悲哀の救済者
ヒラナリ
プロローグ
いつかの始まり
––––––ソレがなにかをしている。
–––––––––アレがだれかをよんでいる。
––––––––––––––––がーーーをなしている。
だからどうした?
枯れる物は枯れ、消えるモノは消える。そして、死ぬ者は死ぬ。
寿命や天命、終焉や終わりを迎え、それらは全て無に還る。
何も生み出さず、何も無くなる事のなかったかつての世の中のように––––––––
–––––––長い長い夢を、見ていたような気がする。とてつもなく時間は長く、永遠にも感じていたかもしれない。しかしその内容は思い出せず、かといって自分の夢ではなく、そして誰かの夢という訳でもなく。
ただ、何かの記録を見ていたような感じがした。
時計のアラームと共に目を覚ました彼はその時計の時刻に目を合わせる。
「八時ですか、中々悪くない時間帯ですね」
彼は体を起こしてベットから出ると窓際に近付きカーテンを開ける。眩しい日差しに、少し目の前の視界を片手で隠すが、すぐに外の様子を伺って見る。
「今日は良い気温。外は快晴の晴れ、何か良い事がありそうです」
日頃よりも早く起きる事に嬉しくて気分が良いのか自然に彼の口数も少しだけ増える。太陽の光を浴び、体調を整えたところで今度は自身の朝食の準備をする。
キッチンに向かい、ベーコンや卵、ウィンナーなどの必要な具材を取り出すとフライパンに油を敷いて軽く調理を始めていく。心地良い油の跳ねる音を聞きながら、それに並行して同時にパンを焼き、食器の準備を続けて進める。
やがて料理が出来上がると、それを盛り付けてから自身の食事場所のテーブルに持って行く。席に座り、醤油を掛けるとそこには今自分が丁度食べたかった朝食が出来上がっていた。
「頂きます」
今日の朝食はベーコンエッグというベーコンの上に目玉焼きを乗っけた比較的日本のいろんな家庭でも食べているごくごく普通の一般的な料理だ。
基本的にとても簡単な料理なのだが、彼にはとってはこの料理を完成させるだけでも精一杯なのである。いつもはスクランブルエッグとかもっと雑で簡単な料理をしているから今日はきっと幸先が良いのだろう。
取り敢えずこのまま感慨に浸るのと、時間が過ぎてしまいそうだから目の前にある醤油をかけたベーコンエッグを切り分けて口に入れて食べてみる。
「うん、美味しい」
どうやら味は満足のようだった。
朝食を食べ終わった後、食器を食洗器で洗って乾燥させてから食器棚に戻す。事前に洗濯機を回し終えて乾燥した服を洗濯機から取り出して服をしまうと、外に出る用事があった彼は自分の部屋で着替えをしていた。
「どの服が良いのかな?流行とかあまりわからないし」
形はどうであれ、見映えはやはり大切だ。印象が悪いとそれだけで偏見を持たれてしまうからだ。なにせ今日は新しい生活の準備が待っている。身支度はしっかりしなければ意味がないのだ。
「やっぱりここはシンプルに清潔感があればいいですかね?」
ある程度考えた後で彼は、目立ち過ぎずおそらくは印象の良いと思われる服を着て外へと出掛ける。外出をした彼は当初の目的地に足を進めていく。
実は今日、彼にはそれなりの予定が入っていたのだ。
携帯電話の修理や新しい衣服の調達、夕飯の買い出しや学校の書類を提出するなど様々な事が今日のスケジュールの予定の中に入っている。
「今日はなんだが疲れそうですね。明後日からは高校の入学式の日なのに」
そう、今日は四月四日。季節で言えば春で桜が満開の時期である。
次の次の日の四月六日、つまり明後日に入学式を控えた彼は今になって急いで準備をして新シーズンに備えようとしている訳だ。
だが彼は、今自分の居る場所に酷い場違い感を感じていた。
「本当に俺はここにいて良かったのかな」
全長約20km、半径およそ10kmの円状に作られた人工島。通称二十五区。国が建設したこの人工島は今やこのシンボルとも言える場所となっている。
二十五区にはあらゆる施設が存在し、観光地としても賑わいを見せている。
この二十五区は本島からの入り口が四つあり、それぞれ東西南北で均等にある為に休日には首都圏各所から様々な人達がやって来たりもする。
そして、この二十五区には一つだけとある教育機関が存在する。
特立大学付属東京高等学校、通称:特東。
この学校こそがこの島唯一の存在価値であるという事実だ。
今から遡る事約半世紀前、日本のとある事件が原因でそれは起こった。
それは未知なる者の到来。
人類が期待しつつも恐れていた異星人が地球に攻めて来たことであった。
その目的は支配。
あらゆる能力を自らのものに自身の種族をより強くするというものだった。
来るべき時を迎えた我々は対話を試みて、友好な関係を結ぼうとしたが、相手側にはその気が全く無かった。
奴等は地球という惑星の破壊を試み、人類への侵略を開始してきた。その中の事件には大勢の人の命を奪った攻撃などもあり、その事件は今では全世界から恐れられている。
無防備な状態から攻撃された人類は遅かれどその後、各国と連携して現代兵器を駆使しながら苦戦をしつつもこの戦いを勝利を収めてこの争いに終止符を打った。
だが、侵略はそれで終わる事はなかった。
その戦争、その事件をきっかけに一気に他の星の生命体も侵略を開始してきたのだ。
しかし既に限界と言えるまでに戦力と兵器を使用した人類には殆ど戦う手段は残されていなく、破滅の道を歩む事を受け入れつつもあった人類にとある集団が奴等の侵略を阻んだ。
それが今の、俗に言う能力者である。
彼等はその圧倒的な完膚なきまでの力で敵を倒し、殺し、殲滅した。
彼等の力は凄まじく、瞬く間に人類は反撃し、そして防衛ラインを構築する事に成功した、
やがてその力を発現させる方法も開発され人類は新たなる人為的な進化をした。
外から、宇宙からの敵に対しての戦い抗う力を。
超能力や魔法なんて大層な呼ばれ方をしていたソレは何も初めから人間に備わっていたらしく、今の人間はそれを引き出して使う事が出来るという。
この力が分かったばかりの当初は偏見や小馬鹿にされていたが、やがてその力を使った発明や仕事を使った事をし始められて、人類はその力に対応せざるを得なかった。
しかし現実は思ったほど変わる事はなく、能力者と呼ばれる異能持ちは日本人には適正があるらしくて今の日本は異能持ちは世界で一番多い。けれどもその日本でさえもおよそ1%しかその存在は確認されなかった。
だが他の国の場合だとこれよりも更に少なく、世界全体で見るとそれは0.1%と更に減少する。幾ら引き出せるレベルとは言っても現実問題としてこれしか居なかったのだ。人類防衛の為に戦える人材となると、更に厳しい。
秘められた力を持っている者は軽い検査で自身がどういう力を持っているかが確認できてそのデータは国に保管される。
そしてその中で優れた力を持つ者がこの学校に集まされるのだ。
なのだが………
「別に何も対した力とかも無い筈なんですけどね」
俺はその検査でマトモな結果が出なかった。検査で分かった事は精々少し速いスピードで走れる事くらいだった。まあまあ摩擦を消せるとか云々だったと思う。分類で言えばリミッター解除みたいなものだろう。
なのに最近になってからここに住んでいるのはもはや意味がわからない。政府からの連絡はしっかりと届いたのだがちょっと現実離れしていて付いて行けてないのだ。けれど取り敢えず今はここで暮らしている。
「こんな力で、何で俺を特東に入れたんでしょうか?」
ここ二十五区は警備がどこよりも厳重だったりする事から芸能人や著名人、有名人や人間国宝なんて方々もここには数多く住んでいる。
それ故に、異星人やら敵やらからよく好んで襲撃はされるが、それを守ってくれる能力者達が居る為ある意味ここが一番安全な場所とも言える。地下鉄、電車、モノレール、バスと様々な交通機関があるから生活するにも苦労はしない。
けれど本来はここは真っ先に戦場と化す。戦力の強化、それを目的としたのがこの学校存在意義。
その為だけにこの島は作られたのだから。
たった一つの学校の為に作られた人工島、二十五区には彼等がいる。人々の対抗出来る手段とも言える者が。そう、それこそがこの学校の生徒達である。
サイキッカーや超越者、魔法使いや魔法師や魔術師などと一昔前は言われていたらしいのだが、今現在では守力者なんて言われてたりもする。大体は名称を決めるのが面倒だから能力者というのがお決まりらしいのだが。
彼等のお陰で私達は日頃から敵を見掛けなくなった。本当に会っている事すら無いレベルで対応出来ているのだ。自分等はそれを感謝しなければならない。
けれどそんな平穏はいつ崩れるかは分からない。
我々人間はあの戦争から誰がもがその事をしっかりと心に刻み付けいる。
学校の書類を宅配便の速達で提出した後、携帯の修理に向かう。
家からその店までには電車を使わなければならなくて、使いやすいモノレールに乗って現地に向かう。
やがて目的の駅に着くと駅からすぐ側にある携帯ショップへと入る。
「すみません、この携帯の修理をお願いしたいのですが」
「この機種、古いですね。新しい物には買い替えないんですか?」
「いえ、それにはなんとなく思い入れがあるので。結構です」
「わかりました。ではこちらの番号が呼ばれるまで少々お待ちください」
店員に言われた後。潔く席に座り、特に何もせずに暫く待っているとやがて番号で呼び出される。そしてその店員話された内容に少し頭を抱えた。
「2日後ですか?修理に掛かる時間が。ちょっとそれは困りますね。その日も予定あるので改めて後日お伺いしたいのですが」
「畏まりました。では、こちらから改めて連絡致しますね」
「あ、はい。わかりました」
携帯を修理に出し、外へ出るともう既に陽が陰っていた。
「さてと、次は夕飯の買い出しですね。今晩は明後日の事も考えて比較的簡単なものにしましょうか」
行きと同じ様に帰りもモノレールで最寄り駅まで帰り、家の近くのスーパーの中に入る。食材を確認しているとそこで小さな軽い変化を見つける。
「野菜が少し高くなってますね。まあ今のご時世じゃあ、それも当然なのでしょうね」
そう。今では既に人為的な農業は終わり、出ているものはその殆どが機械で作ったものなのだ。とは言っても結局は人間が機械を動かして作っている為味の変化などは殆どないのだが。
寧ろその分、普通は生産効率が上がって安くなったりもするのだが。やはりというべきなのかなんというか、外敵という襲撃が絶えないのでここ最近、農家が被害に合ってたりするのだ。なので食材の値段が少し高くなっていたりする。
思わずどうでも良いことを考えてしまった。いつもならそれでも別に構わないのだが、今日は急がなければならない。
いつもなら食材を吟味しながら数日分の食材を買っていくのだが、いつもより時間も押している為、今日の分のだけ食材を選んでカゴに入れていく。
決めた物をレジに運んでいくと、今では珍しいとも言える店員が会計を手際よく済ませていく。
「お支払い方法はどうなさいますか?」
「現金でお願いします」
「1746円です」
「2000円でお願いします」
「254円のお返しです。ありがとうございます、またお越し下さいませ」
店員の丁寧な対応にこちらもお辞儀をして店を出ると、外は完全に暗くなっていて夜になっていた。
明後日の事も含めて、焦りつつも慌てずに歩いて帰って家に到着する。
「少し遅くなったから、急いで夕食を作らないと。明後日の準備もあるし」
そう呟きながら彼が鍵を使って扉を開けると…….…そこには全身から溢れ出るような不思議なオーラを放つ女性がいた。
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