第2話(改)

「マコトよぉ〜。そういやお前、なんで離婚したん?」


 俺に無茶苦茶失礼かつ岩塩を塊のまま傷口に押し付けてくるようなこと言ってくるコイツは北上慎司きたかみしんじ


 うちのボロ屋をリフォームしてくれている北上工務店の跡取り息子で俺にとって兄貴みたいな幼馴染。四つ上で俺が今年二七だから、三一歳かな。俺とは違い可愛い嫁さんと娘一人の幸せな結婚生活を送っていやがるようだ。


 今は午後の休憩中で、俺の不幸話を嬉々としてあれこれ聞いてきやがる。ムカつく、死ねばいいのに。


「おいっ、しん坊。マー坊はここんところ辛かっただろうから止めてやらんか!」

 バカを諌めてくれたのは、棟梁。いや今は大棟梁だったかな?慎司の爺ちゃんだ。


「大棟梁、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。もう離婚なんて半年近くも前のことですし、それさえ霞むほどにその後色々ありすぎましたから。それひっくるめて過ぎたことですよ」


 まあ、離婚自体かなりクルものがあったけど、同時期に起きた別の出来事の方がダメージ的にはでかかった。



 とはいえ口では平気と言ってはみるものの、未だ、完全に立ち直っている気が全くない。ちょっと離婚に至った経緯を思い返してしまった ――




 ――桜も散った四月一日。


 その日珍しく早く丸の内の会社を出て、二〇時過ぎに帰宅した。


 妻の恵美がいるはずなのだが部屋には明かりがついていなかった。寝るには早いし、出かけるといった予定も聞いてないし連絡もない。


 取り敢えずリビングに向かってみるが途中にあるトイレも風呂場にも明かりは見えない。


 リビングの奥にある扉を開け寝室を確かめるも、そこにも恵美の姿はなかった。


 いよいよおかしいなと感じてきたとき、ふとダイニングテーブルに近づくと便箋一枚が置いてあるのが目に入った――




「ほうほう。何が書いてあったんか?」

 慎司は、ホントムカつくことにニヤニヤしながら聞いてくる。


「ちっ、ウザいなっ。慎司のくせに! 手紙にゃ、好きな人ができましたので離婚してくださいって書いてあってな――」




 ――恵美は結婚当初、俺の給料のだいぶ良かったので、友人や知人よりもだいぶ贅沢な暮らしを満喫していたようだった。

 ただ、給料が良いってことはそれだけ仕事も多いってことで俺はほとんど家にいることがなかった。彼女は話し相手もなくいつの間にやら不満を溜め込んでいたそうだ。

 そんな折、とある男と知り合い意気投合。あとはよくあるやつだ、NTRってやつ。


 籍を入れてから一年も保たずに離婚に至るとは思いもよらなかった。



 その後に起きた我が親族の崩壊事件もあり何もかもに絶望した俺は、順調だった仕事も辞めマンションも解約し、今や誰も住むことの無くなっていた実家に戻ってきた――




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 実家のある場所は関東平野のほぼど真ん中。梅雨の頃にハクレンとかいう気持ち悪い顔したでかい魚が、なんでか知らないが跳ねることでちょっとだけ名の知れた地区の東側。大きな河川や巨大な遊水池などあり自然豊かといえば聞こえがいいが、ただの田舎である。

 実家は空き家になってから数ヶ月だが、八月九月と週一ぐらいは空気の入れ替え程度のことだけやっていた。完全に引っ越してきたのは一〇月はじめだが、住むとなるととんでもなく不自由過ぎたので、慎司んちの工務店に相談に行った。


「ま、大変だっただろうけどマコトが帰ってきてくれたのは嬉しいな。ここらへんも高齢化が進んでいるし、何より空き家が増えないのはありがたい」


「慎司んところにもお仕事入るから一石二鳥じゃないか?」


「まぁ、確かにそうだな。それでさ、図面見るとこの納屋は一階を店舗にするんだろ? そこの二階が元からも部屋だったみたいだけどマコトの住居にするのか。納屋で店ってなにやるつもりなんだ? それに母屋の方、あっちも一階は店舗だろ?」


「この納屋は古道具屋、あっちはカフェ」


 実家に戻ってきたときに敷地内の建物の中を改めて確認して回ったのだが、納屋二棟、内一棟はただの物置小屋、と水塚の蔵、母屋の押し入れや開かずの間になっていた部屋からガラクタが出るわ出るわ。爺さん婆さんやクソ親父は物を捨てることができない人たちだったので溜め込んだのだろう。


 廃品処理業者に見積もりをとってみたら、見えている箇所だけで三百万円。見えてないところは見えるようになってから別途お見積りってことで、と言われ途方に暮れてしまった。


「ごみ処理って結構金かかるんだよなぁ、うちも産廃代結構取られているし」


「だよな。なんでネットで調べたら、ああいうガラクタって売れるのな。それも結構いい値段で。ブロカントって言うみたいでさ、モノによっては新品価格以上になるんだぜ」


「マジか? ああ、何にしろゴミは売るほどあるもんなっ」


「そういうこと。だから納屋の一階を店にして、適当に今までの納屋とかにあったもの並べておくつもり。まあ、ネットのオークションとかがメインになるんだろうな。結構売れるみたいだし」


「ふ~ん。オモシロイこと考えつくな、マコトは。それで納屋はそれでわかるとして、母屋はカフェ? まだ細かいところの設計も終わってないだろ?」


 ザ・古民家といった風貌の母屋の方は、俺の趣味の料理と子供の頃世話になった近所の爺さん婆さんの憩いの場にでもなればいいと思っていて、カフェにするつもりでいる。


 カフェなんてやったことは勿論無いし、一番多く、開店して早々に閉店するのもカフェって言うのも聞いたことあるけど、別に儲けなくても生きていけるだけの貯蓄もあるし投資もうまくいっているからボチボチやれればいいかなと思っている。




 たんまりふんだくったあぶく銭、浮気の慰謝料を今回のリフォーム代に当てたので、自身の懐具合は変わってない。カフェが多少失敗したところで痛くも痒くもない。

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