第49話:本当によくある勇者召喚 45
「――おーい! 大丈夫ですかー!」
グランザウォールの外壁の上から声が掛けられた。
こちらからも警備に当たっていた兵士の姿が見えていたので全員で手を振り返す。
ポーションで傷は塞がっているとはいえ、衣服はボロボロになっており遠目から見た兵士は大いに焦ったことだろう。
すぐに門が開けられて中に通されると、そこには驚きの表情を浮かべている髭面強面の兵士が立っていた。
「……ど、どうして?」
「どうして、とは不思議なご質問ですね。我々はライアン兵士長とリコット兵士を助け出して戻ってきただけですが?」
「そ、それはそうですが……そうですね、うむ、その通りだ!」
髭面強面がこちらに歩み寄ろうとした時、何故かアリーシャの前に立ったのはライアンさんである。
何やら険悪なムードが流れ始めると、口を開いたのはライアンさんだった。
「確か、魔獣の咆哮を聞いたと言ってきたのはそなただったな、ギムレット」
「……そうだ。いや、本当に無事でよかったですよ、兵士長!」
「そうだな……だが、魔獣の咆哮を聞いたという割に、グランザウォールへ迫っている魔獣はどこにもいなかったんだが、どういうことだろうか?」
「それは本当ですか、ライアン兵士長?」
ライアンの言葉に確認を求めたのはアリーシャだ。
二人のやり取りを見ていた髭面強面のギムレットの額からは汗が溢れ出している。
「まさかとは思うがギムレット。貴様、兵士長の座を手にするために嘘の情報を伝えたのではあるまいな?」
「そんなことをするわけがない! 私は確かに聞きました、魔獣の咆哮を!」
「そうか。ならば、どのような咆哮だったかを教えてくれないか?」
「ぐっ! そ、それは……」
そこで言い淀んでいるギムレットを見ると、どうやらライアンさんの言っていることが正しいのかもしれないな。
「ちなみに、ギムレットの他に魔獣の咆哮を聞いたものはいるか!」
そう声をあげたライアンさんの問い掛けに名乗り出る者は一人もいない。
俺はアリーシャの屋敷に伝令としてやって来たヴィルさんに小声で確認を取ってみる。
「ヴィルさんは誰から魔獣の話を聞いたんですか?」
「すみません。私も指示として伝え聞いただけでしたので。ただ、アリーシャ様に伝えよと命じたのはギムレットでした」
うわー。これはもう明らかに仕組まれたっぽいな。
おそらくライアンさんは魔獣の咆哮を調べるために魔の森へと近づいたが、それらしき魔獣が見当たらなかった。
このまま戻ってもよかったのだが、万が一を考えてさらに奥へと進んだ時に運悪くオークロードと出くわしてしまったのだろう。
しかし、この選択には一つの疑問が残っているんだよな。
「貴様は知らないかもしれないがな、魔獣の咆哮なんてものは普通、グランザウォールまで聞こえてこないんだよ」
「ま、まさか! そんなはずはない、私は確かに魔獣の咆哮が聞こえると――」
「人伝にでも聞いたのだろうな。だが、実際に魔の森から魔獣が襲来する時は咆哮なんぞあげんのだよ。ただゆっくりと近づいてくる、その姿を視認したところで初めて気づくことが多いのだ」
「……まさか、そんなことが?」
「ギムレットよ。お前は無駄に年を重ねただけで、常に安全な外壁の内側で威張り腐っていたのだな。だからこそ、現場で起きている真実を見過ごしたのだ」
そこまで言われるとギムレットは膝を地面に付けて項垂れてしまった。
なるほど、道理で年の割にレベルが低いわけだ。
「そうなると、ライアン兵士長はどうして嘘と分かっていながら魔の森へ偵察へ向かったのですか?」
そこでアリーシャが俺も考えていた疑問を口にすると、ライアンさんは笑顔を浮かべてはっきりと答えた。
「実際に確かめなければ嘘か本当かは分かりませんからな。魔の森は我々の想像を簡単に上回ってしまいます。今回のオークロードのように」
オークロードの名前が出てくると近くにいた兵士たちがざわつき始めた。
「オークロードってそんなにヤバい相手だったんですか?」
「オークの王ですからね。本来なら私たちだけで倒せるような相手ではないんですよ」
ふむ、そうなるとどのようにして周りに説明するべきかを考えなければならない。
能力を一時的に上げる果物に関しては秘密にしなければならないし、かといってそれなしで勝てる見込みなんてほとんどなかったわけで言い訳が思いつかない。
そんな時、一人だけライアンさんの隣へと歩き出した人物がいた。
「私が協力させていただきました。私は上級職の四重魔導師なんですよ」
場の空気を読んだのか、秋ヶ瀬先生がまさかのアドリブをかましたのだった。
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