れる?!!!!!!!!!!!!!!!!!

まさか!!!!!!!!!!!!!!!

我が研究!!!!!!!!!!!!!!!!!

我が望み!!!!!!!!!!!!!!!!!

ああ!!!!!!!!!!!」


乱道はその身を灰に変えながら叫ぶ。もはやかなえられない望みを抱きながら…


…いや。


「ああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

カカカカカカカ!!!!!!!!!!!!!!!!!

この期に及んで至った!!!!!!!!!!!

至ったぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!

そうか?!!!!!!!!!!!!!

ヒトの心!!!!!!!

絆!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

カミ!!!!!!!!!!!!!!!


怒り…悲しみ…憎しみ…

そして、愛…!!!!!!!!!!!!!!!!


そうか?!!!

そうであったか!!!!!!!!!!!!!」


何かを納得した様子で、乱道はその魂のかけらすら焼き尽くされ消滅していく。


「はははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!

なんと!!!!!!!!!!!!

なんと…!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ヒトのココロとは!!!!!!!!!!!!!!!」


乱道は…そして、次の言葉を最後に燃え尽き消滅したのであった。


「なんと…すば…らし…い…」


かくて…千年の長きにわたって人間界を蝕んできた『乱』の権化は、永遠にこの世から消えたのであった。


「…潤」


真名は安堵の息を吐いてからそうつぶやく。

そんな真名を潤は優しげな眼で見つめる。


「おかえりなさい真名さん」


そうつぶやいて潤は…、


真名の事をしっかりとその腕に抱きしめたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る