第235話:温泉とおもてなしと騒動と 33
会談が終わり大臣たちが部屋をあとにしていく中、陛下とディートリヒ様と騎士団長はその場に残った。
中には何を話すのだろうかと気にしている大臣もいたのだが、ディートリヒ様が退出するよう促すとスゴスゴと出ていってしまった。
「……まだ何かあるんですか?」
昨日の密談を行ったメンバーだけになったところで俺が声を掛けると、陛下はニヤリと笑い口を開いた。
「一時的に能力を上げる果物の管理について、常駐させる騎士を選抜したぞ」
「えっ? 早くないですか?」
昨日の今日で選抜したというのは早すぎると思う。それに、相手に了承は得ているのだろうか。
「我々は国に仕える騎士だ。陛下の命があれば、どのような状況であれ、どのような場所であれ、向かう覚悟はできているさ!」
「騎士団長はそれを望んでいましたけどね」
「もちろん! 非常に残念だ! がははははっ!」
……いや、笑い事じゃないんですけどねぇ。
とはいえ、すでに決まっているのであれば早めに挨拶なり秘匿事項なりを説明しておきたいが、その辺りはディートリヒ様がやってくれるのだろうか。
「ご安心ください。こちらから全ての説明はさせていただきます」
心を読まれていたようです。
「ですが、私たちでは知り得ない情報があってはいけませんので、その確認をしたいと思っております」
ディートリヒ様たちが知り得ない情報かぁ。……何かあったかなぁ?
「……いえ、全てお伝えしていると思います」
「そうですか? であればよかった。常駐させる騎士たちは温泉街に?」
「ここからだとだいぶ遠くなるので、たぶん宿場町の方になると思います」
「なんだと? であるなら、温泉に浸かれないということか?」
おっと? もしかして、温泉にいつでも入れるからとか言って騎士たちに説明していたのか?
「どうする、宰相殿?」
「困りましたねぇ。これでは温泉を交渉の材料にできなくなります」
……おーい。さっきの騎士なら覚悟はできているどうのこうのはどうなったんですかー?
「……はぁ。わかりました。でしたら、転移魔法陣を無料で使えるというのはどうですか? これなら、宿場町から温泉街へすぐに移動できますよ?」
「それならばいっそのこと、温泉街に泊まらせてそこから通わせた方がいいんじゃないか?」
「その方が彼らのためにもなるかと」
「……何か急な対応を求められた時、すぐに駆けつけられなくなりますけど?」
「「うっ!?」」
いやいや、観光のためにこっちへ常駐するわけじゃないんですけどねえっ!
「ゴホン! ……それじゃあ、ローテーションを組んだらどうですか? 何人かを班でくくって、一班が見張りの時は宿場町、二班も急な対応に備えて休みだけど宿場町、三班が休息を取るってことで温泉街。これで週単位で回していけばいいんじゃないですか?」
「うーん……確かに、急な対応があった時は別の班が近くにいた方がよいですね」
「たった一班だけが温泉街か? 残りの二班が可哀想だろう」
「いや、仕事で来るんですよね? 観光で来るつもりならいりませんけど? 全部こっちでやりますけど?」
騎士団長は口を出さないでもらいたい。
「であるならば、そうするとしよう」
「よろしいのですか、陛下?」
「トウリの言う通り、騎士たちは仕事のため、王家の管理地を守るためにここへ来るのだ。観光ではないからな」
「はっ! そのように伝えておきます」
「……温泉」
「……ヴィグル騎士団長?」
「……わかってるよ」
いや、マジでわかっているんだろうか、この人は。
とはいえ、一時的の能力を上げる果物の件も片付いたとなれば話し合いは今度こそ終わりだろうか。
そう考えていたのだが、どうやら次の話が本題だったようだ。
「さて、トウリよ。シュリーデン国へ戦争を仕掛けた時のことは覚えておるか?」
「もちろんです」
「その際、シュリーデン王の娘と異世界人が数人いなかったのも覚えておるな?」
「……はい」
俺が返事をすると、後ろで先生や円たちが息を飲んだのがなんとなくわかった。
「うむ。……まずは端的に伝えよう。マリア・シュリーデンの同行について、いくつかわかったことがある。そして、その中には勇者と思われる者の存在も確認できたのじゃ」
勇者ってことは……なるほど、生徒会長か。
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