二章22 『決着の宣言』

☆お知らせ☆


○二章16 『花龍と単龍』のセリフを一部変更させていただきました。

 以下をご確認ください。


・変更前

「ああ。花龍は1~3、4~6、7~9それぞれの順子(シュンツ)を三つの色で完成させる役だ。それを門前(メンゼン)単騎待ち、つまり雀頭(ジャントウ)をツモで揃えて上がることができれば、単龍になる。だけどその雀頭が白(ハク)なら『白龍昇り』、發(ハツ)の場合は『草原走り』で無効になるって役だろう?」


・変更後

「ああ。花龍は1~3、4~6、7~9それぞれの順子(シュンツ)を三つの色で完成させる役だ。それを門前(メンゼン)単騎待ち、つまり雀頭(ジャントウ)を自摸(ツモ)か栄和(ロンホー)で揃(そろ)えて上がることができれば、単龍になる。だけどその雀頭が白(ハク)なら『白龍昇り』、發(ハツ)の場合は『草原走り』で無効になるって役だろう?」


 今作では単龍は鳴かずにテンパイまでそろえれば、和了り方は問わないことにさせていただきます。(元々そうだった気もします……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……は?」

 俺は我が目を疑わざるを得なかった。

 それは混じっているはずのない牌、赤色(・・)のイーピンだったからである。

 イーピンはもとより通常部分が赤い。しかし目(ま)の当たりにしているのは絵の全てが真っ赤になっていた――まるで日本国旗のように。


 日本の麻雀には多くの場合、牌に赤ドラというものを混ぜる。

 赤ドラとはそれを所持したまま上がれば一翻が追加される、通常のドラと同じ効果を持つ。

 一般的に赤ドラは各色の5の一枚であり、普通の牌と違い文字や絵が赤いものに変えられている。

 破邪麻雀でもそうだと思っていたが……。


「なあ、柚衣。破邪麻雀ではイーピンの赤も混じっているのか?」

「いいえ、通常は各色の5が一枚ずつ赤ドラとなっています。通常の麻雀と同じです」

「でも、あれはどう見ても赤色のイーピンなんだが……」

「ふふふ。これはわたくしだけの牌なんですのよ」


 ヒミコは赤イーピンを剣(つるぎ)の切っ先で示して言った。

「わたくしにはちょっと特別な能力があるんですの」

「なんだよ、その能力って……?」

「日を宿しし単龍の瞳、であろう?」

 強張った表情の独虹が言った。

 ヒミコは目を細めてうなずく。

「ええ。単龍をテンパイした時に雀頭の待ち牌がイーピンだった場合、それは赤ドラになるんですの」

 とても限定的で使い勝手が悪そうではあるが、実際に目にしているのだから何も言えない。


 ヒミコは独虹を真っ直ぐに見据えて続ける。

「赤イーピンの効果は通常のものとちがい、盾ではなく攻撃へと化けます。その名は――」


 牌が輝きを放ち、中空に赤き球形のものを現出させる。

 それは地獄の業火のように不安を掻き立てるような揺らめきを見せる焔を纏い、輝いているにもかかわらず深淵の闇を内に抱えているようだった。

 しかもかなりデカい。もしもあれがスイカだったら、成人男性が十人いても一週間はかかるだろうというぐらいに。

「龍が瞳は光と闇を湛え、その視線にて敵を射殺す――銅黒之眼光(どうこくのがんこう)!」


 ヒミコが唱えるやいなや、球形から赤と黒の入り混じった光線が射出され、独虹へと迫っていった。

「単龍は赤々と燃える太陽を象徴とする国、ヒノモトのローカル役ですわ。その龍の瞳は太陽こそがふさわしい――そう思いませんこと?」


「舐めるな小娘がァアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」

 独虹は今まで温存していた光円を眼前に集め、盾とした。14枚の光円は瞬く間に光線を受けて溶かされていく。

 独虹は大刀を腰にひきつけ、光線を眼前に捉(とら)え。

「――ぬぅうううううううううううんッ!!」

 目にも止まらぬすさまじい速さで振り切った。途端、白く湾曲したブーメランのような形状のものが刃から光線へと放たれた。白翼之刃(はくよくのじん)とでも言うべき攻撃は真正面から光線へとぶつかり、あろうことか鮫(さめ)のヒレが大海の潮水を裂くかのように光線を独虹に当たらぬよう拡散させて驀進(ばくしん)。果てには光球に衝突し、真っ二つに切り裂いた。


 その力技に俺は唖然とせざるを得なかった。

 ヒミコの放った見るからに強力な牌の一撃を、独虹は満身創痍であるにもかかわらず防ぎきってしまったのだ。

 元よりどこかおっかないヤツではあったが、今のアイツは完全に恐怖の対象だった。

 それは威圧感とかそういうんじゃない。

 今の俺が抱いているのは天地のもたらす禍(わざわい)と相対した時の諦観だ。自身と比較することすら能(あた)わぬものを前に無力感に打ちひしがれる、あの感覚である。

 独虹は大刀を杖代わりにし、肩で息をしながらも、今もなお倒れる気配を見せない。

「……さすがヒノモトの長を務める者の攻撃は一味違う。しかし吾輩を倒すには至らなかったようだな」

「本当に化け物みたいなお方ですこと。本当に人間ですの?」

「そのつもりだ」

 杖を地から離し、己が牌を斬り、攻撃に転じてくる――


 今思えば、独虹の攻撃も万全なコンディションから繰り出されているのではない。

 普段と比べて絶不調の、本気の五十パーセントにも満たないものだろう。

 にもかかわらず、俺は――


「ぐっ……!?」

 独虹の放ったローワンによる六つの火球の内一つを防ぎ損(そこ)ねて、流れ弾が接近してくる。急いで黎明(リィー・ミィン)を振り直そうとするも、間に合わない。


 希望は断たれたし、自分が倒れればそれで試合が終わるじゃないか……。

 そんな思いが胸中を占め、武器を取り落としそうになったその時――


 突然、目の前に白い鳥のようなものが現れ、火球を代わり食らってくれた。鳥は煙を上げて紙になり、燃え尽きる。式神だったのだ。

「しっかりしなさいよっ、九十九ッ!」

 すぐ後ろから叱責が飛んできた。

「……麻燐? って、お前なんで!?」

 彼女はすぐ間近、俺の背後に来て仁王立ちしていた。

 腕を組んで胸を反らした彼女はふんと鼻を鳴らした。

「見ちゃいられなかったからよ。……まったくもう、腑抜けた顔しちゃって」

「いやいやいやっ!?」

「……麻燐、そこは危険である。今すぐ戻るのだ」

 独虹の言葉をふんと鼻を鳴らし、暗に拒否の意を示して彼女は言った。

「あたしは今から、九十九と組むわ」

「麻燐ッ!!」

「父上。聞きなさい」

 麻燐は指を二本立てて、迷いない語調で宣言した。

「二巡後、この試合に決着をつけるわ――あたし達の勝利という形でね」

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