第12話 溺れる…壁の中で?

 斧持ってノシノシ歩いてくる大男の方が精神的に負荷が小さい。

 レーダーは左右の鏡写しのような少女に挟まれフリーズしていた。

(金縛り…ってヤツかな…)

 指先すら動かせない。

 声も出せない。

 まぁ出せたところで、助けを期待できる状況でもないのだが…。

「アッチの水は苦いよ…コッチにおいでよ~」

 少しづつ…少しづつ…左右から少女が近づいてくる。

 視界の端から近づいてくる気配、不幸にも目だけは動いてしまうのが金縛りの悪いところだ。

 動くものを無意識に目は追うのだ。

 右…左…そして右…

 等間隔で距離を詰めてくる左右の少女。

(双子…かな…)

 こんな怖い双子は、もちろんレーダー人生の中でファーストコンタクトである。

「右…左? どちらを選ぶの?」

 背後から落ち着いた女性の声がした。

 反社的に振り返ろうとするが、金縛りの真っ最中、動けるはずもなく、強張った両手を双子がグイッと引っ張り合う。

「後ろの正面…だぁれ?」

 女性の声がすぐ後ろで聞こえる。

 髪の毛先で背後に立つ女の存在を感じるほどに…

「ねぇ…だぁれ?」

「だぁれ…だぁれ…だぁれ…」

 手を引く少女がステレオで問いかけてくる。

 声も出せないレーダー、泣いていいなら泣いていた。

 金縛りだと涙もでない。


(誰でもいい…助けてくれ~)

「逃げたい?」

 耳元で女が囁く。

「ねぇ…逃げたいんでしょ」

 折れそうな心に不思議な安らぎを感じる声…

「逃げたい?逃げたい?逃げたい?」

 両手を引く双子がケタケタと笑いながらレーダーを引きずるように正面の壁に近づける。

「ソコにね…新しい絵が欲しかったの」

 ググッと後頭部を押されるレーダー、目の前に壁。

(やめろ‼)


 ヒタッ…

 レーダーの頬に冷たい壁の感触が伝わり、それが全身を覆うように伝わる。

「アナタは…どんな絵になるのかしら? 楽しみだわ、フフフ…」

「楽しみー‼楽しみー‼」

 双子が壁の中に消えていく…レーダーの手を引いたまま。

(ウソだろ?)

 レーダーの身体がズブズブと壁にめり込んでいく。

「恐怖?歓喜?不安?絶望?失望?」

 女が耳元でレーダーに尋ねる。

「ねぇ? 今…どんな気持ち?」


(どんな気持ちって…後悔しかねぇ…)

「そう、後悔なの…」


 心を読んでいるような女、後頭部を押す力が一気に強くなる。

 ゴボッ…滑りある水の中に沈められるような感覚。

「いい絵になるのよ…」

 身体が一気に壁の中に押し込まれた。

ゴボッ…ガハッ‼

肺が水で満たされ意識が遠くなる…。


(溺れる…壁の中で?)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る