第24話 切り札たち
乱道はその人知を超えた霊力を放出し終えると一気に加速する。
「まずはその腕をもがせてもらうぞ!!」
呪術師にとって致命的ともいえる腕を壊しにかかる乱道。
潤はとっさに呪の触媒を取り出した。
<八天秘法・金剛錬身>
それは何とか間に合い、腕はなくならずに済んだ。返す刀でカウンターを出す潤。
<八天秘法・かさね>
乱道の神速に追いつくべく秘法を使用して戦闘速度を高めるのを忘れない。
「この!!」
潤の金剛拳がひらめく。しかし…、
「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ」
乱道の秘術が完成し、金剛拳の威を打ち消してしまう。
潤の金剛拳の霊力がそのまま乱道の霊力に還元されていく。
(く…)
潤は心の中で悪態をつく。このままではまずい。
「貴様の秘術…どこまで続くか楽しみだな!」
そう叫びながら連撃を飛ばす乱道。それは的確に潤の四肢を目指している。
(僕を無力化して…とらえるつもりか?!)
それを、『かさね』で得た動きでさばいていく潤。しかし…、
「ならばこれではどうだ?
河魁! 大吉!」
その瞬間、潤の心を巨大な圧力が襲う。
「く! 重活心!!」
何とか秘術を行使して立て直す潤だが…、
「はははは!!!
徴明!! 従魁!! 勝先!!」
それは、まさにかつての真名に使用した…、
「くそ!!!」
潤はそう叫びながらシロウを呼ぶ。シロウの咆哮が再び五芒星を展開する。
ズドン!!!!!!!!!!!!!!!
すさまじい衝撃が潤たちを襲った。
大河ほどもある巨大な水流が、どんな分厚い壁ですら神のように貫く巨大な針の群れが、ビル一つを灰に変える炎の渦が、五芒星の結界を瞬かせる。
「か!!!!!!!」
その一撃で潤の霊力の多くが持っていかれた。
潤はあまりの衝撃に意識が朦朧としかかる。その時…、
「これで終わりだ…」
その声は、潤の背後から聞こえた。
(まさか!! 瞬間転移?!)
それは、十二月将『傳送』の力。
今、潤は三つの対神呪術を押さえている。次に来るであろう乱道の攻撃を避ける暇はない。
【まだ私がいる!!】
潤を守るように、かりんがその姿を現す。その姿は鎧の女武者となっている。
その腕の羂索を飛ばして、乱道の腕に絡ませる。
「カカ!!!!
小吉!!!」
次の瞬間、かりんが呻きをあげて動きを止めた。
その身から、何やら液体が周囲に湧き上がってきている。
「よくやった小吉…。小娘よその霊力頂くぞ?」
かりんからほとばしった液体は乱道へと飛んで、その身の霊力に活力を与える。
「クク…さらに手を加えるか?!
大衝…そして功曹!!』
その二体の月将は、その身に雷と烈風を纏わせ、潤に向かって飛ばした。
「くあ!!!!!」
【あああ!!!!!】
精神を合一している潤と美奈津が同時に苦しみ呻く。
そして、それは潤が行っている秘術『武身変』を停止させた。
「カカ!!!!
もはやこれで終わりだな!!!!!」
乱道は嬉しそうに潤をあざ笑う。
最悪…
絶命…
しかし!
【悪いけどそうはいかないっす!!】
「?!」
突然のその言葉に乱道は言葉を失う。その声の主は…、
【潤!!!!! いくっすよ!!!】
それはまさかの奈尾であった。
「うん!!」
潤は気を取り直し、今度は奈尾と武身変を行う。その速度は、一瞬にして乱道を超えた。
「いくぞ!!!!!」
その手に一瞬にして金剛杖が握られる。それを両手剣を持つかのように構えると、その杖の周囲に霊力の刃が生まれた。
「【光となれわが太刀筋!!!!】」
次の瞬間、無数の光の筋が乱道を打ち据えた。
「かは?!!!!!!!!」
それは、瞬時に乱道を細切れの肉片に変える。そのまま、無数の黒ネズミになる乱道。
「カは…まさか?!
新たな使鬼だと?!」
身体を再生させつつ驚きの声をあげる乱道。
【残念だけど…おいらだけじゃないっす】
そういうが早いか、潤の身に宿る霊力がさらなる変化を遂げる。
「武身変・剣鬼!!!!」
そう叫ぶと同時に、潤の額に角が生える。
「行くぞ!!! 武志!!!!!」
【おう!!!】
合田武志と合一した潤はその手の金剛杖を刀のように振り抜く。
「落葉!!!!!」
それは、対魔剣士の秘剣の一つ、鬼神を封じる剣技。
「く!!!!!」
その一撃で、乱道は神后の能力…再生能力を一時的に失ってしまった。
「いけ!!!!
武身変・龍神!!!!!」
【はい!!!】
次は島津陽弘…その手に電撃を収束して放つ。
「がああああ!!!!!!!!!!!」
乱道は、その電撃の一部を秘術で吸収したものの、わずかに吸収しきれなかった電撃がその身を焼く。
黒焦げとなった乱道はその場に突っ伏す。
「まさか…貴様…」
「そのまさかです…」
その声は明らかに潤と違っていた。
【松波影郎…】
地面から無数のツタが現れて乱道のその身を縛る。そして…、
【俺の名はジャスティオンだ!!!!
覚えておけ!!!!!】
その拳を身動きの取れない乱道に叩き込んだ。
<ジャスティオン・ファイナルストライク>
ズドン!!!
すさまじい衝撃が乱道を襲う。乱道はしこたま血反吐を吐いた。
「くは…そうか…。
使役鬼神の力は術者の力…。
まさしく使鬼使いらしい戦い方だな…」
乱道は血を吐きながらも笑う。そして…、
「ならばもう余計な手加減はせぬ…」
そう言ってその身の霊力を爆発させた。
「お前は…もう、我が宿敵だ…。
死なぬほうが本当はよいが…まあ、今は考えまい…」
ぶちぶちと蔦をちぎりながら乱道は立ち上がる。
「ナウマクサンマンダボダナンアギャナテイソワカ」
その呪でさらなる霊力を呼び込んだ乱道は、その身を…筋肉を肥大化させていく。
その爪は鋭く変わり、顔は肉食の獣のように凶悪に変じた。
その時そこにいたのは、一体の凶悪な悪魔そのものであった。
「カカ!!!!!!!!」
閃光のように乱道が駆ける。それを迎撃する潤。
一秒で、数百というすさまじい数の打撃の応酬が繰り広げられる。
「はあああああああああ!!!!!!!!!!」
「カカカカカカカカカ!!!!!!!!!!!!!!」
両者の気合と血しぶきが周囲にまき散らされる。
そして…それは不意に終わりを告げた。
「う…はあ…はあ…」
潤は血を吐きながらその場に座り込む。
まだ一歩、乱道の域には到達できていなかったのである。
「くそ…真名さん」
その呟きを聞いて乱道が笑う。
「クク…心配か? あの娘が…。
大丈夫、何も手出しはしておらん。
そして、あの娘は俺が意識の封印を解かねば目覚めぬ…。
貴様の無様な姿を見ることもない…」
「く…」
潤はその言葉に唇をかむ。
「俺を倒す以外に封印を解くすべはない。
その俺を倒すことができぬのだから、もはや小娘は目覚めぬということだな」
果たしてそうだろうか? 潤は一人考える。そして…、
「僕は負けない…」
血をぬぐいながら確かに立ち上がる。
それを見て乱道はおかしそうに笑った。
「無駄だ…、もうそろそろ神后の力も戻る。そうなれば元の木青みということだ。
そして、二度と俺に不意を突くことはできん」
乱道はそう言って、その鉤爪を潤に向けた。
「…」
潤は何も言わなかった、ただ目をつぶってその場に佇むだけであった。
「もはや諦めたか?
ならばその腕もらう…」
と…その時、
「ノウマクシッチシッチソシッチシッチキャララヤクエンサンマンマシッリアジャマシッチソワカ」
その呪が乱道の耳に流れてくる。その呪が『俱利伽羅龍王』のものであることは知っていたが、それがあらわす意味を乱道は理解していなかった。
それが致命的であった。
「なに?」
ドス!
その潤の手刀が乱道を貫く。
<
それは確かに効果を発揮した。
「がは!!!!!!!!!!!!」
その瞬間、乱道は今まで感じたことのない痛みを全身で体験した。
その身の穢れをその身を引き裂く刃に変える秘術…、それはまさしく穢れの塊である乱道にとって命を奪う切り札だといえた。
【乱道さま!!!!!】
とっさに太一がその呪具を起動する。それは効果を発揮したが…、
【乱道…さま…】
乱道とその魂を合一している十二月将たちに致命傷を与えていた。
「がは…、く…」
その場に膝を折って呻く乱道。その時の彼は理解した、もはや十二月将はあと一回程度しか力を発揮できないと。
「ふ…ふふ…まさか…。
俺がここまで…」
これで十二月将の力はほぼ封じた。潤は安堵するとともに、最後の応酬が来るであろう予感を得ていた。
「ククク…カカカカカカカカカ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
乱道は立ち上がって笑い声をあげる。
十二月将は、もう失ったも同然…しかし、
「それで勝ったと思うな小僧!!!!!!!!
その不意打ちも、もはや俺には効かん!!!!!!」
次の瞬間、膨大な霊力の奔流が潤を襲った。
「く…」
その圧力に一瞬気圧される潤。
いまだ乱道は、潤を殺せる戦闘力を残していた。
(ここまでは…何とか出来た…。ここからは…)
潤はひそかに真名の方に目を向ける。そして…、
「カカカカカ!!!!!!!」
鉤爪が飛んできた。
「く!!!!!」
なとかそれを避ける潤。わずかに頬を傷つける。
「カカカカカカ!!!!!!!」
乱道の斬撃が潤の身を数度かすめる。それを何とかよけながら、潤は真名の方へとじりじり向かった。
「何をしようと無駄だ!!!! その小娘は目覚めん!!!!!」
潤はその言葉を全身で受けながら、それでも真名のそばへと向かう。そして…、
「真名さん…」
その、愛しい娘の寝顔を見つめた後…
「?!」
その拳を真名の身体に打ち込んだのである。
グシャリと音を立てて潤の拳が真名の身に埋没する。それは明らかに致命傷であった。
「馬鹿が!!!!!!!!!!!!!
勝てぬと知って、娘と心中するつもりか?!!!!!!」
「…」
潤は答えない。その手についた真名の血を悲しげに見つめている。
「馬鹿な…ここにきて俺の悲願が…。
大切な実験体が…」
その現実に唖然とする乱道。潤はそれに言葉を返す。
「真名さんは、やすやすとその身を実験に使われる人じゃありません。
そうなるしかないとしたら、自ら死を選ぶでしょう」
「だから…貴様は、小娘を手にかけたのか?」
その言葉に対し潤は…
「いえ?」
そう答えた。
「?」
乱道はその言葉の意味を理解できないでいた。だから、それが致命的な隙となった。
<蘆屋流裏秘法・天魔合身>
「?!!!」
それは、確かに自身の背後から感じられた。だから、乱道は振り返り見たのだ。
そこにそいつが立っていた。
「すまない…潤。
そして乱道…。
…今度こそ貴様を止めてみせる」
そこに立っていたのは、まさしく蘆屋真名だったのである。
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