第三章:予定外のサバイバル生活
第128話:プロローグ
新がグランザウォールにやって来てから一ヶ月が経った。
その間にレベル上げも行っており、陛下からの呼び出しで俺と共に顔合わせも行っている。
そして今日に関しては――
「魔の森の開拓を進めたいと思います!」
朝食の席で俺は開口一番、そう切り出した。
「ようやくですね」
「僕は姉さんの仕事を引き継ぐよ」
「ようやくかぁ~!」
「ユリアちゃんは暇そうにしてたもんね」
「む? それは俺のせいか、すまないな」
「……あ、あれ?」
俺としてはサプライズ的に発表したつもりなのだが、誰からも驚きの声があがらなかった。
「ん? どうしたんですか、トウリさん?」
「いや……うん、なんでもない」
困惑している俺にアリーシャが声を掛けてくれたが、なんでもない感じで答えておく。なんだか、恥ずかしいんだもの。
「俺のレベルでどうにかなるものなのか?」
「どうにかって、すでにレベル上げで魔の森の魔獣を倒してるじゃないのよ」
「御剣君なら大丈夫だよ」
少しばかり心配そうにしている新だったが、ユリアと円が太鼓判を押すとホッとしていた。
「レベル上げの時に食べた果物を使えば問題ないよ。新のレベルって今はどれくらいだっけ?」
「レベル18だな」
「特級職で戦闘職なら十分だろう」
「うーん……まあ、真広が言うならそうなんだろうな」
新の事を俺は信頼している。そう口にするとアリーシャから一時的に能力が上がる果物について伝えていいとあっさり許可が下りてしまった。
陛下にも伺う必要があると思っていたのだが、戦力を増強するならすぐにでもレベル上げをするべきだと言ってくれたのだ。
「俺なんてレベル12だぞ、12! 王都でレベル10まで上がってから戦えるようになったけど、それでもレベルはなかなか上がらないんだよなぁ」
「何せ、神級職だもんね~」
「……本当にそうなのかは疑問だけどなぁ」
ユリアが冗談交じりにそう口にしてきたが、正直あまり実感はない。
規格外の鑑定スキルである事に変わりはないのだが、レベルが上がり難い事と戦闘職でない事を考えると、どうも俺には合わない職業なんだよな。
……異世界を自由に満喫したいと思っている異世界人ですからね、うん。
「自信を持っていいと思いますよ。この一ヶ月、兵士長や副兵士長とも訓練を続けていたのですから」
「そういえばリコットも褒めていたよね」
「……そうなのか?」
「うん。彼女はお世辞とか言わないし、本音だと思うよ」
確かに、リコットさんはお世辞とか言わなさそうだな。俺に対してもはっきり不思議な人だって言ってたし。
「それで、開拓は今日から開始するのかな、桃李君?」
「あぁ。メンバーは秋ヶ瀬先生がいないけど、新が加わるしレレイナさんのレベルも上がっているから問題ないと思う」
今回のメンバーで言えば俺に円にユリアに新、アリーシャにリコットさんにライアンさんにヴィルさん、そしてレレイナさんに冒険者のミレイさん。
一〇名もいれば魔獣の掃討も十分にできるだろう。
「それに何より! 俺がいるからな!」
「「「「「…………ん?」」」」」
……え? なんでみんなしておかしな事を、みたいな目でこっちを見ているんだ?
「えっと、正直に申しますと、トウリさんでは多少のお手伝い程度しかできないのでは?」
「鑑定スキルで支援に徹してもらった方がいいと思うよ、トウリ?」
「二人の言う通りだよ、桃李君」
「無理して死んじゃったら元も子もないからねー」
「真広、無理はするなよ?」
「……み、みんな、酷くないかなあっ!?」
確かに戦闘職のみんなに比べるとステータスの数値は低いよ! 無駄に魔力はあるけど攻撃魔法が使えないから意味がないしね!
それでもまあまあ戦えるようにはなってるんだけどなぁ! ……まあ、果物を大量に食べるが大前提ですけど。
「どちらにしても、戦力が多少でも増えるのはありがたい事ですからね」
「……最後のアリーシャが一番酷いと思うけどなあっ!?」
「え? そ、そうですか?」
無自覚ですか!
「ま、まあ、とりあえず魔の森の開拓を始めるって事でいいんだよね、桃李君!」
「……う、うん。それでいいよ、うん」
「はいはい、落ち込まなーい」
「なんだかすまんな、真広」
……いや、慰められるのも惨めなものよ?
とにもかくにも、俺たちは魔の森の開拓を再開させる事にした。
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