葬式の章

第20話 死んでも?…ったく‼

 母親が死んだ。

 葬式は滞りなく終わり、僕は片付けが始まりだしたメモリアルホールの隅に置かれた椅子に座り、大きなため息を吐き出しネクタイを緩めた。

 覚えたばかりのタバコに火をつけ横に置かれた灰皿に灰を落とす。

 この歳で喪服を着ることになるとは思ってなかった。

『霧島 霧子 享年33歳』

(10年くらい…かな…最後まで母親という感じはなかったな)

 コレといった思い出も湧いてこない。

 吸いかけの煙草を灰皿でもみ消して席を立った。

 片付けているスタッフの邪魔だという視線を感じたからだ。

 ロビーへ降りるとヨレたスーツの中年男性がペコリと頭を下げた。

 なんとなく僕も軽く頭を下げた、母親の知り合いかと思ったのだが、喪服ではない。

 普通の安っぽい紺色のスーツ、着なれたというより、着込んだというほうがシックリくるような感じだ。

 着なれない喪服の僕とは対照的だ。

 中年の男はスッと僕に近づいて胸のポケットから警察手帳を取り出した。

「警察?」

「霧島……零さん…ですよね」

「えぇ…そうですが」

「霧島 霧子さんの息子さんで間違いありませんね?」

「はい…なにか?」

「義理の…養子縁組されているんですよね?」

「はい…あの…何かあったんですか?」

 ふぅ~っと大きく深呼吸して刑事はガサガサと書類を2枚差し出した。

『死亡届』

「コレが何か?」

「日付を見てもらえますか…」

「………えっ?…コレ…」

「不思議でしょ? 同姓同名…というわけではないんです…出生日も同日…」

「えっ? どういう?」

 なぜだろう…動揺しながら僕は、これから突き付けられる事実を疑いもなく受け入れることになる。

 それは母親の…どこか現実から離れているような場所で生きていたような非現実な雰囲気というか、そう孤児だった僕を引き取った『霧島 霧子』という女性の不思議な雰囲気は、こんな事実など当然のように飲み込んでいく…そんな女性だったから…。


「霧島 霧子さんは、20年前にも死亡しているということです…役所からの問い合わせがなければ…事件にはならなかったんでしょうけどね、事件性もないわけですし…まぁ…偶然というか、たまたまというか…よく気づいたもんだとは思いますけど」

 刑事が頭をガリガリと掻いた。

「ちょっと待ってください、それが…いや…どういうことなんでしょうか?」

 ピタッと頭を掻くのをやめて刑事は凄むように僕の顔を覗き込んだ。

「どういうことなんでしょうかね~」

「はっ?」

「戸籍が…売買されている…いや…いたという事実だけは揺るがないと思いますけどね」


 刑事はポンッと僕の肩を叩いてギュッと力を込めた。

「痛っ‼」

「まぁ…そういうことなんで…遺体は預からせていただきますよ」


(死んでも?…ったく‼)

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