第5話(改)

「約束は午後イチでしたよね?」


 時計を確認しようと店に唯一掛けて飾ってある三台の振り子時計を見ると三台が三台、バラバラの時間を指している。そういえばこの振り子時計、ネジは巻いてないし、そもそも右端のは壊れていて振り子さえ動かないんだった。うちの売物の大半は動作不明か確実に動かないかのどちらかだったの忘れていた。


 ポケットから何事もなかったようにスマホを出して時刻を確かめると確かに午後一時を示していた。


「大翔、後藤田さん。呼んでおいて本当に済まないんだけど、俺まだ飯食っている最中でさ。悪いんだけど、店の方で待っていてくれない?」


 店の方の扉を開け、二人にはちょっと待っていてもらうことにした。至福の時間は台無しになったが、そもそも自分が悪いので仕方ない。さっさと飯を片付けてしまおう。

 冷めてしまった食事は直ぐに済ませ、お詫びになればとクッキーと、ペットボトルのだけど、紅茶を持って二人の待つ店の方に行く。



「さっきも言ったど本当に済まなかった。これ、お詫びといっちゃ何だけど、俺特製全粒粉とオートミールのクッキーね。よかったら食べて」


 皿に山盛りになったクッキーを目にしてキラキラの目をしながらも恐縮してくる後藤田さん。


「全然大丈夫ですよ。そんな大したことないですから謝らなくていいですよ」

 大翔にもお許しいただいた。


「でもさ、約束していたのに適当なことをやってしまったのは確かなのだから、そこはちゃんと謝らないとね。そういうのきちんとやれない人多いけど、俺はそういうの良いことは思えないんだよ」

 特にこれから一緒に仕事をしていく仲間なんだから余計にちゃんとしないと行けないと思う。一番の大人がだらしないってありえないってこと話したら納得してもらった。


「さて、初っ端から恥ずかしい姿見せちゃったけど面接しようかな。良いかな後藤田さん」


「はい、よろしくおねがいします」

 とは言ってみたところ、俺的にはバイトしてもらうことは決まっているようなものだから、給料や勤務時間、やってもらいたいこと等を聞いたり話したりしただけだった。


 基本勤務は大翔と一緒。写真を後藤田さんが撮って大翔が編集とサイトへのアップロード。商品の決済と発送は俺が最初のうちはやるつもり。先々には二人にやってもらっても良いと思っている。話していても素直だし、不正なことなんてやらないだろうという予感もしている。


 まあ、それには先ず商品であるガラクタ共が売れてくれないと何もできないんだけどな。ただお試しで先日指南書を見ながらオークションに出品した五点のうち一つ、錆びてバネの折れた発条秤が五千円で売れていたので大丈夫だと思う。落札者が、秤の役割を全うできない錆びた発条秤を何に使うのか、すごく謎であるが。多分考えちゃだめなんだと思う。


「じゃ、後藤田さん。澪ちゃんで良いかな?大翔と一緒にさっき届いた荷を解いてセットしてくれない?」


「はい、マコトさん。よろしくおねがいします。大翔くん、やろうっ」

 澪ちゃんは大翔の手を引きダンボールの荷解きに向かった。


「付き合ってないって言っていたよな? なんだか距離感ゼロじゃね?」


 後ろから見た大翔の耳が真っ赤だったので後でたっぷりとからかってやることが確定した瞬間だった。悔しくなんかないよ?



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「澪ちゃん、多分必要な機材の一部は大翔が頼んでくれていると思うけど、足りないもの有ったら遠慮無しでちゃんと言ってね。これからガンガン稼いでもらうんだから、投資ケチったらリターンは望めなくなるからね」

 大翔に言ったのと同じように澪ちゃんにも言っておく。


 二人には頑張ってもらわないと。何しろ五点出品した残り四点は見向きもされなかったからな。



「わたしカメラのこと全然わからないですよ」



 撮影ブースを店舗の事務所スペース内に組み立てた後、カメラはどういうのが良いと俺が聞いたときの澪ちゃんはこう言い放った。


「へっ?澪ちゃん、写真撮るのが得意でSNSフォロワーがたくさんいるって大翔から聞いていたけど?」


「確かに写真を撮るのは得意で、SNSでも結構バズりますよ。でも、カメラのことはよく知りません。写真を撮るのは殆どスマホです」


 写真が得意イコールカメラに詳しい、では無いんだな。じゃ、どうしよう。


「あと、一眼レフカメラって一度触らせてもらったことあるんですけど、あれはだめです。わたしにはあの重たいのを持って写真撮るなんて無理ですよ。だから、コンデジか……あれ、あれ? ねえ、大翔くん。あの一眼レフが小さくなったみたいのなんていったっけ?」


「ミラーレス一眼カメラでしょ?」


 大翔は新品の編集用Macをセットアップしながら答えていた。自宅のPCは別のWindows機だから操作に迷うところはあるけど楽しいってMacBookを弄くり回す大翔。


「それじゃ、カメラ買いに行くか?」


「へっ?今からですか? 俺は大丈夫だけど澪は時間とか平気?」


「うん、大丈夫だけど……」


「じゃ、行くか。車出してくる。ちょうどカメラ買ったあと位で夕飯時だから飯おごるよ、家に連絡入れておいてくれ」




 軽バンに二人を乗せて、近くのショッピングモール内にある家電量販店に向かう。



 カメラの性能とか店員さんにいろいろ説明されたけど、俺たち三人が三人よく理解出来なかったのでオススメのミラーレス一眼カメラを購入した。後で不具合あれば、その時買い直そう。



 モール内のレストランで食事をして二人とは別れた。



 まだ夜とはいえ早い時間だったので、二人でウィンドウショッピングとかして帰るんだと。


「デートかよ」と大翔にいったら顔を赤らめていたけど、澪ちゃんの方は満更でもなさそうないんだよな。大翔、なにげに【澪】って名前呼び捨てだし。




 悔しいからモール駐車場手前の酒屋で缶ビールを買って帰った。……あっ、悔しくないです。ホントだよ。



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