二章21 『活路は断たれたか?』
局は進み、5巡目。
「立直(リーチ)!」
独虹のヤツがリー棒を振りやがった。
これでヤツの点数は――0点。
「ぐっ……!?」
早々に俺の魂胆(こんたん)は打ち砕かれた。
独虹のヤツがギロリとした目つきで俺を睨んでくる。
「大方、1000点の和了(あが)りによる攻撃で吾輩を気絶させる目論見(もくろみ)だったのだろうが……そうはいかん!」
曲げられた牌、チューワンの攻撃――九つの火球が俺に向かって飛んでくる。
それを光円と黎明(リィー・ミィン)でどうにか防ぎ、俺は憤懣(ふんまん)をヤツにぶつけた。
「お前ッ……どうしてだよ!? どうして誰も犠牲にしない道があるのに……」
「お主にはわかるまいっ……! 吾輩の胸中など、絶対にッ!!」
ギリッ、と擦りつけられた奥歯同士が鈍い音を立てる。
「わかんねえよっ……。んなクソみってな自滅願望を持つ理由なんてよッ!!」
パーソウの剣を独虹に飛ばすも、全て大刀の一振りで弾かれる。索子(ソーズ)の中で二番目に高い威力を持つ攻撃が、掠(かす)りもしない。攻めてるはずのこっちが精神的に参りそうになる。
通常の牌では、ヤツに攻撃が届くことはないだろう。
俺だけじゃない。
「鳳(おおとり)よ我に授けよっ、十一の刃ッ!」
柚衣の場に表示されたイーソウが光を放ち、宙に刃を出現させる。
彼女固有の技らしいあれは、技の名の通り十一本の刃を宙に出現させ、それで敵に攻撃するチューソウを越えた大技だ。
「はぁあああああッ!」
気合の入った一声と共に柚衣が剣を振り下ろすと同時に、刃が独虹目掛けて射出される。
その空気を裂く音はまるで空間そのものが耳鳴りを起こしたがごとく。
俺の攻撃とは比べ物にならない、必殺の一撃に見えた。
しかし。
「ぬるいぬるいぬるぅうういッ、ぬるすぎるわぁあああああああああああッ!!」
凄(すさ)まじい速さで振られた大刀が、全(すべ)ての刃を地面に叩き伏せる。切っ先は独虹にかすり傷をつけるどころか、彼の鼻先に達することすら能(あた)わない。
「ふん、柚衣女史も少しは成長したかと思ったが、この程度であったか」
「くっ……」
柚衣が手を抜いていたわけではないことは、彼女の無念に歪んだ顔を見ればわかる。
点数を削ることができない今、通常牌で独虹を文字通り倒すしかない。
破邪麻雀はあらかじめ定められた局数――ただし東風戦から一荘戦までの間に限る――を終えるか、誰かが気を失うまで続く。現状もっとも早く対局を終えるには、やはり独虹に気絶してもらうのが手っ取り早い。
しかし本人はなぜか自滅する気満々で、通常牌の攻撃はことごとく防がれる。
そのうえ立直をかけられて0点になったせいで、和了(ホーラ)の攻撃は通らない。
アイツ……絶対に|何か(・・)隠してやがる。
ただ民を守るためだけなら、自滅なんて望むはずがない。それがなんなのかわからないが鬼気迫る様子から、生半可(なまはんか)な覚悟ではないことは伝わってくる。
とにもかくにも、独虹の考えを変えるのは無理そうだ。
和了できないなら、振り込みで点数を稼がせるか……? いや、あの状態じゃ上がり牌が来ても見逃すだろう。
となれば、もう一つの方法として流局が思いつく。
流局とは、基本的には誰も和了(あが)らずに壁牌(ピーハイ)が尽きて、局が終了することを言う。
流局時には聴牌(テンパイ)していなければ他家(ターチャ)に不聴罰符(ノーテンばっぷ)を支払わなければならない、という決まりがある。
独虹以外の全員がノーテンならば、全員が1000点を失点して、ヤツに3000入る。
それならば次の局に希望を繋ぐことができる。1000点以上の和了もできるようになるし今よりも状況が改善される。
しかし独虹と交わした約束は、東一局で決着をつけるというものだ。次の局になったらおそらくチョンボで自滅しようとするだろう。
何がなんでも東一局で終わらせなければならない。しかし柚衣の全力の一撃すら通用しない今、こちらに打つ手は……。
その時だった。
「……あら、いい形になりましたわ」
一人のほほんとした様子でヒミコが言った。
「いい手って……お前、今はそんな状況じゃ……」
俺が呆れるも、他の二人の反応は違った。
「お主、まさか……っ!?」
「……女王、テンパイなされたのですか?」
ヒミコはたおやかな笑みを浮かべうなずく。
「ええ。単龍のイーピン単騎待ち、ですわ」
それがどうしたのだ、現状を改善する手立てにはならない――言葉にするよりも先に表情に出てたのだろう、彼女はこちらを向いて話しかけてきた」
「九十九様、と申しましたっけ?」
「あ、ああ」
「あなた様はどうやらわたくしのことをご存じなかったようですが……」
「す、すまん」
「いえいえ、責めているわけではなくてですね」
ゆるりと首を振った後、ヒミコは続ける。
「では一からご説明しましょうか……いえ、実際に見ていただいた方が早いですわね」
彼女は片手で持てる、比較的小型の剣を振りかざし、何やら調子をつけて唱え出した。
「我が国の天におわす太陽の子よ。その目に宿りし恵の光を民にもたらしたまえ」
ヒュンと風切り音を立てて、手牌の一枚を斬り裂く。
一瞬後、宙に出現した牌に描かれていたものは――
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