8、だんだんエッチになっていく


 俺たちのセックスごっこは緩慢かんまんに、そして徐々に本物めいたものになっていった。 


 小学生中学年に上がって昔のように一緒に遊ばなくなっても、小学校高学年になって徐々に身体の違いが現れ始めても、中学生に上がって完全に思春期に入っても、雨の日も、雪の日も、風の日も、雷の日も、テストの前日でも、陸上の大会の前日でも、俺たちがセックスごっこを欠かすことはなかった。


「テッちゃん!」


 最初はただのお遊びで、


「テッちゃん?」


 徐々にその意味が分かってきて、


「テッ……ちゃん」


 その行為が奇妙な意味を帯びるようになっていった。

 セックスごっこは俺たちにとって決して欠かすことができない儀式のようなものだった。


 そして今、高校二年生になっても、俺たちはセックスごっこに興じている。布団の中で、互いに密着しあって、触れ合い感じあいながら、決して繋がることはない。


「あ……ぅ」


 息苦しいのか、春姫が小さく息を漏らす。その吐息がいやらしいと感じ始めてしまったのは、中学の頃か、あるいは小学校高学年の頃か。


 いっそのこと、春姫の唇を自分の唇で封じてしまいたいと思う。身体を抱き寄せて、服の下に手を入れてしまいたいとも思う。


 一、キスはするのはなし


 俺はそれを躊躇ちゅうちょしてしまう。


 彼女が自分からそれをしない以上、春姫はそれを望んでいない。望んでいないことをしてしまえば、俺は全てを失ってしまうことになる。


 このかすかな営みを失うのは、身体を二つに引き裂かれるように耐え難い。


 服の上から、春姫のおっぱいに手を置く。


「や……ぁ」


 演技なのか分からない、春姫が甘い声を発する。


 俺はこの耽美たんびな時間を失いたくない。


 一時の欲望に負けて、セックスごっこを失ってしまうのはやるせない。俺の理性はこんなところで、屈したりはしない。


 そして鳩時計が鳴って、俺たちはセックスごっこを止める。乳繰り合いの時間が終わり、俺たちは毛布から出る。


「のど乾いちゃったな」


 春姫が言う。


「何か飲み物あるかな?」


「レモン水ならあるけど。それで良いか?」


「うん、甘くないやつなら良いなぁ」


「オッケー、持ってくるよ」


「ありがと」


 いつも通り、俺たちはごく普通の幼なじみに戻る。


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