第7話(改)

ちょっと長めです。

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 一つ驚いたことを付け加えよう。


 パントリーからコンベックスが出てきた。パントリー内の小分け用容器のサイズを測るのに持ってきてそのまま仕舞ってしまったようだ。午前中無駄に過ごしたやるせない気持ちと汗で濡れたシャツを洗濯機に放り込んで洗い流した。


「午前中は居もしない子供の部屋が増設されることが決まっただけだったな」




 その後夕方までアプリでテーブルの配置を試していたけどしっくりと来るものができなかった。


 そうこうしているうちに高校の制服姿の大翔と澪ちゃんが揃ってやってきた。うんうん言いながらアプリを弄っている俺に対し、ちょっと貸してという澪ちゃんがちょいちょいと配置を決めていく。

 ものの十分ほどで各テーブルなどの配置は確定した。俺の午後もやはり無駄になった模様。



 もう商品を並べるのも全部澪ちゃんの指示に従うことにして、俺と大翔はただ只管ひたすら段ボール箱から出して並べるだけの人になることにした。そしてそれが正解だったことは三時間後に出来上がったディスプレイが完璧な店内が証明していた。


「澪ちゃん、センスあるね。素晴らしい」

 俺が褒めると、

「そういっていただくと嬉しいです。でも二人がきれいに並べてくれたからいい感じになったんですよ」

 と感謝と謙遜で照れたいい表情をする。ちなみに大翔は疲れてひっくり返っていた。



 商品価格は既に系統別に調べてあったので、並べるついでに値札も貼っておいた。


 はじめこそ値段など無いに等しいボロなのに価格などつけて良いのか迷ったが、途中からは無心で適当な値段をつけていった。買う人は幾らでも買うし、買わない人は一円でも買わないと休憩中に顔を出した慎司に言われ、腑に落ちた、様な気がしてもう考えないことにした。最初に落札された発条秤もそんな感じだったのを思い出したしね。


「お店もできたし、マコトさんも今日から店長ですね~」

 ひっくり返ったままの大翔が言う。


「店長?」


「ふふ。柊木古道具店の店長じゃないですか」

 俺のつぶやきに澪ちゃんが応える。


「そっかぁ~やっとお店って感じになったもんな――」


 ネット販売だとお店って感じなかったんだよな。実店舗が目の前に出来上がると実感が湧き上がってくる。


「――まさか俺が店長などと呼ばれる日が来るとはこれっぽっちも思ってなかったよ」


 三人で笑いあった後、片付けをして店を閉めた。




 明日から二月。予定通り本格オープンの日を迎えられる。まさか前日まで何も商品が並べられていないなんて事があったなんて三人しか知らないんだよ。



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 二月一日。


 夜半すぎに降り出した雨は、朝方雪に変わったようだ。そうネットのニュースに書いてあった。


 俺は寝ていたので、雨が降ってきたことも雪に変わっていったことも知らなかった。目覚めた時とんでもなく寒いので窓の外を見たら雪が降っていたのだ。幹線道路には積もらないだろうけどうちの周りは田んぼと畑だらけだし、そもそも人通りが少ない。今日は土曜日なので余計に少ないだろう。


 折角の古道具店ブロカントオープン初日だというのに客足は期待できないな。ホームページやSNSで今日のオープンは告知してある。商品が陳列できたのは本当に僥倖で、最悪ガレージセール風に誤魔化すつもりでいた。それなのにこの有様だ。


「雪ですねぇ~寒いですねぇ~お客さん来ないですねぇ~」


 緩みきった表情でだらけている澪ちゃんがぼやく。


「昼過ぎには止むみたいだよ」


 オークションの手続きをやりながら天気予報を見ていた大翔が応える。



 俺はオークションで落札された商品の発送用梱包をぼ~っとしながらやっていた。


「どうせならなぁ、お客さん来てほしいよなぁ。二人もSNSとかで沢山告知してくれていたもんなぁ」


 SNSのフォロワーはまだまだ全然少ないがいないが、いないわけではないし、コメントもいただく。今日の日に多くを期待していたわけではないけど、ゼロっていうのも寂しいな。


 昼飯はしらすが冷蔵庫にあったので、バターじょうゆしらすスパゲッティにした。しらすペペロンチーノにしそうになったが、思いとどまった。午後も一応店は開くし、万が一お客さんも来るかも知れない。三人がニンニク臭振りまいていたら惨事になってしまう。




 その時は突然に来た。


 一五時。ちょっと眠くなってきてレジ横で俺がうつらうつらしてきた頃、一台の車が敷地に入ってきた。車道からの通路はコンクリート敷で、昼間で降っていた雪も既に消えている。ゆっくりと入ってきたセダンは通路から外れて、空いている場所に停まった。

 車の扉が開いて中からは四〇代くらいの女性二人が出てきた。俺の知り合いではないので、お客さんだろう。


 濡れ縁に展示してあるいくつかの商品を二人で眺めたあと、店の扉に手をかけた。


「いらっしゃいませ」


 テンション上がって変な声出さないように落ち着いて声に出す。

 俺の声が聞こえて、レジ台の後ろにある事務所から二人も顔を出した。


「いらっしゃいませぇ~」


「……」


 澪ちゃんはテンション高いまま挨拶し、大翔は目を見開いて声が出てなかった。

 大翔は感動していたらしいよ。


 オープン記念特価として二月中は表示価格より二〇パーセント割引中としている。


 元が廃棄引取り価格三百万円以上のガラクタなのに、何が二〇パーセント割引なんだかと自分で言って申し訳ない気持ちになるが、欲しい人にとってはお得なのである。たぶん。


 経年劣化の具合などそれぞれ違い、全てが一点物で、しかも二割引。訴求効果は高い。


 二人で三万円近くご購入いただいた。こちらもホクホクだが、お客さんふたりとも嬉しそうに喜んで帰っていった。喜んでくれる顔を直接見られるのはやっぱり良いな。



 この後立て続けに三組ほどお客さんが来て、それぞれ数点の商品をご購入いただいた。


 初日の売上は五万円ちょっとだったが、非常に満足した一日となった。




 打ち上げは日曜日の閉店後にする予定なので、一八時に予定通りの閉店となった。今日明日はオークションの最終日設定もしてないので、自店舗HPからの問い合わせだけに返信してすべての業務を終わらせた。



 日曜日。朝、店の扉を開けると既に三〇代後半ぐらいのご夫婦が濡れ縁のところで開店を待っていた。慌てて、店内に入ってもらい暖を取ってもらう。

 そうこうしているうちに澪ちゃんが出勤してきた。大翔は午後からの出勤だ。


 このお客さんはSNSを見てわざわざ東京から来てくれたようで、SNS担当の澪ちゃんと盛り上がっていた。お客さんの相手を澪ちゃんにしてもらっている間に俺は店の開店準備をしていく。


「お待たせいたしました。用意終わりましたのでご覧いただけます」

 待っていましたとばかりに、澪ちゃんとの話を切り上げたお客さんは店内を見始めた。


 奥さんの方はいきなりテンションマックスでわーわーキャーキャー言いながらアレコレを手に取り吟味していく。お眼鏡にかなった商品は、旦那さんがレジ台まで一旦運んで持ってくる。


 それを何度も繰り返し、レジ台で預かっている商品もかなりの数になってきた。


 旦那さんが新たな商品を預けに来たときにそれとなくきいて見たら、夫婦でレトロなものが大好きで、特に奥さんの方はうちの商品に多い民家系の古道具を好んでいるとのこと。


「来週、妻の誕生日なので、これらが誕生日プレゼントなんです」

 本当は昨日来るつもりだったらしいけど、雪のため諦めて今日になったとか、


「今朝は早くから自宅を出てきてしまい、開店前からすみません」

 と謝罪されたが、お客さんの生の声を聞かせてもらえたのはありがたかった。。


 結局二十数点、二割引プラスおまけして五万円分のお買い上げとなった。奥さんが嬉しそうで良かった。



「また来ますね」と言ってご夫婦は帰っていった。


 この後も数組のお客さんが来たけど、大商いということはなく、売上は七万円強だった。



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