第38話 全国大会ー演奏終了

演奏を終えてホワイエに戻ろうとエレベーターから降りると、先生が待っていた。


「タケルくん!とってもいい田園だったよ」


自分でもいい演奏ができている気でいたから、先生からの感想を聞いてホッとする。


「良かった…」

「ね、どうする?発表は夜8時の予定だけど…」

「発表はあとでホームページでいいです。今の自分ができる演奏ができたから、もう、それで」


何より、先生に『いい田園』って言ってもらえたから、もう納得。

やり切った。


「うん。そう言うんじゃないかって思ってた。お肉食べにいかない?」

「お肉?」


予想外の話の展開に、声が上擦る。


「あれ?コンクールの後は、お肉って前に言ってたじゃない。どうせ、お昼もちゃんと食べてないんでしょ」


確かに…本番前は食欲があまり出なくて、軽くサンドイッチで済ませていた。


「でも、ロンバルディ教授のコンサートが」

「うん、開場が6時半で開演が7時。今が3時過ぎだから、ホール近くまで移動して、その近くのファミレスでお肉食べよう!」


なるほど。コンサート前に食べるわけか。


「今朝は早起きしちゃったから、コンサート終わったらロンバルディ教授に挨拶だけして、早くゲストハウスに戻ろうね。明日の午前中のフライトで帰るんでしょ?」

「はい。先生はいつ帰るんですか?」

「私はあと少し行かなきゃいけないところがあって、明後日かな。木曜からレッスン入れてるの」


話の流れで、そのまま会場を出るところまで来て思い出した。


「あ、楠木さん…」

「客席で演奏聴いてるんじゃないかしら?LINE送っておいたら?」

「そうですね」


カバンからスマホを取り出して、機内モードを解除する。


「それに会ったら、きっと彼、タケルくんから離れないわよ」

「え?」

「さ、地下鉄で行こう」

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