第120話:自由とは程遠い異世界生活 56
――結果から伝えよう。俺の不安は完全な杞憂に終わった。
ロードグル国への出兵に主力を割いているのか、こちらが過剰戦力だったのか。
……いや、過剰戦力って事はさすがにないか。相手にもレベル40台が多くいたし、新だって突っ込んできたわけだし。
っていうか、操り人形にしてまで戦力として計算してる時点で警戒するに余りある異常行動だしな。
ただなぁ……目の前の光景を見てしまうと、図らずも過剰戦力だったかもと思ってしまうんだよなぁ。
「おかえりなさい。真広君、近藤さん」
「……あの、先生。これはいったい?」
「雷魔法で一撃!」
「……みんな、気絶してるんですね」
「私が生徒を殺すなんてできないからね!」
新以外のクラスメイトはこちらに殺到していたようだが、先生の魔法一撃で気絶させられたようだ。
改めてみんなのレベルを確認してみると、この結果は当然と言えるかもしれない。
「レベルが、低すぎないか?」
「まあ、私たちは魔の森で魔獣を倒しまくってたからね。レベルの上がり方はみんなよりも早かったはずよ」
俺の疑問に横からユリアが答えてくれた。……まあ、そりゃそうか。
普通は上級職でも倒す事が難しい魔の森の魔獣をこれでもかと倒しているのだから、そりゃレベル差は広がってしまうか。
「いやはや、彼女は本当に凄い魔法師ですな!」
「それ程でもないですよ。騎士団長様こそ、素晴らしいご活躍でしたね」
……なんと。ここでも先生は年上おじ様を虜にしてしまっている。
ギルマスしかり、騎士団長しかり。もしかすると兵士長も先生に惹かれているんじゃないかと思っているのだが、どうなんだろうか。
「それで――そいつがゴーゼフ王なのだな?」
先ほどまでの雰囲気はどこへやら、騎士団長は表情を一変させて縛られて副団長に担がれていたゴーゼフを睨みつけた。
「はい、ヴィグル様」
「……」
「なんだ、気絶しているのか?」
「コンドウ殿の一撃で」
「そうか! それなら仕方がないな!」
騎士団長に認められているユリアの一撃か……絶対に喰らいたくないな。
「マヒロ様!」
「ディートリヒ様も無事でしたか!」
名前を呼ばれた方へ振り返ると、ホッとした表情を浮かべたディートリヒ様が早足でこちらに来てくれた。
「すみません。騎士たちの手当てをしていたもので」
「とんでもありません。……ちなみに、騎士たちの被害は?」
「はい。軽傷者が多くいますが、重傷者が数名で死亡者はいません」
「……え? そ、そうなんですか? 倒れていた騎士たちは?」
ゴーゼフを追い掛ける前に倒れていた騎士たちを心配していたのだが、どうやら相手が拳闘士だった事が不幸中の幸いだったようだ。
強烈な一撃ではあるものの、騎士たちのレベルも一定に達していたので即死は免れていた。
ちなみに、女拳闘士にやられた騎士たちは全員重傷者だったが命に別状はないようだ。
「……そ、そうでしたか。……はああぁぁぁぁ、よかったああぁぁぁぁ」
「マヒロ様は犠牲者を出したくないの一点張りでしたからね」
「それはそうですよ。目的のために自分以外の人を犠牲にするのは、正直好きじゃありませんからね」
壁にもたれながら大きく息を吐き出すと、俺は周囲に視線を向けた。
倒れているほとんどが敵の騎士や操られていただろうクラスメイトたちだ。
こちらの騎士は倒れている者もいるが意識はあり、多くの者は自分の足で立って動き回っている。
「そうそう、真広君。この子たち、どうやったら元に戻るのかしら?」
「あー、たぶんみんな大丈夫ですよ」
新を鑑定した時に分かった事だが、【魅了】【魔眼】【思考停止】という状態異常のオンパレードを元に戻すには完全に意識を刈り取る必要があった。それも、人の手によってだ。
どれだけ操られていても睡眠を取らなければ心身に異常をきたしてしまう。そうなるといざという時に動きが悪くなってしまう。
「という事は、その状態異常を与えていた人の意思とは関係なく意識を刈り取れれば、みんなは元に戻るという事ね?」
「はい。新はユリアがやってくれましたし、ここにいるみんなは先生がね」
俺が微笑みながらそう口にすると、先生の硬かった表情がゆっくりと緩んでいき、最後には安堵した笑みに変わっていた。
「……そっか。うん、よかった。本当によかったわ!」
誰よりも安堵した笑みを浮かべ喜んでいると、背負っていた新がもぞもぞと動き出した。
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