第225話:温泉とおもてなしと騒動と 25

 温泉街に戻ってきた俺たちが最初に目にしたのは――大量に転がる魔獣の死骸と、剣を交えるライアンさんと騎士団長だった。


「がははははっ! ここにこれだけの強者がいたとは、世の中は広いものだな!」

「お褒めいただき、光栄でございます!」


 戻ってきたばかりだからよくわからないが、騎士団長が優位な感じかな。

 ……というか、特級職を相手に中級職のライアンさんがやり合えている時点で、ライアンさんの技術が如何に抜きん出ているのかを理解させられるわ。

 だが――戻って来て早々だけど、そろそろ終わりみたいだ。


「ふんっ!」

「ぬおっ!?」


 剛剣と重量武器操作を織り交ぜた一撃が、直剣で受けたライアンさんをそのまま後方へと吹き飛ばした。

 地面を削りながらなんとか耐えたライアンさんだったが、腕に痺れが残っていたのかすぐには動けず、その隙をついて騎士団長が前に出ていった。


「――参りました!」


 ライアンさんの降参の声が響くと、騎士団長の大剣がピタリと動きを止めた。


「……素晴らしい! どうだ、ライアン殿! 国家騎士に志願しないか? 今なら俺が推薦しよう!」

「ありがたいお言葉ですが、私はアリーシャ様に生涯仕えることを約束しておりますので、お断りさせていただきます」

「そうか! であるならば、またいずれ手合わせをしよう! がははははっ!」


 騎士団長にまで認められるライアンさんの技術、恐ろしいな。

 というか……何がどうなってこうなったんだ?


「なあ、アリーシャ?」

「きゃあっ! ……あっ、トウリさん。戻ってきていたんですね」


 気づいてなかったのかよ!


「少し前にな。なあ、これってどういう流れで模擬戦に発展したんだ?」


 俺が問い掛けると、アリーシャが事の経緯を説明してくれた。

 騎士団長が積極的に魔獣狩りを行っていたところ、前に出過ぎて囲まれてしまった。そこへライアンさんが駆けつけて二人で囲んでいた魔獣を倒してしまったのだとか。

 そこまで聞けばライアンさん格好いい! で終わるのだが、そこで騎士団長がライアンさんの剣技に惚れ込んで模擬戦を申し出たらしい。

 ……うん。どこに行っても騎士団長は騎士団長だわ。


「それをライアンさんが受けたの?」

「最初は断っていたんだけど、騎士団長の圧に断り切れなくなっちゃってね。周囲の魔獣を一掃してからって条件付きで受けたのよ」


 すると、再び騎士団長が一人で前に出ていってしまい、それにライアンさんがついていって、あっという間に魔獣が掃討された、ということらしい。

 ……人を巻き込むのが上手いなあ、騎士団長は!


「ふははははっ! 良い試合であったぞ、二人とも!」

「「はっ! ありがとうございます、陛下!」」


 そして陛下も楽しんでいたよ。

 この人たち、ここが魔の森だってことを忘れているんじゃないだろうか。他の人たちは疲労困憊で武器を杖代わりにして立っているんですけどねえ!


「も、戻りました、陛下」

「おぉっ! 戻ったか! して、トウリよ。次はどこに向かうのだ? さらに奥へ向かうのか?」


 陛下の言葉に騎士たちだけではなく、こちらの兵士たちからも驚きの声が漏れ聞こえてきた。


「いいえ、陛下。これより奥は俺たちもまだ未開拓の領域になります。なので、魔の森の視察は以上となります」

「なんじゃ、そうなのか?」


 ……うんうん、そうだよね。みんな、ホッと息を吐き出すよね。


「汗もかきましたし、体を流しながら今度こそ温泉を体験してもらおうと思います。ここからは温泉街でしっかりとおもてなしさせていただきます」

「ほほう! そうか! ふーむ、レジェリコには悪いことをしたかのう?」


 いいや、あの人にはこれくらいしてもらわないとこっちの気が済まないからいいのだ。


「全ての宿に温泉は備え付けられているので、皆さんもぜひ堪能してください」


 俺がそう口にすると、騎士たちからは歓喜の声があがった。

 ……ふふふ。そのあとに用意されている料理やお酒、最後には夜のおもてなしも待っている。

 絶対に、満足してもらえるはずだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る